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第三十七話 正輝と綾芽と吉備路ダンジョン群へ

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 朝六時にスッキリと目が覚めた。いつも通り台所に向かう。

「母さん、おはよう。今日は悪いね」
「別に気にすることないさ。良い道具も貰ったし料理するのが楽しみだよ。あと今日は少し早めに帰って来な。そうだな五時頃を目処にして、その頃から料理が完成するようにしていくからさ。折角時間経過のない収納なんだ、どうせなら熱々で収納したいだろ。それと正輝さんの収納は麟瞳のとは違って綾芽の方に近いんだろ。料理は入れ物に入れてないと大変な事になりそうだから、後でホームセンターにでも行って買って来るよ」
「母さんありがとう。そこまで考えてなかった、助かるよ。入れ物代は後で請求して、ちゃんと払うからね」

 作った後の事は深く考えてなかったよ、母上ありがとう。綾芽と正輝も起きてきた。一緒に朝御飯を食べて、弁当を貰って、さあ出かけましょう。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 駅のレンタサイクル屋で自転車を借りて吉備路ダンジョン群の探索者センターにやって来た。いつも通りの手続きを済ませて早速Eランクダンジョンに向かう。

 ダンジョン群と言う通り、サイクリングロード沿いに四つのダンジョンがあり、探索者センターから一番遠いのがEランクダンジョンだ。ダンジョンの近くにある日本で四番目の大きさを誇っている古墳の名前からぞうダンジョンと呼ばれている全15階層の森林型ダンジョンだ。出てくる魔物は昆虫型でドロップアイテムも余り期待出来ない人気の無いダンジョンだ。

 情報を共有し、ダンジョンカードを重ねて三人でパーティを組みダンジョンの中に転移する。

 中は木々の生い茂った森である。長物を武器にする綾芽には一番相性が悪いダンジョンだろう。

 一階層から十階層までは普通の昆虫を巨大化させたような魔物が襲ってくる。バッタ、セミ、トンボ、ダンゴムシなど体当たりをして来るだけで脅威には感じない。

 僕にとっては魔法の練習にちょうど良く、魔石を拾うのが面倒臭い。六階層の転移の柱で一応登録をしておいた。

「ストレス溜まるわ~」

 綾芽は上手く討伐出来ずにご立腹の様子だ。お前が来たいと言ったんだからな。

 十一階層の転移の柱でも登録をしておいて攻略を続ける。十一階層からは出てくる魔物が変わってカマキリ、ハチ、カブトムシ、クワガタなど攻撃力が上がる。ここではハチが狙い目、低確率でハチミツをドロップするらしい。この情報を聞いて綾芽のやる気がアップした。

「さあハチさんいらっしゃい。私のパンケーキの上からかけてあげるわ」

 ちょっと何を言っているのか分からないが、少し立て直したようで何よりだ。

 ハチミツは結構な確率でドロップしているように感じる。【幸運】スキル絶好調である。

 ボス部屋の前に到着した。ボスは複数のビッグビーだ。

「私がやります。手は出さないで下さい」
「うん、綾芽ちゃんに任せるよ」
「大丈夫か?刺されるとかなり痛いらしいぞ」
「お兄ちゃん、過保護過ぎ。大体こんなのに刺されたら痛いだけじゃ済まないでしょ。今までのストレス全部ぶつけるからね」

 結局綾芽に任せることにして、ボス部屋の中に入る。相手は三匹のビッグビーだ。障害物が無いので綾芽も自由に動き回れる。薙刀を豪快に振り回し、打ち込み、払い、突いてビッグビーを討伐した。ちゃんとハチミツも一つドロップしたよ。ボスだからだろうかハチミツもデカイ、美味しいかどうかは食べてみないと分からないけどね。僕が収納していると銅色の宝箱が現れた。

「私が開けていい」
「良いぞ、開けてくれ」

 正輝的には僕が開けた方が良いんだろうけど、ここは我慢してもらおう。

 宝箱の中には女性物の上着が入っていた。本当に開ける人によって中身が変わるのだろうか?

「これ女性物だよね。三人の中で女性は私だけだよね」
「分かってる、これは綾芽の物だ。自分で使うなり、売り払うなり好きにすればいいぞ。ということで正輝、昨日の指輪はお前の物だよ」
「分かったよ、俺が貰うよ。ありがとうな」

 なんだか今日の正輝はいやに素直だな。まあ良いか、これで解決した。

 とりあえずダンジョンの外へ出る。まだ正午にもなっていないが、この前もお昼を食べた綺麗な花が見える場所に移動して、お弁当を食べることにする。

「今日は五時までには家に帰らないといけないけど、この後どうする?僕はそこの五重ダンジョンで野菜と果物を補充したいんだけど」
「あそこお兄ちゃんがキャッチしている間暇なんだよね。別のダンジョンを攻略しようかな。あっ、良いこと思いついた!」
「またしょうも無いこと考えたんだろ」
「フフ、凄い名案だよ。Fランクダンジョンが三つあるでしょ。三人別々のダンジョンを攻略して宝箱の中身を比べるのよ。面白くない」

