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第百五十七話 福岡遠征前日・後編

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 ボス部屋奥の転移の柱からダンジョンの外へと転移した。入場受付へと向かい、常盤さんに部屋へと案内される。

「龍泉様、昨日は失礼しました」

 部屋には中里さんがいた。昨日の今日だよ、いるとは思ってなかったよ。

「中里さん昨日はあんな事言ったんですけど、一つお願いして良いですか?」
「ええ勿論良いですよ。私に出来る事なら大丈夫です」
「あのですね、魔力ポーションが出来るだけ欲しいです。しかも明日の朝クランハウスを出発するのでそれまでにです。集めることが出来ますか?」
「明日の朝ですか?ちょっと厳しいですね。うちには今魔力ポーションはないんです。他の探索者センターから集めるにしても時間的に難しいと思います。すみません」
「謝らないでください。こちらも無理なお願いだと理解してますから、こちらこそすみません」
「あの、何処のダンジョンに行くか教えてくれませんか?遠い所に行くとおっしゃってましたよね。そこになら届けることが出来るかもしれません」
「そうですね。今からダンジョンに入る前に入場を止められることはもうありませんよね。ええっと、明日から福岡ダンジョンで探索を始めます。朝の内に車で岡山を出発するので、お昼か夕方になるのか分かりませんが着いたらすぐに入場受付をしてダンジョンに入ります。《千紫万紅》が完全攻略するまではダンジョンを出ないつもりです」 
「携帯ハウスですか?凄いマジックアイテムを手に入れたようですね。ダンジョンから出てこないとなると明日の昼過ぎには届けないといけないですね。明日の午前中が使えるなら何とかなるかもしれません。集められるだけ集めて福岡ダンジョンに送ります。受付で受け取ってください」

 これで少しでも魔力ポーションを手に入れられそうだ。中里さんにはいつも良くしてもらっている。探索者協会の支部長が全員中里さんのような方だと良いんだけどね。

 中里さんは部屋から出て行った。僕の無理なお願いの為に行動してくれるのだろう。常盤さんに買取りの手続きをしてもらう。

「マジックアイテムですが、スキルオーブが四個も同日に出るなんて信じられませんが、全て【火魔法】のスキルオーブです。買取り価格が一つ二千五百万円です。何か【火魔法】のスキルオーブを宝箱から出すコツがあるんですか?」
「いやいや、そんなのある訳がないですよ。あったら今までにもっとスキルオーブを出してますよ」
「すみません、あっても教えてもらえないですよね。次にこちらのマジックポーチが容量が百立方メートルで時間経過がありません。買取り価格が六千万円です。中里が居ませんから私が言いますけど、オークションに出品したらいくらの値が付くか分かりません」
「本当にコツとかないですからね。またマジックポーチが出て来たと思ってたんですが、時間経過がないのがかなり嬉しいですね」
「最後に槍ですが、不壊と光魔法が付与されています。今までに出現したことのない魔法属性なので、買取り価格を一億五千万円とさせて頂きました」

 おおー、光魔法って凄そうだぞ。それにしても久々のご都合主義全開のマジックアイテムである。探索した正輝と僕が既に得ている【火魔法】のスキルオーブというのが極めつけだね。これが今の僕達には必要なのだろう。ありがたく全てお持ち帰りする。それとポーション類は全部持ち帰ることにする。長期の探索で体力ポーションもいくらあっても困らないからね。槍は武器ケースを買って封印してもらった。一時的に正輝が所有者になっている。

 入金をしてもらって、着替えてからクランハウスへと戻った。ちょうど七時、夕食の時間である。

「母さん、今日はありがとう。美琴さんも手伝ってくれたんですね、ありがとうございます。それと真琴さんを長期間福岡に連れていきます。申し訳ありません」
「真琴も良い顔してますし、麟瞳さんを信頼しています。真琴のことよろしくお願いします」
「麟瞳達は帰って来ることは出来ないのかい?」
「ちょっとね、クラン外の人も今回の探索にはいるから、繋ぐ札は使わないようにしようと思ってるんだよ。あれは存在がばれるとヤバいと思うんだよね」
「ああ、分かった。人様の娘さんを預かるんだ、くれぐれも気をつけるんだよ」

 食事の後は、会議室に集まって最後の確認だ。

「明日は京都の永久拠点から車で出発して、大阪で《Black-Red ワルキューレ》の三人を乗せて高速道路で移動しようと思っているんだ。美姫は岡山を出発して福岡に向かってほしい。美姫にはワゴン車を使ってもらうから全員乗れるけど、世那さんや美紅さんと話が出来るぞ。誰か京都から出発したい人はいないか?詩音はこっちの方が良いんじゃないか」
「無理っす。いきなりは無理っすよ。心臓に悪いっす。徐々にお近づきになりたいっす」
「俺がそっちに乗っていいか?男女比が一対九の割合だと緊張してしまうよ」

