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第二章
見ている分には羨ましいだろうけど、ハーレムって結構大変。――9
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「すみません。お話、よろしいですか?」
グラスから口を離したとき、不意に俺は話しかけられた。
振り向くと、ひとりの女性が立っている。
エリーゼ先輩と同じくらいの、女性としては高い背丈。
肉づきがかなりよく、胸の膨らみに至ってはレイシー以上だ。そこはかとなく色香が匂い立っている。
ナチュラルホワイトの肌はツヤツヤ。
菫色のロングヘアには、ウェーブが掛かっている。
アメシストの目は垂れ気味で、笑顔が似合う柔和な顔立ちをしていた。
彼女の姿に、俺は目を丸くする。
「ミスティ先輩!?」
「はい、ミスティ先輩ですよ」
驚く俺に、ミスティ先輩ことミスティ・クレイドは――セントリア従魔士学校の3年生にして、四天王の第1位でもある彼女は、ポヤポヤとした、日だまりのような笑みを浮かべた。
「みなさんもごきげんよう。マサラニアさんとエリーゼさんは、予選突破おめでとうございます。本戦もお互いに頑張りましょうね」
「「「「「は、はあ」」」」」
四天王第1位の登場にみんなも驚いていたが、ミスティ先輩は構わずにヒラヒラと手を振っていた。
どこかつかみ所のないキャラクターは、ゲームと同じらしい。
「それで、なにかご用でも?」
「ええ。あなたにお話があるのです、マサラニアさん」
戸惑う俺に、ミスティ先輩はポン、と手を合わせて告げる。
「ロッド・マサラニアさん。わたくしと、結婚を前提にお付き合いしていただけませんか?」
空気が凍りついたように、その場が静まり返った。
誰もが言葉を失うなか、ミスティ先輩だけが、「みなさん、どうしてポカンとしていらっしゃるのでしょう?」と言いたげに、首をコテン、と傾げる。
沈黙が数秒続いたのち、
「「「「「ええぇええええええええええええええええええええっ!?」」」」」
5人分の叫び声が、レストラン内に木霊した。
「なななにゃにを仰っているのでしゅか、クレイド先輩!?」
「マサラニアさんとお付き合いをしたいと」
「そ、しょういう意味ではありません! にゃんでロッドくんとおちゅきあいするなんて仰っていりゅのでしゅか!?」
「もちろん、マサラニアさんが気になるからですよ?」
「でもでもでもでも! ク、クレイド先輩とロッドくんは、初対面じゃないでしゅか!!」
「レレレレイシーの言うとおりでしゅ!! いきにゃりおちゅきあいにゃんて、順序を抜かししゅぎでしゅ!!」
レイシーとエリーゼ先輩が、グルグルと目を回しながらミスティ先輩に詰め寄る。
姉妹らしく、どちらも噛み噛みだ。
「ちょっと奥さん、新たな恋敵登場ですって」
「うん。面白くなってきたねぇ」
なぜかわからないが、ケイトとアクトはとてもイキイキしている。
場が渾沌になるなか、俺もまた、混乱の真っただ中だった。
「ど、どうして、俺に告白なんてしたんです? レイシーの言うとおり、俺とミスティ先輩は初対面ですよね?」
「わたくしも不思議なのです」
尋ねる俺に、ミスティ先輩は口元に笑みを浮かべたまま、まぶたを伏せる。
「マサラニアさんの試合を観戦させていただいたのですが、わたくしはどんどん引きこまれていきました。おそらく、マサラニアさんの試合運びがあまりにも巧みだったからでしょう」
語りながら、ミスティ先輩は豊かな胸元に手を添えた。
「あんな気持ちになったのは生まれてはじめてでした。目が離せず、胸が高鳴り、ただただ魅了されていたのです」
ミスティ先輩の頬が朱に染まる。
「そして、わたくしは気付いたのです。『ああ、これが恋なんですね』と」
「きゃっ❤」と両頬に手を当てて、ミスティ先輩が体をくねらせた。
ミスティ先輩の話を聞いて、俺は呆然としてしまった。『言葉がない』とはこのことだろうか?
