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 実は私には、秘密がありました。
 私は生まれた時から、前世の記憶があったのです。
 私は、現在の自分――サーシャ・ミラノとなる前は、レニア・フランと呼ばれる魔法使いでした。
 ……これに関して、思うところはありますが……。レニアは、悪い魔法使い。一夜で一国を滅ぼしてしまった、悪い魔法使い。手元にある本にも『動く災禍』と記されており、それはもう悪しき存在でした。
 だけど、今の私はサーシャ・ミラノ。レニアではありません。レニア・フランと同じ運命は辿りません。
 なのでこの身に宿るレニアの力を、平和のために使おうと思いました。
 とはいえレニアの魔力は強大で、そんなものがあると知れば人々は慄きます。もしかすると『危険人物』とされ、処刑されてしまうかもしれません。
 そこで私は、信用できる人と会えるまで内緒にするようにしました。
 そしてそれから、十三年後。十六歳の時に、本当に信用できる人と出会いました。
 その方のお名前は、私の婚約者であるハルク・ニース様。ハルク様はこの国の王太子で、名実ともに立派な方。清く正しい、真っすぐな心を持つ御方でした。
 だから私はハルク様に、全てを打ち明けました。
 そうしたら――


『ば、化け物だ……っ。早くこの女を捕らえろ!』


 ――返って来たのは、悲劇の連続でした。
 私は危険人物として身柄を拘束され、身分を剥奪。貴族という称号に加えて『人』が当たり前に持つ人権すらも奪い取られ、もちろん婚約も破棄。その後私は何百人もの魔法使いによって身動きが取れなくなる魔法をかけられ、お城の地下牢に閉じ込められてしまいました。


 ――そっか。やっぱり、そうなんですね。


 暗くて寒い部屋で。乱暴に床に転がされている私は、心の中で呟く。
 今のままでは口を動かすことすら叶わないから、心で呟く。


 ――サーシャでも。レニアと違う道を歩んでも、結局は同じ未来になるんですね。


 レニア・フランは、最初から災禍の魔法使いではありませんでした。
 彼女も昔は、その力を世界のため、みんなのために使おうとしていたのです。
 けれどレニアが婚約者に力のことを打ち明けると、相手の態度が豹変して捕らわれの身となりました。
 それが、レニアが堕ちる切っ掛けで――。その後彼女は悲しみと怒りに呑まれ、暴れ回ってしまったのです。
 私は。この世界で私だけは、レニアの真実を知っていた。だから先述した『……これに関して、思うところはありますが……』であり、私は慎重に伝える相手を見極めていたのです。


 ――けれど私も、同じ未来を迎えてしまいました。……一度経験しても、心を苛むものですね。裏切られた悲しみと怒りは。

 信じたのに。貴方となら前に進めると思ったのに。
 裏切られた。


 悲しい。辛い。憎い。悲しい。憎い。悲しい。憎い。憎い。悲しい。憎い。悲しい。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い――。


 自らの感情を抑えきれなくなった私は、本気で魔力を開放。拘束の魔法と共に鉄格子を消滅させ、彼のもとを目指したのでした。
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