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第1章
3.祈り
しおりを挟む父王には最初は当然反対された。
けれどオレが珍しく譲らなかったので、結局ルイスが少しでも怪しい素振りをしたら始末するように言われはしたものの、ルイスを城に置く事は許された。責任を持って、オレが全てを管理する約束で。
それは良かったのだが――――……。
連れてきてから、もう2晩。ルイスは高熱を出して、ほとんど意識が無いまま、ベッドに伏せている。
オレの部屋に寝かせる事は許されなかったので、隣の空いていた部屋にベッドを運ばせた。色々な雑務の合間に、度々そこを訪れたが、何度かに一度、目を開ければいい方。
念のため、信頼できて剣の心得のある侍女シーラと軍医のクロアに、看病に当たらせている。ルイスが怪しい素振りをしたらこの2人の独断で始末できるようにと、それは父王の指示。ルイスをオレの部屋の隣に置くための、オレと父の妥協点だった。
今はオレ自身も狙われているので、部屋に置いてルイスが巻き込まれたら困るので、逆の意味でルイスの護衛としてもありだと思い、受け入れた。2人だけには、両方の意味からの護衛だと伝えてある。
部屋の扉を開けると、シーラがオレを迎え入れた。
「王子」
「どうだ?」
「先程少し目をさましていたんですが……」
「別に良い。熱は?」
「変わらず高いままです」
「……そうか」
ルイスのベッドの側に行き、椅子に腰かける。
ルイスの熱は、おそらく、獣の毒のせい。
獣の種類が分かれば、適切な解毒作用のある薬を飲ませる事が出来るが、今は全般の毒に効く薬を与えている為、なかなか劇的には効かない。
特殊な獣だったのかもしれない。
あの付近の森でうろついている獣が居ないかを、手練れの者達を捜索にやらせたけれど、それらしいのは見当たらなかった。
「――――……」
荒い呼吸。
血の気を失った、白い肌。
深いため息をついてしまう。
早く、熱が下がらないと、華奢な体が参ってしまいそうで、嫌な想像に眉が寄る。
そっと額に触れると。
ものすごく熱い。
「……こんなに熱くて、大丈夫なのか?」
シーラにそう聞くと、熱自体は体が抵抗してる証だから問題ないという答え。
けれど、あまりに続くと体に良くはないので。早く少しでも下がると良いんですけれど、と、視線を落とす。
その時。
「――――……あ……」
不意に、小さな声が聞こえた。
「ルイス?」
顔を見ると、薄く、瞳が開いた。
「……アレ、クス……」
辛そうな声に、オレは、ルイスの手をそっと握った。
「無理に声を出さなくていい」
「……ん」
「シーラ、冷たいタオルをくれ」
「はい」
シーラを待つ間、ルイスを見つめる。
「どこか痛むか?」
「……」
小さく、首を振る。
「アレックス王子、どうぞ」
「ああ。ありがとう」
シーラから手渡されたタオルを、ルイスの額に置く。
――――……この熱に、タオルを置いても気休めな気がするが。
ルイスが瞳を閉じて、少しだけ微笑みを作った。
「きもちいい……」
「眠ってろ。また後で来るから」
「――――……」
オレを見つめて微かに頷くと、再び瞳を伏せる。
――――……このまま開かなかったら、どうしようか。
森で出会ってたった2日。
どんな人間かも分からないのに。
早く治れと、心から祈る自分。
どんな人間なのか。
何であそこに居たのか。
記憶が無いというのはどういう事なのか。
最初に城に連れてきた時、もう、馬から下ろした時点で意識がほとんど無かったので、何も話せていない。
早く、治ってもらい、ルイスと、話したい。
こんな青ざめた顔ではなく、笑った顔を見たい。
この2日間、ずっと、祈っている。
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