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本編
27話:固定観念にとらわれていたことに気付かされました
しおりを挟むラシオスが殺されるかもしれない。
ミントの推測を聞いて、エリルは背筋が寒くなるのを感じた。
もしそうなれば、フィーリアは婚約者を失い、ローガンの求婚を断る理由がなくなる。
現に二人は仲が良い。学院内で一緒にいる様子を見掛けたが、ラシオスといる時より自然な笑顔を見せていた。
今までフィーリアがあまり笑わなかったのは、感情が乏しいわけではなく、常に緊張していたから。第二王子の婚約者として相応わしい振る舞いを追究した末のことだったのだ。
その緊張をローガンが取っ払った。
他国の王子は身分は高いが、いわば部外者である。彼に対して敬意は表するが、下手に取り繕う必要はない。
皮肉なことに、ラシオスと同じように、フィーリアも婚約者以外には自然な笑顔が見せられるのだ。
「……んん? それは、つまり」
何か掴めそうな気がしてきたが、今はとにかくラシオスの身の安全が第一である。早急に警備を増やすかどうにかして、彼が『不幸な事故』に遭わないようにしなくてはならない。
「直接ラシオス様に忠告しようかしら」
「学院内でラシオス様に近付いたらヴァイン様に気付かれちゃうんじゃない~?」
「そ、それもそうね」
ヴァインはエリルより数段腕が立つ。毎回事前に気配に気付けず、接近を許してしまっている。
あのやり取りをした直後にラシオスに助言し、結果彼の周りに護衛が増えたりしたら、エリルがヴァインを警戒していることが本人にバレてしまう。いや、警戒させた上で下手に行動を起こさせないように常時潜んでいるのだ。そう考えると恐ろしい。
「じゃあ、王宮に侵入するしかないですね。ちょっとリスクが高いけど仕方ありません」
しかし、学院以外で普段ラシオスに接触する機会はない。腐っても王子(二回目)。学院はともかく、王宮には手練れの騎士がゴロゴロいる。無断で忍び込むのはかなり難しい。
「ていうかぁ、使用人同伴禁止の貴族学院は仕方ないとして、王宮には堂々と許可貰って入ればいいんじゃない~?」
「えっ」
「え?」
「…………」
「…………」
ミントの言葉に、エリルが固まった。
最初から無許可で忍び込むことしか頭になかったが、これでも名門スパルジア侯爵家の使用人である。フィーリアの父親は王宮に出仕しているので、届け物と称すれば怪しまれることはないだろう。
「そ、その手があったか……!」
「エリルって、そーゆーとこ天然よねぇ」
ケラケラと笑われ、エリルは自分の考え方が凝り固まっていたことを恥じた。
「お嬢様自身はどうお考えなのかしら」
「どーゆーこと~?」
「何か事が起きる前にお嬢様がローガン様を選んでしまえば、ラシオス様が狙われる危険もなくなるでしょ?」
「それもそうね~」
ラシオスは腐っても王子(三回目)。普段は彼をコキ下ろしていても敬意は払っている。フィーリアとの婚約云々は別にしても、彼には無事でいてもらいたいとエリルは考えていた。
「でも、ラシオス様が婚約破棄を許すかしら~?」
「…………許さないでしょうね」
ラシオスのフィーリアへの想いは常軌を逸している。その異常性はエリルとラシオスの側近や従者といった限られた者しか知らないが、想いの強さだけは皆知っている。嫌われていると感じているのはフィーリアだけ。
もし本当にそんな事態になったら、ラシオスはどのような行動に出るのだろうか。
「ま、明日王宮に行ってらっしゃい。昼間の仕事は代わりにやっておくから」
「いつも悪いわねミント」
「いいのよ~、楽しいもの」
専属メイドの仕事は居室の清掃を始め、フィーリアの私物の管理や手入れなど多岐に渡る。普通のメイドならば数人がかりでなければ終わらない量の仕事でも、ミントは一人で楽々こなしてしまう。
これが原因で、今まで働いていたお屋敷でメイド仲間とトラブルになったこともあるらしい。出る杭は打たれるのが世の常である。
エリルはこの頼もしい同僚を誇りに思っていた。
彼女が仕事を肩代わりしてくれるおかげで、エリルは外で活動することが出来るのだから。
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