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第四章 鍛冶師の国

第二百二十五話 新しい道具

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 そしてゆっくりと慎重に買うと決めた物を見比べて選んでいたナギだったが、1時間ほどかけて悩んだ末にようやく決めた物を店員のお婆さんに注文する。

「えっと、この『鉄鋼の鎚』と『砂岩の砥石』に『上級砥石』を2個ずつ。後は火箸と細工用の彫刻をワンセットください」

「あいよ。少し待ちな」

 注文内容を確認したお婆さんは返事をすると頼まれた物を取りに奥へ取に向かった。
 しばらくするとお婆さんは山積みの商品を持って戻って来た。その光景にナギは心配そうにしていたが、本人が苦も無く持って歩いているのを見て杞憂だったと判断した。
 それを証明するようにお婆さんは疲れた様子すら見せずにカウンターに置いて説明を始めた。

「これで注文の品で間違いないかね?」

「はい、間違いないです」

「なら一応効果の説明だけでもしておくかね。こっちの『鋼鉄の鎚』は文字通り素材に鋼鉄が使用されていて普通の土より耐久度に優れている。硬度も高いから耐久値の減りも遅い、半分以上減ったら修理に持ってくる程度で問題ないと思うさね」

「なるほど、分かりました。耐久値の確認は一週間とかの間隔で大丈夫ですか?」

「その位で問題ないよ。なんなら月に一度でもそこまでは問題ないだろうけど、まぁこまめに確認しておいて悪い事はないからね」

 改めて説明された効果にナギは質問するとお婆さんは小さく頷きながらそう言った。それを聞いたナギもなるほど…と納得した様子で頷いていた。今回買うことにした鎚は耐久度を優先した物を選んでいた。
 説明にあるようにひたすら固く高い耐久値を誇る『鋼鉄の鎚』は、こまめに道具の耐久値を確認するような性格をしていないナギにはピッタリの道具であった。再度説明を受けたことでナギも改めて選んでよかったと思って頷いていたのだ。

 そして一つ目の説明を終えれば流れるように残りの説明にお婆さんは移った。

「次は『砂岩の砥石』これは少し特殊な砥石なのだが…よく目を付けたね。値段も他のに比べて5900Gと高めの値段にしてあるはずなんだがね」

「名前と効果が面白そうだったので、すぐには使えなくても後々には役立ちそうだったので…つい?」

「はっはっはっ!そんな理由で使えるかもわからないものを買うなんてあんたも酔狂だねぇ。っとまずは効果の説明だったね。この『砂岩の砥石』は名の通りに砂岩、砂が岩になった物を特殊な加工を経て砥石となった物だね。効果は砂のようにザラザラした表面が目に見えない凹凸に入り削り、下手な砥石よりも表面が綺麗になりやすいのが特徴だね」

「なるほど、書かれていた説明と同じですね…でも、この値段的にそれだけではないですよね?」

 お婆さんが説明として書かれていた内容とほぼ同じ事を言うと聞いたナギはニヤリと笑みを浮かべて確信を持って聞き返した。
 そのナギの質問にお婆さんも同じような楽しそうな笑みを浮かべた。

「もちろんだともさ。これは購入を決めた物だけに説明している硬貨なんだがね。この『砂岩の砥石』は使用後にでは破片を集めて上に賭けると耐久値が回復するんだよ。他にも採掘する時に出て来る石があるのは知っているね?」

「それはもちろん、自分でも採掘しますから」

「なら教えても大丈夫だね。その石を鎚で砕き、調薬スキルで磨り潰して砂状にしてこの砥石に振りかけると…面白い変化が起きるよ?もちろん石の品質などによって変わるがね!」

「⁉」

 いままではゴミだと思って投石などに使って消費していた石の想定外の使用方法にナギは心底驚いていた。
 ただ瞬時に冷静になると言われた事を整理していろいろ考えて、一応ねんのために確認しておこうと慎重に口を開いた。

「…ちなみに詳しく教えてもらえたりは?」

「職人なら自分で調べな」

「ですよね…」

 本当にもしかしたら…と言う小さな希望で聞いてみたがいい笑顔で断られたナギは力なく苦笑いを浮かべていた。
 もっとも聞けないなら仕方ないと切り替えてナギは言われた事からある程度の考えを纏めることはできていたが、その考えが正しいか確認しても目の前のお婆さんはきっと答えてはくれないと判断して口に出す事はしなかった。
 そして二つ目の説明を終えたお婆さんは他の者についても説明を続けた。

 とは言っても他の『上級砥石』は文字通り今まで使っていた砥石がグレードアップした物で、火箸や彫刻刀も別に特殊な効果があるような物でもなく説明はすぐに終わった。

「…と言う感じだね。全部まとめて29600Gってところだね」

「やっぱり高いですね」

「これでも紹介状があるから値引きしてんだよ。文句言わないで代金払いな」

「はい…」

 改めて言われた金額に少し怖気付いていたナギだったがお婆さんの強い言葉に押されて支払いを済ませた。
 ただこれで所持金の大半が無くなってしまったのでナギは本気で金を稼ぐ方法に悩むことになるのだった。

「とりあえず、この道具たちの説明はさっきした通りさね。もし大きく破損してしまった時は持って来れば修理できるかギルは完璧に直してやるさ」

「それは心強いですね!」

 正直なところ壊した時に買い直しになるとナギとしても懐事情やらいろいろと厳しかったので、このお婆さんからの話は本当にありがたかった。
 そして今の話しからここにある道具には目の前のお婆さんの手が入っていることが理解できて、認識をただの店員としてから職人の先輩として変えた。とは言っても露骨に態度を変えても逆に失礼になるのでナギは自分の意識だけを変えて態度を変えることはしなった。

 それから買った道具を丁寧に確認しながらアイテムボックスに仕舞ったナギは楽しそうに世間話に興じていた。

「それでせっかくなので聞きたいんですけど、この辺のフィールドで採れる鉱石とか教えてもらえませんか?」

「こんだけ買ってくれたしね。その位の情報なら問題ないよ。まずはそうさね~」

 世間話と言うよりも今後の活動のための情報収集のような形の質問で、お婆さんも高額のまとめ買いをしてくれたナギに対して心良くいろいろと教えてくれた。
 しかも流れで加工しやすい素材の情報やら倒しやすく言い素材を落とす魔物の住処などの情報も得られ、最終的にはこの街での美味しいご飯やなんかの雑談になっていた。
 でも楽しく話して満足のいく買い物の出来たナギは予定もあったので適当なところで切り上げてログアウトして行くのだった。
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