40 / 43
清らかな歌声と地獄
しおりを挟む
「ルーティ、わたくしのフードをかぶせて頂戴」
「畏まりました」
手を伸ばして、マルグレーテがリリーアリアのフードを被せると、その姿が掻き消えた。
「歌ってくださる?双子ちゃん」
戦場に似つかわしくない、少女達の聞きなれない歌声が響き始める。
そして、その声とは別に、朗々とした少女の声が響く。
「遥か暗き宙、遠き場所に漂いし星よ、我が願いに応じて、敵を討ち、殲滅せよ。降り注げ、メテオレイン」
リリーアリアの声に気づいたヴォルフガングが、父と母と、そしてその間にいる筈のリリーアリアを振り返る。
姿を消したリリーアリアの足元に、ぱた、ぱたたっと音を立てて、血の雫が落ちた。
「父上!」
「黙れ、前を向け」
軍勢は勢いよく平原の中央に近づき、超えてきていた。
まずは騎馬隊が前進して、その後ろを歩兵隊が走って追ってきている。
そろそろ時間切れか、とレオンハルトが考え始めた時、ぶるりと空気が震えた。
手を繋いでいた兵士達は、その空気の異変に気がついたが、馬を駆っている敵兵は気づかない。
だが、馬達は狂乱した。
嘶き、前足で空を掻き、乗り手を振りほどいた。
上手く背中から落とせた馬達は、そのまま何処かへ駆けていく。
一気に騒乱が起き、人馬が入り乱れて騒然となっている。
騎士団長の1人が叫んだ。
「陛下、これは好機ですぞ!」
「待て。動くでない」
だが、冷たい帝王の声が響き、それが何故なのかすぐ分かる事になる。
空に巨大な炎の塊が幾つも浮かんでいた。
「絶対に逃げるな、手を放すな」
と命令を受けた時は、奇妙だと思ったり、中には鼻で笑う者もいた、のだが、実際には皆声を失い立ち竦んでいた。
少女達の歌声は続いている。
まだ、まだですわ、まだ倒れないで。
リリーアリアは自分を叱咤していた。
まず、イメージを形にするための呪を唱えた時、身体に衝撃が走り、鼻血が顎まで伝った。
その後も、喉の奥から血がこぽりと溢れて、呼吸をするにはそのまま飲み込むしかなく、飲みきれない血が口端から
滴って、地面に血だまりを作った。
幼い身体では耐え切れないかもしれない、とは思っていたが、今はただ願うしかない。
呼び出した星達は、炎を纏って地表に近づいている。
敵兵たちは騎馬隊の馬が暴れ回って、陣形が崩れているのに、後続の部隊も次々後ろから来る兵に押し流され
平原で立ち往生していた。
逃げようにも逃げられず。
最初は巨大すぎて距離感をつかめなかった炎の塊が、とてつもなく巨大だと気づいた頃には、もう逃げ場が無かった。
大小様々な炎の塊が、敵兵の上に降り注ぐ。
それは戦場を多い尽くす炎の矢だった。
ある者は砕かれ、潰され、炎に焼かれる。
その全てから逃れたと思ったものの、地面に衝突した時の礫や土くれで命を落としていく。
目の前で起きている事に、恐怖した兵士達も動けないまま、それを見続けていた。
それはまさに地獄というに相応しい光景だった。
もし、帝王が止めずに、または逆らって戦場に躍り出ていたら、命は無かった。
それ程近くにも幾つかの星は落ちている。
双子達は、頭がくらくらし始めると、繋いでいないほうの手でポケットに入れていた紫の石を握って、魔力を追加する。
マルグレーテは、止めたい思いと戦いながら、ただ、足元の血溜まりと目の前の地獄を泣きながら目に焼き付けた。
星の落下はまだ止まない。
生き残った者も、逃げ切れはしなかった。
平原の下にある空洞にまで達し、平原にぽっかりと亀裂が走り、辛うじて生き延びた者も飲み込まれていく。
あれだけいた兵士たちが、炎と岩と亀裂に沈んでいた。
「追撃を…」
細い声が響き、握っていた娘の手から力が抜けた。
「良くやった、我が娘よ」
かけた声が届いたかどうか。
アンナマリーが抱きとめた幼い娘は、口と鼻から夥しい血を流していた。
「畏まりました」
手を伸ばして、マルグレーテがリリーアリアのフードを被せると、その姿が掻き消えた。
