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第42話 再びグラッセラへ
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舞踏会が始まるまで、残り二週間。
中でも苦労したのはドイル様だろう。
貴族でありながらこの手のパーティーには無縁で、先代当主もそういった公の場にほとんど姿を見せなかったらしい。一応、幼少期からひと通りの作法は習っているが、実戦経験がないので緊張しているようだった。
ちなみに、服もない状況だったので、俺はドイル様やブラーフさんたちと一緒に商業都市グラッセラへと足を運び、仕立屋を訪ねる。
ちなみにエリナは留守番だ。
突然の依頼で、しかも期限が短いということから断られるかもしれないと危惧していた。
しかし、店主から返ってきたのは意外な言葉であった。
「他ならぬあんたの頼みだ。最優先で最上級の物を仕上げるよ」
満面の笑みでそう言ってくれたのだ。
しかも、その笑みはどうも俺に向けられているようで……
「あんたがエイゲンバーグ商会の連中をぶちのめしてくれたおかげでみんな商売がやりやすくなったって喜んでいるんだ。うちだってそうだよ。だからそのお礼だ」
「あ、ありがとうございます」
「いい仕事だったみたいだね、ジャスティン」
「さすがですな、ジャスティン殿」
「い、いや、偶然ですよ」
謙遜でもなんでもなく、これは純然たる事実だ。
あの時はまだ舞踏会の件を耳にしていなかったし、何よりあんなあくどい方法で商売をやっている連中を国家の治安を守るのが役目である騎士としては放っておけない。
……ただ、あの事件の背後には商会から金をもらってトラブルに目をつむっていた騎士の影もあるんだよな。ここは国内でもトップクラスの大都市なので、王都ほどではないがまとまった数の騎士が常駐している――が、その中で本来の騎士の役目をまっとうしていた者は数えるほどしかいなかったらしい。
これには国王陛下も激怒し、グラッセラ勤務の騎士たちは厳罰となった。特に上の立場の者は率先して悪事に加担としたとして監獄に送りとなったらしい。まあ、自業自得というヤツだな。そいつらのせいで国が負った経済的なマイナス要素は計り知れないわけだし。
ドイル様のサイズを計り終え、受取日を決めてから仕立屋から外に出てみる。
改めて前に訪れた時よりも人々の表情が明るいように映った。
「町の雰囲気が以前と比べて変わりましたな」
「えっ? 分かるんですか?」
「屋敷の用事で年に数回は訪れますので」
確かに、いろいろと買い揃えるには便利な町だからな。
店舗の質としては王都の方が上なのだろうが、こちらはとにかく数が多い。マニアックな専門店も多く、その手に関心の高い人にとっては垂涎ものの逸品が溢れているとブラーフさんが教えてくれた。
それにしてもやけに詳しいが……たぶん、屋敷の仕事のついでに自分の趣味に関する店を見て回っているな?
