69 / 313
第一章 巻き込まれたその日は『一粒万倍日』
1-69 仇敵
しおりを挟む
その日のうちに大金貨を増やしておき、翌日、彼に必要なだけを渡した。それなりの数の大金貨と金貨だ。
昨日手にしたばかりの大金貨、「大金貨なんてものはあるのか」と言われて彼自身が用意してきたものなのだ。それが何故今ここに、こんなにあるのか。
彼は手の中のそれをじっと見ていたが、何も言わずに受け取ってくれた。この天から降って湧いたようなチャンスを、クライアントの俺につまらない意見なんかをして逃がす気はないのだ。賢い男だ。
「まあ、今回は上級ポーションをできれば確保、または取り置き。収納袋も取り置きにして、俺が行ける段取りをつけたい。お前って馬とかはどうだ? 扱えるか。金は出してやるから買えるなら時間的なものから馬に乗ってほしいのだが」
ショウは少し帽子の鍔を弄るようにして、考えてから答えた。
「僕は村で馬の世話をしていたりしたので馬には乗れるのですが、僕ら零細な行商人が馬なんか乗っていたら怪しまれますし、いろいろと突っ込まれますので、それもどうかと」
「そうか、それならいい。俺とお前が街まで行く時はフォミオが車に乗せてくれる。それならそう言われんだろう。ちょっとどころではなく目立ってしまうのが難だがな。そもそも黒髪黒目の俺と一緒に行く段階でもうアレだ」
「はは、それはまたそうなのかもしれませんね」
「じゃあ、頼んだぜー」
俺は、前回に引き続きまた桁違いとなった持ち慣れない大金を持たされた青年に対して、気楽な見送りの言葉を投げかけた。その方が彼も気兼ねがなかろうと思ってだ。
まるで決済ぎりぎりの金額の大きな経費をどうするか迷っている部下に対して、肩をポンっと叩いて「そんなものはさっさとハンコを押して飲みに行こう」と部下の迷いを気遣って誘ってくれる上司のような感覚だ。彼もそれを汲んでくれたのか、笑顔で気楽な感じに言ってくれた。
「じゃ、いってきまーす」
本当に聡い青年だ。
こうやって一つ一つ信頼関係を築いていくのは、この異世界も日本も何も変わらない。元々、女将さんの信頼を担保に始めた関係だったのだがな。
まあ俺としては、やろうと思えばスキルでいくらでも増やせる金なんかを持ち逃げされたって、本来何も困らないのだし。
俺はフォミオに言って車を出させて、村人が来ないような森を越えた神殿側の少し先へ行き、さっそくポーションを始めとしたあれこれを袋に詰めて増やしておいたが、袋詰め商品の一万個は相変わらず壮観な眺めだな。
それから収納して、そのうちの一つを取り出してあれこれと検分していると、もう待ち切れなそうなエレが猫なで声を出してくる。
「へえ、新しいお菓子かあ。ちょっと一つ寄越しなさいよ」
「ほらよ」
そして、さっそく奴は齧りついて味見を始め、躍り上がった。
「うんうん、この世界の美味い物もまだまだ捨てたもんじゃないわね、ああ美味しい。って、ブフォオー!」
「どうした、誰もとりゃあせんから落ち着いて食えよ」
「ちがーう‼ ヤバイ! ヤバイわ。カズホ、今すぐ逃げなさい。超ヤバイ奴が来たから」
「は? 何がヤバイって」
「ザムザよ。何故だか知らないけど、あの野郎が高速でこっちに向かってくるの!」
「何ー!」
あの上から読んでも下から読んでもという、山〇山のキャッチフレーズみたいな名前の奴がここへやってくるだとお⁉
「なんでえー」
「知らないわよ。こんなところにわざわざ来たところをみると、多分勇者の仲間であるあんたを殺しに来たんじゃないの。あんたが早く村から出ないと、村が皆殺しになる!
もうどこに逃げたって間に合わないから、このまま神殿方面の奥地にでも行くわよ。こうなったら無駄を承知で戦うしかない」
「く! 今さっき、今日の分のスキルは、うっかり使っちまったよ」
なんてこった、ハズレ勇者カズホ一世一代の不覚。せっかく、あれこれいい感じになってきたところなのによ。
最近はいろいろといい感じだったので思いっきり油断していた、迂闊だった!