「あの……それって、ただ、試合にワクワクしていただけじゃないっすか?」
「そんなことありませんよ? ほかの試合では、決して味わえない感覚だったのですから!」
両拳を握って力説するミスティ先輩に、俺は「そ、そうですか」と乾いた笑みを発するほかなかった。
『ほかの試合で味わえない』のも無理はない。なにしろ、この世界の従魔士はレベルが低く、ゲーム知識を駆使した俺の戦い方は、まさに『次元が違う』のだから。
ミスティ先輩の恋心は、十中八九勘違いだ。だが、先輩の浮かれ具合は相当なもの。説き伏せるのは無理だろう。
ゲームではお淑やかなお姉さんって感じだったけど、ミスティ先輩はだいぶ天然なひとらしい。
『恋は盲目』ってやつか……面倒だなあ。
グラスから口を離したとき、不意に俺は話しかけられた。
振り向くと、ひとりの女性が立っている。
エリーゼ先輩と同じくらいの、女性としては高い背丈。
肉づきがかなりよく、胸の膨らみに至ってはレイシー以上だ。そこはかとなく色香が匂い立っている。
ナチュラルホワイトの肌はツヤツヤ。
菫色のロングヘアには、ウェーブが掛かっている。
アメシストの目は垂れ気味で、笑顔が似合う柔和な顔立ちをしていた。
彼女の姿に、俺は目を丸くする。
「ミスティ先輩!?」
「はい、ミスティ先輩ですよ」
驚く俺に、ミスティ先輩ことミスティ・クレイドは――セントリア従魔士学校の3年生にして、四天王の第1位でもある彼女は、ポヤポヤとした、日だまりのような笑みを浮かべた。
「みなさんもごきげんよう。マサラニアさんとエリーゼさんは、予選突破おめでとうございます。本戦もお互いに頑張りましょうね」
「「「「「は、はあ」」」」」
四天王第1位の登場にみんなも驚いていたが、ミスティ先輩は構わずにヒラヒラと手を振っていた。
どこかつかみ所のないキャラクターは、ゲームと同じらしい。
「それで、なにかご用でも?」
「ええ。あなたにお話があるのです、マサラニアさん」
戸惑う俺に、ミスティ先輩はポン、と手を合わせて告げる。
「ロッド・マサラニアさん。わたくしと、結婚を前提にお付き合いしていただけませんか?」
空気が凍りついたように、その場が静まり返った。
誰もが言葉を失うなか、ミスティ先輩だけが、「みなさん、どうしてポカンとしていらっしゃるのでしょう?」と言いたげに、首をコテン、と傾げる。
沈黙が数秒続いたのち、
「「「「「ええぇええええええええええええええええええええっ!?」」」」」
5人分の叫び声が、レストラン内に木霊した。
「なななにゃにを仰っているのでしゅか、クレイド先輩!?」
「マサラニアさんとお付き合いをしたいと」
「そ、しょういう意味ではありません! にゃんでロッドくんとおちゅきあいするなんて仰っていりゅのでしゅか!?」
「もちろん、マサラニアさんが気になるからですよ?」
「でもでもでもでも! ク、クレイド先輩とロッドくんは、初対面じゃないでしゅか!!」
「レレレレイシーの言うとおりでしゅ!! いきにゃりおちゅきあいにゃんて、順序を抜かししゅぎでしゅ!!」
レイシーとエリーゼ先輩が、グルグルと目を回しながらミスティ先輩に詰め寄る。
姉妹らしく、どちらも噛み噛みだ。
「ちょっと奥さん、新たな恋敵登場ですって」
「うん。面白くなってきたねぇ」
なぜかわからないが、ケイトとアクトはとてもイキイキしている。
場が渾沌になるなか、俺もまた、混乱の真っただ中だった。
「ど、どうして、俺に告白なんてしたんです? レイシーの言うとおり、俺とミスティ先輩は初対面ですよね?」
「わたくしも不思議なのです」
尋ねる俺に、ミスティ先輩は口元に笑みを浮かべたまま、まぶたを伏せる。
「マサラニアさんの試合を観戦させていただいたのですが、わたくしはどんどん引きこまれていきました。おそらく、マサラニアさんの試合運びがあまりにも巧みだったからでしょう」
語りながら、ミスティ先輩は豊かな胸元に手を添えた。
「あんな気持ちになったのは生まれてはじめてでした。目が離せず、胸が高鳴り、ただただ魅了されていたのです」
ミスティ先輩の頬が朱に染まる。
「そして、わたくしは気付いたのです。『ああ、これが恋なんですね』と」
「きゃっ❤」と両頬に手を当てて、ミスティ先輩が体をくねらせた。
ミスティ先輩の話を聞いて、俺は呆然としてしまった。『言葉がない』とはこのことだろうか?
「あの……それって、ただ、試合にワクワクしていただけじゃないっすか?」
「そんなことありませんよ? ほかの試合では、決して味わえない感覚だったのですから!」
両拳を握って力説するミスティ先輩に、俺は「そ、そうですか」と乾いた笑みを発するほかなかった。
『ほかの試合で味わえない』のも無理はない。なにしろ、この世界の従魔士はレベルが低く、ゲーム知識を駆使した俺の戦い方は、まさに『次元が違う』のだから。
ミスティ先輩の恋心は、十中八九勘違いだ。だが、先輩の浮かれ具合は相当なもの。説き伏せるのは無理だろう。
ゲームではお淑やかなお姉さんって感じだったけど、ミスティ先輩はだいぶ天然なひとらしい。
『恋は盲目』ってやつか……面倒だなあ。
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