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第一章

結局のところ、やる気があるやつは応援したくなるのが人情。――18

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「本当にありがとうございます!」

 放課後の校庭。

 俺を呼び出したレイシーが、ペコリと頭を下げた。

「今日の模擬戦で勝てたのは、全部全部ロッドくんのおかげです! 『魔法のスクロール』やピートをいただいたうえに、戦い方まで教えてもらって、何度お礼を言っても足りません!」
「いや、エイシス遺跡の攻略では俺にもえきがあったし、戦い方を教えたって言っても方法だけ。俺の教えをかたちにしたのはレイシーだ」
「ロッドくん……」
「今日の勝利は、レイシーの努力の賜物たまものまぎれもなくレイシーの実力だよ」

 俺が事実を伝えると、レイシーは照れたようにはにかんだ。

「それで、用事ってなんだ?」

 レイシーが俺を呼び出したのは、用事があるかららしい。

 尋ねると、レイシーは顔をうつむける。

「その……リーリーの育成を手伝っていただいたとき、『必ずお礼をする』と約束しましたよね?」
「ああ。けど、わざわざお礼をしてくれなくても――」
「いえ! 是非ぜひ! 是非ぜひさせてください!」
「おおうっ!? そ、そうか」

 ガバッと顔を跳ね上げて、レイシーが身を乗り出してきた。

 その勢いに、俺は狼狽うろたえる。

 なにを必死になっているんだろう? そこまで俺にお礼がしたいのか? 律儀りちぎだなあ、レイシーは。

「じゃあ、どんなお礼をしてくれるんだ?」
「えっと……ですね……」

 苦笑しながらくと、レイシーが口ごもった。

 頬を桜色にして、口元を波打たせ、逡巡しゅんじゅんするように視線をさまよわせ、

「ロッドくん!」

 目をバッテンにしながら、告げる。



「よ、よろしければ、一緒にお出かけしませんか!?」
「へ?」



 レイシーの発言に、俺の思考が一瞬止まった。

 のろのろと動き出した頭で、俺はレイシーの言葉を反芻はんすうする。

 一緒にお出かけしませんか? レイシーと一緒にお出かけ?

 もしかして、それってデー……

「お礼に、ご飯をご馳走ちそうさせていただきたいのです!」
「ああ、ご馳走! ご馳走ね!」

 レイシーが付け足して、俺は冷や汗をかいた。

 あっぶねぇ、勘違いするとこだった! 「それってデートか?」って尋ねなくて、マジでよかったぜ!

「そういうことなら、喜んでご馳走になるよ」
「はい!」



     ⦿  ⦿  ⦿



 失態をおかさずに済んで安堵あんどしているロッドは、気付けなかった。

 レイシーが、『恋する乙女』そのものの顔をしていることに。
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