初めに本ありき

吾輩は本である。名前は、まだない。

漱石先生には申し訳ないが、ご挨拶代わりに拝借した。先生の猫はにゃーにゃー泣いていたが、吾輩は鳴かない。ただ、開かれるのを待っている。

本書は短篇集である。十九の物語が収められていて、時代も場所もてんでバラバラだが、どの話にもひとつだけ共通するものがある。

本である。

本が書かれ、本が届けられ、本が開かれ、誰かがページに目を落とす。すべては、そこから始まる。

——初めに本ありき。

どこから読んでも構わない。順番に深い意図はない。

気まぐれに開いた一篇が、そのとき一番必要な話だったということが、本にはときどきある。

偶然かもしれないし、本の方が選んでいるのかもしれない。吾輩は本であるから、そのあたりの事情には少し詳しいが、教える義理はない。

ただ、最後の一篇を読み終えたとき、別の一篇をもう一度読みたくなっていたら嬉しい。

吾輩は本である。あなたが読んでいる限り、ここにいる。
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