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第四十ハ話 夏休み中の《桜花の誓い》とワイルドボア戦、そしてその後の一週間

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 次の日の木曜日は前日に続き《桜花の誓い》と倉敷ダンジョンの探索である。

「皆昨日の反省を思い返して、今日の課題を確認しよう!」

 綾芽が珍しくリーダーらしい声かけをおこなった。ダンジョンに入る前に練習場で身体をほぐしながら各々の課題を口にする。ストレッチが終わった後にフォーメーションの確認をしてからダンジョンに向かった。

「僕はウルフのエリアは少し離れて一人で討伐するよ。もうウルフ戦は《桜花の誓い》だけで大丈夫そうだからね」

 ダンジョンゲートの前でパーティ登録をしながら僕が言った。昨日は本当にウルフエリアでは何もしていない。少しでも買取り金額が多くなるように貢献したいものだ。

 今日は十一階層に転移し攻略を始める。まずはウルフエリアの十一階層から十五階層で稼ぐのが目的だ。

 ダンジョンの中に転移した後は予定通り《桜花の誓い》と離れて攻略を開始する。出会うウルフ全てと戦闘を繰り返す。昨日あまり身体を動かしてないのがストレスになっていたのか、自分でも思っていないほど戦闘を楽しく感じてしまう。火魔法、飛ぶ斬撃をフルに使って十六階層まで到達した。

「お兄ちゃん、派手にやっていたね。ちょっと引いちゃったよ」
「いや、ちゃんと周りを見ながら戦闘をしていたぞ。心は熱く、頭は冷静にってやつだ」
 
 会話が噛み合っていないような気もするが、構わず話しつづける。

「もう一度ワイルドボア戦の動きを確認しておくようにしよう。実際にラッシュボアとワイルドボアにそこまで大きな違いはない筈だ。ラッシュボアは今まで失敗したことはないんだから、ワイルドボアに対する恐怖心に打ち勝って対処出来るかどうかだと思う。桃と山吹は失敗を恐れずに挑戦してほしい。中級ポーションは何本も持っているから安心してやられてくれ」

 緊張をほぐそうと繰り出した僕の一流のジョークは皆に軽くスルーされ、セーフティーゾーンの空いているスペースで動きを付けながら声を掛け合いフォーメーションを確認した。

 水分補給をした後、今日のメインのワイルドボア戦に臨んだ。

 まずはスモールボアで小手調べだ。いつものように盾で受け止め槍でとどめを刺す。次にラッシュボア戦は仮想ワイルドボアである。盾職二人で向かい注意を引き付ける。山吹に向かい突進して来る。桃は少し位置を下げて待つ。山吹がラッシュボアの突進をいなして桃の方へと送る。更に桃がラッシュボアを盾でいなし体勢を崩す。そこに槍で脚を払いダメージを与える。ボアの動きが悪くなれば勝ちである。

 盾と槍一人ずつの組み合わせでも練習を重ねる。何パターンかフォーメーションを確認して、一度セーフティーゾーンに戻りお弁当を食べる。先ほどの戦闘を振り返りながらお腹を満たしていく。

 腹ごなしにスモールボアとラッシュボアを倒し、いよいよワイルドボアに向かって桃と山吹が走り出した。

 今回も桃がターゲットになった。最初のフォーメーションに素早くチェンジする。

 まずは桃が黒盾で突進をいなした。ワイルドボアは体勢を少し崩すが構わず後へと突進する。次は銀盾の山吹が同じくワイルドボアをいなす。二度のいなしでバランスを崩し勢いを削いだところを遥が槍で脚を払う。そして綾芽が槍を突き刺し氷魔法でとどめを刺した。

 初めてのワイルドボアの討伐、五人で喜びを全身で表している。

 嬉しいのも分かるが、周りに魔物もいるんだがなとこちらは気が気でない。とりあえずドロップアイテムを回収して声をかける。

「周りをよく見て。一旦セーフティーゾーンに戻るぞ」

 まだ嬉しそうにはしているが、しっかりとフォーメーションを組んでセーフティーゾーンに戻った。

 セーフティーゾーンで話し合い、今日の探索はここまでにしてダンジョンを出ることにした。良いイメージを持ったまま来週に繋げていこう。

 ダンジョンを出て武具店に向かい、いつものように武器のチェックと矢の補充を行う。支払いはパーティカードでおこない領収書を貰う。これを習慣づけるように指導した。
 
 そのあとはお待ちかねの買取りである。攻略階層が昨日よりも少なくなったが、僕もウルフ戦で頑張ったので若干金額を増やすことが出来た。カードに入金してもらった後、武器の封印や着替えをしてダンジョンを出た。

 いつも通りファミレスで反省会をしてから解散し、電車に乗って家路につく。
 
 美味しいボアステーキの晩御飯を食べた後、いつも通りリビングでマッタリと飲み物を飲みながら談笑する。

「父さん、母さん、お盆の旅行なんだけど、鳥取の皆生温泉に行こうと思うんだけど良いかな」

 鳥取の魚の干物をお土産として渡した時に母さんが喜んでくれたこともあり、綾芽と相談して決めた旅行先を両親へ告げた。綾芽の決め手は温泉の近くにダンジョンがあること、戦闘狂の綾芽にとっては何物にも代えがたい条件だ。

