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第一章 はじまり
破滅フラグなんて呼んでいません 2
しおりを挟むえ、誰!?
聞き慣れない男の声に振り向くと、金髪碧眼の男と従者、そしてそれを取り囲む様に慌てた様子の使用人達。
「やあ、イザベル嬢。今日はたまたまこちら方面に用事があったからご挨拶に伺ったんだ」
「ヘンリー殿下!?」
は! いけない、挨拶しなきゃ!
「た、大変失礼致しました。初めてお目にかかります、イザベル・フォン・アルノーと申します。お会いできたことを大変光栄に思います」
「私と貴女は婚約者になったんだ、そんな仰々しい挨拶はいい。それより馬に乗ってどこへ行くつもりだ」
「は、はい! ネスメ女子修道院まで行く予定でございました」
「ああ、あそこなら一度行ったことがある。イザベル嬢は乗馬経験がおありの様だし、私の馬で宜しければ相乗りで行かないか」
「で、ですが……」
ヘンリー殿下は私の手を取ると、甲に優しく唇を落とした。
うきゃぁぁあ! 手の甲にキキキス!?
「婚約者なのに我々は一度も会話をしていないんだ。私は貴女のことが知りたい。他の者達も同行させるし、どうか私に貴女と過ごす時間をいただけないだろうか」
さ、さすがは攻略対象者。キラキラオーラが凄過ぎて目が開けられぬ!
って、今は美男子を堪能している場合じゃなかった!
本当なら破滅フラグとご一緒なんてしたくないけど、王太子の頼み事を断ることなんて怖くて出来ない。
「え、えーと、急いでいるので少しだけでしたら」
「急用だったのか、では急ごう。イザベル嬢ちょっと失礼するぞ」
「わわ!」
ヘンリー殿下は軽々私を持ち上げ私を馬に座らせると、自身は後方に乗り手綱を握った。
キャーー!! き、距離が近い!!
相乗りなんて初めてだし、こんな間近にイケメンがいたら緊張しちゃう!
ヘンリー殿下の体温を服越しに感じる度に、顔中に熱が集まるのが分かる。
私の異変に気付いたのか、ヘンリー殿下はふっと耳元で囁いた。
「イザベル嬢は可愛いな、耳まで赤くなっているよ。少しは私のことを気に入って貰えたと期待していいのかな」
「へへヘンリー殿下!?」
「ははっ! すまない、軽い冗談だよ。さ、馬が動くからしっかり私に寄り掛かって」
ヘンリー殿下は慣れた手つきで手綱を操り馬を動かす。
今日は天気が良く、乗馬には最適な日和。
頬に受ける風も心地良いいし、本来なら気分良く乗馬を堪能していただろう……相乗りしている相手さえいなければ。
ああ、ヘンリー殿下を意識するとまた顔が赤くなりそう。
そんな事を思っているうちに見覚えのある小高い丘が見えてきた。
「あの丘の上にあるのがネスメ女子修道院だろう? もう少しで着くから辛抱しておくれ」
「は、はい!」
ああ嬉しい。また皆に会える。
リリアの人形が入った袋をぎゅっと握りしめながら孤児院にいた皆の顔が浮かぶ。
そのまま小高い丘を登り、ネスメ女子修道院の門までやって来た。
「さぁ、着いたよ」
ヘンリー殿下は先に馬から降りると、さっと私に手を差し出してくれた。
「ありがとうございます」
私はヘンリー殿下の手を取り馬から降り、歩き出した途端、グラっと体勢を崩した。
うわ、しばらく馬に乗っていたから身体がグラグラする!
「おっと」
ヘンリー殿下は私を抱き止めるとふっと微笑んだ。
ぐはぁ! 美顔が! キラキラオーラが! 全てが眩しい!!
「しばらく馬に乗っていたから酔ってしまったか。イザベル嬢、大丈夫か」
物語の王子様顔負けの、目を見張るような美形が私の顔を覗き込んでくる。
はわわわ、そんなに近いと恥ずかしくてまた顔が赤くなっちゃう!