用件を済ませると、すぐに屋敷へと戻る。
「帰ったらすぐにダンスの練習をしないと」
「その前に少しご休憩をなされては?」
「ブラーフさんの言う通りですよ。焦る気持ちは分かりますが、当日に向けて体調を万全にしておかないと」
「分かってはいるんだけどねぇ……」
ドイル様の表情には不安さがにじみ出ていた。
無理もない。
とにかく準備期間が少ないので、ひとつひとつの課題に対して迅速に対応していかなくてはならないのだ。
ある程度経験を積んだ方なら問題ないのだろうが、ドイル様はまだ十六歳。本来ならば当主となる年齢ではないのだ。
それは周りの使用人たちも同じだった。
先代当主の頃から、公の舞台での活動が少なかった。辺境領地ということもあって、呼ばれないというケースも多かったという事実もここへ来て大きく影響を及ぼしている。
俺にも何か、護衛以外でお手伝いできることがあればいいのだが。
思い悩んでいると、
「あれ?」
馬車の窓から外を眺めていたドイル様が何かを発見して声をあげる。
中でも苦労したのはドイル様だろう。
貴族でありながらこの手のパーティーには無縁で、先代当主もそういった公の場にほとんど姿を見せなかったらしい。一応、幼少期からひと通りの作法は習っているが、実戦経験がないので緊張しているようだった。
ちなみに、服もない状況だったので、俺はドイル様やブラーフさんたちと一緒に商業都市グラッセラへと足を運び、仕立屋を訪ねる。
ちなみにエリナは留守番だ。
突然の依頼で、しかも期限が短いということから断られるかもしれないと危惧していた。
しかし、店主から返ってきたのは意外な言葉であった。
「他ならぬあんたの頼みだ。最優先で最上級の物を仕上げるよ」
満面の笑みでそう言ってくれたのだ。
しかも、その笑みはどうも俺に向けられているようで……
「あんたがエイゲンバーグ商会の連中をぶちのめしてくれたおかげでみんな商売がやりやすくなったって喜んでいるんだ。うちだってそうだよ。だからそのお礼だ」
「あ、ありがとうございます」
「いい仕事だったみたいだね、ジャスティン」
「さすがですな、ジャスティン殿」
「い、いや、偶然ですよ」
謙遜でもなんでもなく、これは純然たる事実だ。
あの時はまだ舞踏会の件を耳にしていなかったし、何よりあんなあくどい方法で商売をやっている連中を国家の治安を守るのが役目である騎士としては放っておけない。
……ただ、あの事件の背後には商会から金をもらってトラブルに目をつむっていた騎士の影もあるんだよな。ここは国内でもトップクラスの大都市なので、王都ほどではないがまとまった数の騎士が常駐している――が、その中で本来の騎士の役目をまっとうしていた者は数えるほどしかいなかったらしい。
これには国王陛下も激怒し、グラッセラ勤務の騎士たちは厳罰となった。特に上の立場の者は率先して悪事に加担としたとして監獄に送りとなったらしい。まあ、自業自得というヤツだな。そいつらのせいで国が負った経済的なマイナス要素は計り知れないわけだし。
ドイル様のサイズを計り終え、受取日を決めてから仕立屋から外に出てみる。
改めて前に訪れた時よりも人々の表情が明るいように映った。
「町の雰囲気が以前と比べて変わりましたな」
「えっ? 分かるんですか?」
「屋敷の用事で年に数回は訪れますので」
確かに、いろいろと買い揃えるには便利な町だからな。
店舗の質としては王都の方が上なのだろうが、こちらはとにかく数が多い。マニアックな専門店も多く、その手に関心の高い人にとっては垂涎ものの逸品が溢れているとブラーフさんが教えてくれた。
それにしてもやけに詳しいが……たぶん、屋敷の仕事のついでに自分の趣味に関する店を見て回っているな?
用件を済ませると、すぐに屋敷へと戻る。
「帰ったらすぐにダンスの練習をしないと」
「その前に少しご休憩をなされては?」
「ブラーフさんの言う通りですよ。焦る気持ちは分かりますが、当日に向けて体調を万全にしておかないと」
「分かってはいるんだけどねぇ……」
ドイル様の表情には不安さがにじみ出ていた。
無理もない。
とにかく準備期間が少ないので、ひとつひとつの課題に対して迅速に対応していかなくてはならないのだ。
ある程度経験を積んだ方なら問題ないのだろうが、ドイル様はまだ十六歳。本来ならば当主となる年齢ではないのだ。
それは周りの使用人たちも同じだった。
先代当主の頃から、公の舞台での活動が少なかった。辺境領地ということもあって、呼ばれないというケースも多かったという事実もここへ来て大きく影響を及ぼしている。
俺にも何か、護衛以外でお手伝いできることがあればいいのだが。
思い悩んでいると、
「あれ?」
馬車の窓から外を眺めていたドイル様が何かを発見して声をあげる。
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