「そんなに有名な温泉地でこれから予約が取れるのかい?」
「一応もう予約はしたんだ。もしも先に取られたら嫌だったからね」
「美味い海鮮料理にビールそれに温泉まで付いてて良くない訳がないぞ。麟瞳、御手柄だ。ありがとう」

 これでお盆休みも予定が埋まった。因みに、ちゃんとお墓参りには行くようにしてますよ。

 《桜花の誓い》がワイルドボアを初討伐した次の日の朝、綾芽と二人で鍛練を終わらせた後の朝御飯の時に綾芽が僕に聞いてきた。

「お兄ちゃん、家族旅行は決まったけど、私達のダンジョン旅行はどこに行くの?」
「ああ、一応候補地は二つに絞ったんだけど、どちらが良いか迷っているんだ。どちらも一長一短があってね、最後は《桜花の誓い》で話し合って決めて欲しい。来週の木曜日までに決めてくれれば良いからな」

 綾芽に二つの候補地について、予定している宿やダンジョンを含めて良い点と悪い点を伝えた。

「今日は皆でダンジョンショップを見に行くから、そこで話してみるよ」
「急がなくて良いからな、良く考えて決めるようにな」
「うん、分かったよ。お兄ちゃんは今日は何をするの?」
「今日は岡山ダンジョンに行くよ。魔力ポーションを補充しておきたいしな」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 金曜日は予定通り岡山ダンジョンで魔力ポーションの補充に成功した。おまけで宝箱から良いマジックアイテムが出てきたが、今は使わずに収納しておくことにする。

 土日は朝の鍛練はおこなったが、その後は母親の買い物に付き合ったり、家で家族と話をしたりとゆっくりと過ごした。

 月曜日は《桜花の誓い》と倉敷ダンジョンの探索である。十七階層まで攻略は進み、ワイルドボアは安定して倒せるようになって来た。後はビッグボアを討伐出来れば完全攻略にぐっと近づくが焦りは禁物だ。 

 火曜日は岡山ダンジョンで魔力ポーションの補充をする。このダンジョンもソロで二十階層まで来ることが出来た。自分の成長が感じられて嬉しくなる。先週の金曜日と同じくマジックアイテムを入手したが、武器ケースに封印処理をして収納しておく。

 そして次の水曜日も岡山ダンジョンに向かった。

「龍泉様、今日で求人票は取下げました。最終的に申込み者が五人です。ご希望通り一人ずつ面談をしていただくように、一時間ずつ時間をずらして申込者に伝えております。それと練習場も使えるように予約を入れています。こちらが金曜日のスケジュールです。ご確認ください」

 そうなんです。八月の第一金曜日は求人票で募集した遠距離攻撃者の面談日である。五人も希望者がいてくれて感謝である。当面のボッチ探索も終了になるかも知れない。常盤さんと当日の流れについて打ち合わせをしてからそのまま家に帰った。

 木曜日は《桜花の誓い》と倉敷ダンジョンへ、ワイルドボアはもう大丈夫そうだ。探索後にいつも通りファミレスに行った。

「ワイルドボアの討伐もしっかりと出来るようになったし、来週からはビッグボアに挑戦しよう」
「あの遠めに見てもデッカイやつだよね。迫力がハンパないよ」
「ビッグボアを討伐しないと倉敷ダンジョンは完全攻略出来ない。最初は僕も一緒に戦うからね。いずれは五人で倒せるようになっていかないとな」

 それぞれ覚悟を決めたようで、お互いに話しながら気持ちを引き締めているようだ。

「お兄ちゃんダンジョン旅行の行き先決めたよ」
 
 話題が変わりダンジョン旅行の話になった。僕が提示した二つの案は、広島県の尾道市のDランクダンジョンを四日かけて行けるところまで攻略する案と、香川県の二つのEランクダンジョンを二日ずつかけて二カ所完全攻略する案である。

「香川県でお願いできるかな。尾道市のダンジョンは倉敷ダンジョンを完全攻略してから行ってみたいし、皆は宝箱久しく見てないからね。Eランクダンジョンを完全攻略してお宝を拝みたいよ。お兄ちゃんがいれば中身にも期待できるしね」

 言いきった後に可愛く舌を出すいつものポーズ。段々と分かってきたが、少し負い目を感じているときに綾芽はこのポーズを取るような気がする。別に気にすることないのに、たまたま僕は運が良いだけなのにな。

「宝箱からたいしたものがでなくても僕のせいにするなよ。あと、ホテルの移動などで時間を取られるのも大丈夫なんだな」
「うん、よく話し合って決めたから大丈夫だよ。ホテルの予約とか任せても良いのかな?」
「あのスケジュール通りの日程で良いんだろ。部屋は二人部屋と三人部屋に別れるけど良いよな」
「日によってメンバー変えるから大丈夫だよ」

 これで夏休みの大きなイベントもすべて決まりホッと一息つける。綾芽達は今後の予定について話しているが、僕は明日の面談が気になって上の空だった。いい人が来てくれると良いな。




 
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