上 下
56 / 86
第一章

犠牲の上に成り立つ平和って言葉が、詭弁じゃなかったためしはない。――7

しおりを挟む
 俺が思案しあんしているうちにエナジーヴェールが発動し、リーリーの体が緑色のオーラに包まれた。

 ディフェンスオーラは自身のVITを、エナジーヴェールは自身のMNDを50%上昇させる魔法スキルだ。

 リーリーがふたつの自己強化スキルを用いたのは当然、

「ギフトダンス!」

 支援役バッファーを務めるためだ。

 リーリーがヒラヒラと空中で舞いはじめる。

『GYYYYYYY……!!』

 スマッシュクローが空振りに終わったタイラントドラゴンが、大きく息を吸い込んだ。

 高威力の魔法攻撃スキル『フレイムキャノン』。チャージタイムは5秒。火属性を代表する攻撃スキルだ。

 スマッシュクローはしのいだが、フレイムキャノンは直接攻撃でないため、シャドースティッチでは防げない。

 フレイムキャノンを食らえば、今度こそユーはお陀仏だぶつだ。

 だが、手はある。

「行けますか、エリーゼ先輩!?」
「無論だ! いつでも来い!」
「よし! ユー、『憑依ひょうい』だ!」
『ムゥゥゥゥ!』

 ユーの体が縮み、光の玉となった。

 光の玉はゲオルギウスのもとまでフヨフヨと飛んでいき、吸収されるように入り込む。

 これがゴーストナイトの固有アビリティ、『憑依』。味方モンスターと一体化するアビリティだ。

『憑依』されたモンスターは、ゴーストナイトのステータスの50%と、残HP(どちらも端数はすう切り上げ)、さらにヘイト値を得る。

 これで、ゲオルギウスが倒れない限り、ユーも戦闘不能になることはない。

 同時に、タイラントドラゴンのターゲットが、ユーのヘイト値を継いだゲオルギウスになった。

 タイラントドラゴンの双眸がゲオルギウスに向けられ、口腔こうくうに炎が灯る。

 さあ、もう一仕事!

「クロ! ヴァーティゴだ!」
『ピィ……ッ!』

 クロが力を溜め、チャージタイムを挟んでヴァーティゴを発動させた。

 周りの景色を歪められ、タイラントドラゴンが『目眩めまい』状態になる。

『GYYYY……OOOOOOOOOHHHH!!』

 フラフラと頭を揺らしながら、タイラントドラゴンがフレイムキャノンを放った。

 業火ごうかの砲弾がゲオルギウスを襲う。

 1発目はギリギリ外れたが、2発目は直撃コースだった。

『――――ッ!!』

 大剣を盾にするゲオルギウスだったが、HPは大幅に削れ、1/2に迫ろうとしている。ヴァーティゴと、ユーの『憑依』がなかったら、戦闘不能になってもおかしくなかっただろう。

 次いで、タイラントドラゴンが身をかがめた。首の後ろから尻尾にかけて生えているトゲが、天を向く。

 5連続でトゲを発射する、物理攻撃スキル『ニードルレイン』。ゲオルギウスにトドメを刺すつもりだ。

「そうはさせん! 『ハイヒール』だ、ゲオルギウス!」

 エリーゼ先輩が指示を飛ばし、ゲオルギウスが祈るように大剣を掲げた。

 ほぼ同時、リーリーのギフトダンスが発動する。

『リィ!』

 リーリーが両手を掲げ、クロとゲオルギウスの体が緑色の光に包まれた。

 これで、クロとゲオルギウスのVITとMNDが50%、『加速かそく』一回分でAGIが10%上昇だ。
「こっちも仕込んどくぞ、クロ! アブソーブウィスプ!」
『ピィッ!』

 いつものように、クロもアブソーブウィスプの構えをとり、紫色の火の玉を、タイラントドラゴンにまとわりつかせる。

『GYAAAAAAAAAOOOOOOHHHH!!』

 俺たちが手を打っているあいだにチャージタイムが終了し、タイラントドラゴンのニードルレインが発動した。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,193pt お気に入り:3,570

最初に私を蔑ろにしたのは殿下の方でしょう?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21,797pt お気に入り:1,965

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:16,180pt お気に入り:3,116

婚約破棄されましたが、幼馴染の彼は諦めませんでした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,251pt お気に入り:281

1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,907pt お気に入り:3,767

処理中です...