 そうだよね。僕はずっとそうだったんだよ。正輝が入ってくれて本当に良かったよ。

「次に今日の探索の成果なんだけど、【火魔法】のスキルオーブが四つも出てきたよ。スキルオーブは探索した人で使えって、前に世那さんと美紅さんから叱られたんだけど、正輝も僕もスキルを取得済みだし、まだ魔法のスキルを取得していない桃、山吹、遥、綾芽に使ってもらおうと思うんだ。どうだろうか?」
「私も魔法スキルは持ってないわよ」
「何を言ってんだよ。真姫には魔法杖があるだろ。皆の何倍の魔法が使えると思っているんだよ」
「分かっていたわよ。ちょっと言ってみただけよ。魔法杖、本当に感謝しているわ」 
「真姫にはこのマジックポーチを渡しておくよ」
「あら、私はポーチは既に貸してもらっているわよ」
「これな、時間経過が無いんだ。で、容量も百立方メートルある。橘父さんにはいつもお世話になってるし、手助けになるかなって思ったんだよ」
「それは嬉しいわね。私の今使っているマジックポーチはどうしたら良い?」
「うちのクランは皆が収納道具やスキルを持っているから、恵梨花に探索に参加してもらうお礼にプレゼントしようと思うんだけど良いかな?」
「綺麗に使っていると思うけど、中古よ」
「いやいや、中古でも収納道具は貴重だろ。喜ぶと思うけどな~。明日福岡ダンジョンに入る前に所有者登録を変えれば良いと思うよ」
「それはあんまりだわ。麟瞳さんは女心を全然分かってない、今から岡山ダンジョンに行って私の所有者登録を解除して来るわ。それを明日会ったときに渡してあげて、それだけで印象が違うと思うわ」 
「そんなものなのか?良く分からないな。まあ、それでお願いするよ。もう一つ槍のマジックアイテムが出て来たんだけど、うちには槍使いがたくさんいるけど、これは世那さんにプレゼントしたいと思っているんだ。今回の騒動で迷惑もかけたし、福岡ダンジョンの探索ではお世話になるからね。次に出て来た物は皆に渡すから了承してほしい」
「文句なんて無いよ。私も遥も真姫姉も魔法の付与された槍を渡してもらっているし、詩音さんも同じですよね」
「綾芽も皆も、私のことも詩音姉でお願いっす。可愛い妹がずっとほしかったっす。それと敬語はいらないっす。当然黒澤様にお渡しするのに私が反対するわけ無いっすよ」

 四人にはスキルオーブを使ってもらった。スキルオーブが光に変わり身体の中へと吸い込まれていく。いつ見ても幻想的な光景だ。それぞれがダンジョンカードを出して確認し、感動している。

 感動から少しして、四人とも正輝と僕に感謝の言葉をかけてくる。遥は律儀にマジックポーチのお礼を言って来たよ。《カラフルワールド》は皆が本当に良い子だと思うよ。

「なあリーダー、今回の探索でのマジックアイテムの合計買取り金額はいくらになるんだ」
「皐月、そんなことが気になるのか?ええっと、ちょっと待ってね。…………三億一千万円だね」
「流石リーダーです」

 最近美姫はそれしか言わないよね。確かにCランクダンジョンの一回の探索では破格だよね。姫路ダンジョンがあったから僕の感覚が麻痺しているのかな?

「そうだ、しばらくクランの依頼は受けなくなるのよね。この前のスパイダーシルクの反物やヒヒイロカネもついでに岡山ダンジョンで処理しておこうかしら」
「いや、それは今回の探索が終わってからにしよう。あまり目立ちたくないし、探索者省に《花鳥風月》の情報が流れるのが嫌だからね。それに今までみたいにランキングの上位を狙うのも、もういいかなと思っているんだ。青いオーガの情報は欲しいけど、探索者省とは関わりたくないんだよね。金額が落ちるけど、いらないドロップアイテムは今後探索者協会で買い取ってもらった方が良いかな。それにスパイダーシルクの反物は沢山あるだろ、児島の工房で加工してもらえば、普段着でも良いものが出来るんじゃあないかな。それに金額が落ちる分は僕の取り分を少なくしてくれると良いよ。使いきれないお金が貯まっているからね」
「リーダーは今回の事をかなり怒っているんですね。私達は十分報酬を受け取っています。探索者省の依頼を受けなくなっても誰も文句は言いませんよ」

 なんだか皆の前で愚痴をこぼしてしまったよ。確かに探索者省には腹がさ立っているが、皆に言うことではなかったのかな?それより明日の為にもう一働きしよう。夜遅くなったが、橘姉妹はマジックポーチの所有者登録を解除するために岡山ダンジョンへと車で出発した。僕は《Black-Red ワルキューレ》さんへと連絡を入れないといけない。美紅さんへと電話をした。

「連絡遅くなってすみません。明日は大変だと思いますが、車で移動します。京都を九時に出発して《Black-Red ワルキューレ》さんのクランハウスに向かいます。高速道路を使うのでそんなに時間はかからずに着けると思います。大丈夫ですか?」
「ああ、分かったよ。新幹線は使わないんだな」
「それも考えたんですけど、周りの人が敵だと思いたくないんですよね。尾行とかはされないと思うんですが、念のため車で移動しようと思いました。ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」
「いや、別に不満がある訳では無いんだよ。明日は楽しみに待っているよ」
「それとですね。京都の拠点ですけど、《Black-Red ワルキューレ》さんで使ってもらっても大丈夫です。ただ、迷惑行為はしないでください。まあそんな方はいないと思いますが、一応その点だけは注意しておいてください。大家さんは僕達の恩人なんですよね、よろしくお願いします。場所は和泉と心春が元々パーティハウスにしていた所なので二人に聞いてください。今は何も置いていないので、自由に使ってくれていいですからね。鍵は明日迎えに行ったときに渡します」
「ありがとう、助かるよ。注意はきちんとしておくから」

 これでクランの準備は全部終わったかな。風呂に入って、家に帰って着替えなどを収納して早く寝よう。明日は運転が大変だ、過去最長の移動距離になる。事故など起こさないように安全運転で行こう。







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