 綾芽にしては面白い案を出してきたのでやってみることにした。探索者センターで落ち合う事にして、僕が五重ダンジョンで、正輝がコウモリダンジョン、そして綾芽がスライムの出てくる作ダンジョンを攻略することに決めた。収納から自転車を出してそれぞれのダンジョンに向かう。二人の収納ポーチには自転車は入らないが、鍵さえしていれば普通盗まれる事は無い。僕は歩いて一分だから収納したままだ。

 僕は早速ダンジョンの中に転移した。ここは全五階層でそれぞれの階層でミニトレントモドキが野菜や果物を投げて攻撃してくる。収納から野球のグローブを出して準備完了だ。まず一階層はジャガ芋のフロア、投げて来るジャガ芋をキャッチしては収納を繰り返し、弾切れになったところで魔法で討伐する。討伐後にはジャガ芋がドロップしている、二度美味しいダンジョンだ。
 
 投げて来る野菜と果物に変化は無かった。二階層は玉葱、三階層はトマト、四階層が桃そして五階層がパイナップルだ。今回はトマトと桃は優しくキャッチするように気をつけた。そしてボス部屋のトレントモドキが投げてくるスイカも頑張って二個キャッチした。高速で飛んで来るスイカはとても怖かったよ。

 ボスも魔法で倒しドロップアイテムのスイカと魔石を回収して宝箱を待っていると、鉄の宝箱が出て来た。中には黒いリストバンドが二個入っていた。吉備路ダンジョン群は身に着ける物ばかり出て来るな。

 転移でダンジョンの外へ出る。さあ、自転車で探索者センターを目指そう。

 探索者センターに着いて綾芽に連絡すると喫茶コーナーでお茶しているとのこと、そちらへ向かって移動する。既に正輝と合流していたようで二人で飲み物を飲んでいた。

「お兄ちゃん遅いよ。罰として私達二人にデザートを奢ってね」

 綾芽はフルーツパフェ、正輝はイチゴ練乳のかき氷、そして僕はコーヒーゼリーを注文した。

 すべて食べ終わって買取り受付へと移動する。ドロップアイテムはすべて提出する決まりなのでカゴの中にどんどん入れていく。小さい魔石が多いので、綾芽と正輝のポーチから出すのに結構時間がかかる。最後にマジックアイテムを出して終了だ。

「今日は魔石以外は持って帰りますので鑑定の必要な物だけお願いします」

 しばらく待って受付へ呼ばれる。担当の北河さんに誘導されて別室に移動する。

 部屋の中では支部長の西湖さんが待っていた。

「何か気に入らないことでもありましたか?」
「いえいえ、そんなことはありませんよ」
「魔石以外は売らないって聞きましたので、何かありましたか?」
「ああ、こちらの正輝が明日京都に帰るんですよ。そのお土産にしようと思って」

 要らぬ心配をさせてしまったようだ。

「そうでしたか、安心しました。また是非お越しになってください」
「五重ダンジョンは凄く気に入ってます。ストックが無くなれば来ますし、季節毎にドロップする物が変わるんですよね。必ず来ますよ」
「当ダンジョンをこれからもよろしくお願いします」

 というわけで北河さんより買取りの内訳を聞く。

「今回は魔石だけの買取りということで、まず内訳を伝えます。Fランクダンジョンのボス以外の魔石が合計で526個ありました。これが一個20円で10,520円です。FランクダンジョンのボスとEランクダンジョンのボス以外の魔石が合計で838個ありました。こちらは一個50円で41,900円です。そしてEランクダンジョンのボスの魔石が一個80円で3個で240円です。魔石の合計で52,660円になります」

「そして鑑定の結果ですがクッションがほんの少し癒される効果が付いています。買取り価格が5,000円です。次にヘアバンドはほんの少しリラックスできる効果が付いています。買取り価格が3,000円です。そしてリストバンド2個ですが、装着すると腕力強化の効果が発動します。勿論装着した腕の方だけ効果が表れます。買取り価格が両方合わせて三十万円です。最後に上着ですが衝撃耐性の効果が付与されています。買取り価格が百万円です。以上になります」

 僕の圧勝だな。税金分を引いた買取り金額を三等分してもらってカードに入金してもらい端数は綾芽のカードに入れてもらった。さあ家に帰ろうと思ったら、正輝のリュックの所有者登録の解除が残っていた。急いで手続きしてもらって、新しく僕が血液登録をして所有権を移した。今度こそ家に帰ろう。

 
 
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