フォミオも、もう真っ青だった。あの残虐極まりない無慈悲な、彼の元上官がやってくるのだ。俺の従者になっているのを見つかったら一瞬で始末されてしまうだろう。
「フォミオ、済まないが」
「わかっておりやす~。でも足が震えまする‼」
フォミオの奴はもう見るからにガクガクしていて、どうにもならない状況だが、俺だって突然の事でどうしたらいいのかもうわからないのだ。ただわかっている事が一つ。このままでは、みんな死ぬ。
必死で車を引いて走るフォミオ、路面なんかに構ってはいられない。しかし車が壊れたらふっとんで、そこでレースは終わる。
くそう、あの野郎は空を飛んできていやがるのか。まるで采女ちゃんのようなスキル構成だが、こいつの方がもっとチートなんじゃあないのか。ネームド・バイ・魔王だそうだからなあ。
上から標的の俺達が完全に丸見えだ。真っ直ぐにこちらに向かってきており、明らかに俺達を見据えている体勢だろう。
俺は敵わぬと知りつつも、その空中に浮かんでいる敵を睨みつけながら戦闘態勢を整えた。さっき、土産と一緒に爆弾類を増やしておいたのが不幸中の幸いだが、こんな奴にはたして低級な爆弾が通用するものだろうか。
昨日手にしたばかりの大金貨、「大金貨なんてものはあるのか」と言われて彼自身が用意してきたものなのだ。それが何故今ここに、こんなにあるのか。
彼は手の中のそれをじっと見ていたが、何も言わずに受け取ってくれた。この天から降って湧いたようなチャンスを、クライアントの俺につまらない意見なんかをして逃がす気はないのだ。賢い男だ。
「まあ、今回は上級ポーションをできれば確保、または取り置き。収納袋も取り置きにして、俺が行ける段取りをつけたい。お前って馬とかはどうだ? 扱えるか。金は出してやるから買えるなら時間的なものから馬に乗ってほしいのだが」
ショウは少し帽子の鍔を弄るようにして、考えてから答えた。
「僕は村で馬の世話をしていたりしたので馬には乗れるのですが、僕ら零細な行商人が馬なんか乗っていたら怪しまれますし、いろいろと突っ込まれますので、それもどうかと」
「そうか、それならいい。俺とお前が街まで行く時はフォミオが車に乗せてくれる。それならそう言われんだろう。ちょっとどころではなく目立ってしまうのが難だがな。そもそも黒髪黒目の俺と一緒に行く段階でもうアレだ」
「はは、それはまたそうなのかもしれませんね」
「じゃあ、頼んだぜー」
俺は、前回に引き続きまた桁違いとなった持ち慣れない大金を持たされた青年に対して、気楽な見送りの言葉を投げかけた。その方が彼も気兼ねがなかろうと思ってだ。
まるで決済ぎりぎりの金額の大きな経費をどうするか迷っている部下に対して、肩をポンっと叩いて「そんなものはさっさとハンコを押して飲みに行こう」と部下の迷いを気遣って誘ってくれる上司のような感覚だ。彼もそれを汲んでくれたのか、笑顔で気楽な感じに言ってくれた。
「じゃ、いってきまーす」
本当に聡い青年だ。
こうやって一つ一つ信頼関係を築いていくのは、この異世界も日本も何も変わらない。元々、女将さんの信頼を担保に始めた関係だったのだがな。
まあ俺としては、やろうと思えばスキルでいくらでも増やせる金なんかを持ち逃げされたって、本来何も困らないのだし。
俺はフォミオに言って車を出させて、村人が来ないような森を越えた神殿側の少し先へ行き、さっそくポーションを始めとしたあれこれを袋に詰めて増やしておいたが、袋詰め商品の一万個は相変わらず壮観な眺めだな。
それから収納して、そのうちの一つを取り出してあれこれと検分していると、もう待ち切れなそうなエレが猫なで声を出してくる。
「へえ、新しいお菓子かあ。ちょっと一つ寄越しなさいよ」
「ほらよ」
そして、さっそく奴は齧りついて味見を始め、躍り上がった。
「うんうん、この世界の美味い物もまだまだ捨てたもんじゃないわね、ああ美味しい。って、ブフォオー!」
「どうした、誰もとりゃあせんから落ち着いて食えよ」
「ちがーう‼ ヤバイ! ヤバイわ。カズホ、今すぐ逃げなさい。超ヤバイ奴が来たから」
「は? 何がヤバイって」
「ザムザよ。何故だか知らないけど、あの野郎が高速でこっちに向かってくるの!」
「何ー!」
あの上から読んでも下から読んでもという、山〇山のキャッチフレーズみたいな名前の奴がここへやってくるだとお⁉
「なんでえー」
「知らないわよ。こんなところにわざわざ来たところをみると、多分勇者の仲間であるあんたを殺しに来たんじゃないの。あんたが早く村から出ないと、村が皆殺しになる!
もうどこに逃げたって間に合わないから、このまま神殿方面の奥地にでも行くわよ。こうなったら無駄を承知で戦うしかない」
「く! 今さっき、今日の分のスキルは、うっかり使っちまったよ」
なんてこった、ハズレ勇者カズホ一世一代の不覚。せっかく、あれこれいい感じになってきたところなのによ。
最近はいろいろといい感じだったので思いっきり油断していた、迂闊だった!
フォミオも、もう真っ青だった。あの残虐極まりない無慈悲な、彼の元上官がやってくるのだ。俺の従者になっているのを見つかったら一瞬で始末されてしまうだろう。
「フォミオ、済まないが」
「わかっておりやす~。でも足が震えまする‼」
フォミオの奴はもう見るからにガクガクしていて、どうにもならない状況だが、俺だって突然の事でどうしたらいいのかもうわからないのだ。ただわかっている事が一つ。このままでは、みんな死ぬ。
必死で車を引いて走るフォミオ、路面なんかに構ってはいられない。しかし車が壊れたらふっとんで、そこでレースは終わる。
くそう、あの野郎は空を飛んできていやがるのか。まるで采女ちゃんのようなスキル構成だが、こいつの方がもっとチートなんじゃあないのか。ネームド・バイ・魔王だそうだからなあ。
上から標的の俺達が完全に丸見えだ。真っ直ぐにこちらに向かってきており、明らかに俺達を見据えている体勢だろう。
俺は敵わぬと知りつつも、その空中に浮かんでいる敵を睨みつけながら戦闘態勢を整えた。さっき、土産と一緒に爆弾類を増やしておいたのが不幸中の幸いだが、こんな奴にはたして低級な爆弾が通用するものだろうか。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
192
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる