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第百八十二話 《Black-Red ワルキューレ》のクラン会議・前編

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 応接室を出てから、しばらく自室で考え事をしていた。九時からのクラン会議と明日の探索者省との話し合いについてだ。

「美紅、一緒に夕食食べへんか?」

 ドアがノックされ、智美が食事に誘ってきた。気持ちは落ち着いたのかな?

「特級ポーションは寝る前に使わせて貰うわ。どんな変化があるか分からんしな」
「そうだな、明日は皆から質問責め確定だな。《花鳥風月》のことは言わないでくれよ」
「美紅と世那のお陰ということでええやろか?」
「それしか言いようがないな。取りあえずそれで押し通してもらおうか、しつこく聞いてくる奴には【威圧】スキルでも発動して大人しくさせてやれ。智美のスキルに抵抗できるのは《Black アマゾネス》と《Red ソルジャーズ》の元メンバーぐらいだろう」
「おっ、懐かしいパーティ名を出して来よるなー。あの時はがむしゃらに頑張っとったで、楽しかったなー。もう六人しか残ってないで、アタイも結婚して引退するのが夢やったわ」
「一生夢は叶いそうにないな。《Black-Red ワルキューレ》で骨を埋めるつもりなのか?」

 昔話に花を咲かせながら、食堂に移動し夕食をとった。うちの料理スタッフには悪いが、やっぱり魔物肉料理が美味しかったと食べながら思っていた。

 九時の十分前に会議室に入った。出席するメンバーは既に揃っていた。

「美紅、もう戻って来たんか?世那がおらんが、今日は何の会議や?」

 京都のAランクダンジョンに送り込んだメンバーの最高戦力の一人である弓術士の風野奈緒かぜのなおが聞いてきた。

「では、会議を始めようか。今、奈緒から聞かれたが、今日はこれからの《Black-Red ワルキューレ》に関しての重要な会議だ。遅い時間に開いて申し訳ないが、いろいろな意見を出してほしい」

 グルッと出席したメンバーを見渡してみたが、古参のメンバーに動揺は見られないが、中堅から選んだ次世代を担うだろうメンバーは少し緊張した面持ちになったようだ。

「そんなに緊張しなくていいぞ。まずは探索するダンジョンが変わったところから意見を出してもらおうか?奈緒、京都のAランクダンジョンはどうだ?」
「どうだと言われても、まだ探索を始めたばかりやしなー。うーん、今日でやっと十五階層のボス部屋を攻略したわ。ほんまにやっとやったで、このままやとそんなに階層は進められへんと思うわ」
「十五階層はゴブリンキングを含めて五百程だったかな。厳しいのか?」
「美紅はよう知っとるなー。うちのチームはアタッカーが弱いで。世那みたいな化け物やなくても、単独でゴブリンキングがやっつけれるアタッカーが欲しいな。音乃の方はどうや?」
「あたしの方も十五階層でやっとやな。あたしと凛だけで魔物を倒してええんならもっと進めるけどな。チームメンバーの成長まで考えたら、まだ二十階層のボス部屋には怖くて入れんで」

 弓術士の風野奈緒、両手剣のアタッカーの霞音乃かすみおとの、魔法攻撃の香月凛かづきりんの三人は、元々は《Black-Red ワルキューレ》のトップチームのメンバーである。そのメンバーが入ったチームでもAランクダンジョンの攻略は難しいのか?魔物の数が多いから、弱点があっては厳しいのか?

「メンバーを組み替えれば何とかなるだろうか?」
「うちと音乃と凛が一緒ならもう少しは進めるやろうけど、世那と美紅が入らんと四十は超えれんと思うわ」

 七十五階層の攻略までは若手の育成に目が向けれてなかった。いきなり方向転換して、若手を育てるといってもそう上手くはいかないな。

「では、Bランクダンジョンの探索の話を聞こうか?冬子とうこのチームはどんな感じだ」

 中堅の実力者である、槍のアタッカーの滝波冬子たきなみとうこに意見を求めた。

「サブマス、一つ言わせてもらって良いでしょうか?」
「ああ、遠慮することないぞ、何だ?」
「何故私はBランクダンジョンの探索をさせられているんでしょうか?」
「不満なのか?」
「はっきり言って不満です。私より実力のない子が奈緒さんや音乃さんのチームに入ってAランクダンジョンを探索しているのに、何で私は若手を連れてBランクダンジョンの探索に回されているんですか?奈緒さんがアタッカーが弱いと言ってましたよね。私を奈緒さんのチームに入れてください。お願いします」
「冬子にはチームリーダーの経験を積んで欲しいと思っていたんだが、自分のことだけを考えているようではチームリーダーは無理のようだな。奈緒、冬子が入りたいと言っているがどう思う?」
「今のアタッカーのあいよりは少しマシかなぐらいやろ。チームのことを考えられへん冬子が入っても上手くいくとは思えへんな」
「まあそんな気持ちのチームリーダーがおったら他のメンバーが大変やろ。冬子はあたしのところで預かるわ」
「音乃、誰をチームから外すつもりだ」
「チームのアタッカーはあたしと灯里あかりしかおらんからな。灯里に代わってもらうわ。あの子はBランクダンジョンでチームリーダーをしながら、実力を付けるのもええと思うわ」

 野瀬藍のせあい甲斐灯里かいあかりは若手のアタッカーとして期待している二人である。灯里が納得するのかが問題になるな。

「冬子、音乃のチームに入るので良いか?」
「皆さんの私に対する評価は低いんですね。滅茶苦茶ショックです」
「冬子の評価は決して低くないぞ。奈緒と音乃のチームの次に実力のあるチームを組んでそのチームのリーダーを任せたんだ、かなり評価をしているよ。まあリーダーの素質が無かっただけだ。音乃の下でいろいろと学んでほしい。で、Bランクダンジョンの探索はどんな感じだったんだ」
「そんな意図があったとは思っていませんでした。期待に応えられず申し訳ありませんでした。Bランクダンジョンは指示通り五十一階層から探索を始めましたが、毎日五階層を探索出来ています。来週からは指示通り、五十六階層の探索に入るつもりでした」
「チームとして不安な要素とか、メンバーのモチベーションはどうなんだ?」
「すみません、そこまで気が回らなかったです」

 完全に私の人選ミスだな。こんなに精神的に幼いとは思っていなかった。次の中堅の実力者、タンクの相馬早紀そうまさきに聞いてみよう。

「早紀のチームはどうだ?」
「はい、私が任されたチームも冬子と同じように毎日五階層を順調に探索しています。新しくクランに入った和泉と心春は、Aランクダンジョンの探索を希望しています。口だけでなく、実力もまずまずあると思っています。ちょっと個人プレーに走りがちなので、今はチームプレーを教え込んでいます。それ以外は今のところ問題はないと思います」
「早紀は今のチームでAランクダンジョンを探索しても大丈夫だと思うか?」
「十階層までなら行ける気がします」
「気がするでは心許ないな。チームメンバーの生死がかかるんだ、絶対の自信がない探索は止めておいた方がいいな」
「サブマス、今のチームでBランクダンジョンを完全攻略出来たら、京都のAランクダンジョンを探索させてください。住之江ではメンバーは違いましたが、十五階層までは攻略できました。京都でも少しずつ慣れていけば同じようにできると思っています」
「ああ、完全攻略出来たらAランクダンジョンを探索してもらうつもりだ。今、京都のAランクダンジョン近くのダンジョン物件を探してもらっている。でも焦るなよ、若手の実力をよく見て判断するんだぞ」

 その後も、中堅のチームリーダーに意見を聞いていったが、どうしてチームリーダーを任されているのかが分かった為か、意欲的な意見を言ってくる者が多かった。その点では冬子に感謝だな。














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