「だ、大丈夫ですわ。お気遣いありがとうございます」
「そうか。では中へ入ろう」
「え」
「ああ、ヴァレリー院長とは知り合いだから特別に中に入れて貰えるんだ」
ヘンリー殿下がヴァレリー修院長と知り合いだったなんて。
何だかこの修道院、闇が深そうね。
私はそんな事を考えているとヴァレリー院長が奥から姿を見せた。
「まぁ、ヘンリー殿下! また連絡もなしに来られるなんて」
「度々すまないな。今日はイザベル嬢がここに用があると聞いたので送り届けただけだ」
ヴァレリー院長は私の顔を見るなりパァッと明るい笑顔になった。
「まぁ、イザベル様! 再びお顔を拝見出来て嬉しいですわ。立ち話も何ですし、こちらへどうぞ」
「ヴァレリー院長。私とイザベル嬢との扱いが違い過ぎやしないか」
「ヘンリー殿下、滅相もございません。私はただ、イザベル様との再会を喜んでいるだけでございますわ」
「ふん、どうだかな。あ、私も中に入ってもいいか」
「ええ、勿論ですわ。こちらへどうぞ」
ヴァレリー院長に促され、孤児院の前までやって来た。
「皆イザベル様がいなくなってから元気がないのです。ここではイザベル様の存在はとても大きいものでしたわ。今後も気軽にお立ち寄り下さいね」
「はい」
そんな事を言って貰えるなんて嬉しいな。
ああ、そして、早く皆の顔が見たいわ。
早る気持ちを抑えて扉を開けると、広間にいた子どもや修道女達がすぐに気付いた。
「あーーっ! ベル!!」
「まぁ、イザベルさん!?」
「皆さま、ご連絡もなしに突然訪問してしまい申し訳ございません」
「そんなの全然構いませんよ! 皆イザベルさんがいなくなってから元気がなくて、孤児院全体がどんより暗くなっていたのです。こうして顔を見せに来て頂けて本当に嬉しいですわ」
「ベル、遊ぼ!!」
「ベル、こっち!」
子供達はベッタリと私の足に纏わり付き、修道女達は私の周りをぐるりと囲んだ。
「皆様、ありがとうございます。私も皆様に会えて本当に嬉しいですわ。でも、今日は届け物のために急遽こちらへ出向いたものですから、あまり時間がなくて」
「届け物?」
「ええ。実はリリアちゃんの人形が私の服に紛れ込んでしまっていて、それを返しに来たんです」
私は手に持っていた袋を開き、中から人形を取り出した。
「まぁ、これは確かにリリアちゃんが持っていた物だわ。ちょっと呼んできますね。リリアちゃーん!」
修道女はその場を一旦離れてリリアを呼びに行くと子供達がわっと押し寄せてきた。
「ベル、遊ぼ! こっちこっち!」
「あれ、このお兄ちゃんは誰?」
はっ! 皆に気を取られてすっかりヘンリー殿下の存在を忘れていたわ!
「ヘンリー殿下、申し訳ございません!」
「いや、私の事は気にせずイザベル嬢の心ゆくまで過ごすと良いよ」
「ねぇねぇ、お兄ちゃんはベルの恋人?」
「ん? イザベル嬢は私の恋人じゃなくて婚約者だよ」
「じゃあ、結婚するの?」
「そうだね、ゆくゆくはそうなるだろう」
「結婚」のフレーズが刺さったのか、その子は大声で騒ぎ出した。
「ねぇねぇ! ベル、この人と結婚するんだって! みんなで結婚式ごっこしようよ!!」
「私、紙で指輪作ってくるー!」
「え、ちょっとみんな落ち着いて」
「お兄ちゃんもこっちこっちー!!」
私とヘンリー殿下はそのまま子供達に引っ張られて結婚式ごっこというよく分からない遊びに付き合わされることになった。
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