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第35話

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「おはよう真樹。今日もいい天気だって。」


 薄目を開けると愛しい人が居て、手を伸ばすと抱き締めてくれる。


「眠たいね。でももう七時だよ。」
「……ん、ねむい……」
「可愛い」


 逞しい胸に顔を埋めると背中をポンポンと軽く叩かれる。


「起きないと遅刻するんじゃないかな。」


 それを聞いて一気に覚醒した。
 いつかの日みたいに飛び起きると、彼は驚いていて、俺も驚く。


「あ、寝癖。可愛いね、跳ねてる。」
「っ!見ないで!」


 掛け布団を頭から被り、そのまま洗面所に逃げ込んだ。
 水で髪を濡らしてついでに顔を洗う。
 歯を磨いて掛け布団を寝室に戻し、リビングに行くと美味しそうなご飯が並んでいた。


「おはよう、真樹。」
「おはようございます。凪さん」


 凪さんに番になりたいと言ってから、早一ヶ月。
 両親とは殆ど絶縁状態で、あれ以来一切連絡を取っていない。

 そして、凪さんから頬の痣や俺の心の傷が癒えるまでは、何もせずに家でゆっくり過ごしてほしいと言われずっと家にいたけれど、漸く今日俺は仕事に復帰することになった。

 ‪アルファ‬の本能からか、働かないでと言う彼と話をして、なんとか条件付きで許可が出たのだ。
 その条件というのが、元いた部署ではなく、凪さんの秘書になる、ということ。
 これは四六時中一緒にいたいから、という凪さんの思いである。完全に公私混同。
 学生の頃、取れる資格は何でも取っておこうと、秘書検定を受けていて良かった。


 けれど、一つだけ不満がある。


「会社では凪さんって呼べないんですよね……。ちょっと寂しいです。」
「……真樹はどうしてそう、可愛いことを言うんだ。二人きりの時なら呼んでくれて構わないよ。」
「いえ。混ざってややこしくなりそうです。家でも役職で呼んだ方がいいんですかね。どうですか?専務。」
「やめてくれ」


 真顔で返事をされて思わずクスクスと笑ってしまう。
 彼もつられるように笑って、一緒に食事をとると支度を済ませ、いつでも出られるようにした。


「真樹」
「はい──んっ!」


 テレビを見ていた彼に呼ばれ、返事をして近付くと腰に腕が周り抱き寄せられ、唇が重なる。
 それが段々と深くなって、舌を絡め合い上顎を撫でられ、小さく息を吐くと舌を甘噛みされ離れていく。


「さあ、そろそろ行こうか。」
「ん、は、はい……」


 体が熱くなる。
 出勤前にするなんて、照れてしまうからやめてほしい。

 ドキドキしてうるさい心臓を、胸辺りをトントンと叩いて落ち着かせる。
 秘書になるんだから前みたいなラフな格好では駄目で、びしっとスーツを着てビジネスバッグを持ち、凪さんと一緒に家を出た。
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