「歌ってくださる?双子ちゃん」
戦場に似つかわしくない、少女達の聞きなれない歌声が響き始める。
そして、その声とは別に、朗々とした少女の声が響く。
「遥か暗き宙、遠き場所に漂いし星よ、我が願いに応じて、敵を討ち、殲滅せよ。降り注げ、メテオレイン」
リリーアリアの声に気づいたヴォルフガングが、父と母と、そしてその間にいる筈のリリーアリアを振り返る。
姿を消したリリーアリアの足元に、ぱた、ぱたたっと音を立てて、血の雫が落ちた。
「父上!」
「黙れ、前を向け」
軍勢は勢いよく平原の中央に近づき、超えてきていた。
まずは騎馬隊が前進して、その後ろを歩兵隊が走って追ってきている。
そろそろ時間切れか、とレオンハルトが考え始めた時、ぶるりと空気が震えた。
手を繋いでいた兵士達は、その空気の異変に気がついたが、馬を駆っている敵兵は気づかない。
だが、馬達は狂乱した。
嘶き、前足で空を掻き、乗り手を振りほどいた。
上手く背中から落とせた馬達は、そのまま何処かへ駆けていく。
一気に騒乱が起き、人馬が入り乱れて騒然となっている。
騎士団長の1人が叫んだ。
「陛下、これは好機ですぞ!」
「待て。動くでない」
だが、冷たい帝王の声が響き、それが何故なのかすぐ分かる事になる。
空に巨大な炎の塊が幾つも浮かんでいた。
「絶対に逃げるな、手を放すな」
と命令を受けた時は、奇妙だと思ったり、中には鼻で笑う者もいた、のだが、実際には皆声を失い立ち竦んでいた。
少女達の歌声は続いている。
まだ、まだですわ、まだ倒れないで。
リリーアリアは自分を叱咤していた。
まず、イメージを形にするための呪を唱えた時、身体に衝撃が走り、鼻血が顎まで伝った。
その後も、喉の奥から血がこぽりと溢れて、呼吸をするにはそのまま飲み込むしかなく、飲みきれない血が口端から
滴って、地面に血だまりを作った。
幼い身体では耐え切れないかもしれない、とは思っていたが、今はただ願うしかない。
呼び出した星達は、炎を纏って地表に近づいている。
敵兵たちは騎馬隊の馬が暴れ回って、陣形が崩れているのに、後続の部隊も次々後ろから来る兵に押し流され
平原で立ち往生していた。
逃げようにも逃げられず。
最初は巨大すぎて距離感をつかめなかった炎の塊が、とてつもなく巨大だと気づいた頃には、もう逃げ場が無かった。
大小様々な炎の塊が、敵兵の上に降り注ぐ。
それは戦場を多い尽くす炎の矢だった。
ある者は砕かれ、潰され、炎に焼かれる。
その全てから逃れたと思ったものの、地面に衝突した時の礫や土くれで命を落としていく。
目の前で起きている事に、恐怖した兵士達も動けないまま、それを見続けていた。
それはまさに地獄というに相応しい光景だった。
もし、帝王が止めずに、または逆らって戦場に躍り出ていたら、命は無かった。
それ程近くにも幾つかの星は落ちている。
双子達は、頭がくらくらし始めると、繋いでいないほうの手でポケットに入れていた紫の石を握って、魔力を追加する。
マルグレーテは、止めたい思いと戦いながら、ただ、足元の血溜まりと目の前の地獄を泣きながら目に焼き付けた。
星の落下はまだ止まない。
生き残った者も、逃げ切れはしなかった。
平原の下にある空洞にまで達し、平原にぽっかりと亀裂が走り、辛うじて生き延びた者も飲み込まれていく。
あれだけいた兵士たちが、炎と岩と亀裂に沈んでいた。
「追撃を…」
細い声が響き、握っていた娘の手から力が抜けた。
「良くやった、我が娘よ」
かけた声が届いたかどうか。
アンナマリーが抱きとめた幼い娘は、口と鼻から夥しい血を流していた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
671
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる