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第6話 決戦(11)
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「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……。この、おんなぁ……!」
ヤツは顎から落ちる汗を拭い、歯噛みをして睨み付けてくる。その姿は外見も相俟って凶暴なライオンのようで、観客席から『ひぃっ』という声がした。
「ヒューナぁ……。このまま、取らせはしねーぞ……!」
「ううん、そうはさせない。このまま取らせてもらうわ」
「ほざけ……っ! 天才を舐めんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ったく、バカの一つ覚えね。天才天才うるさいのよっ!!」
あたしは大声を起爆剤にして、やって来たサーブをリターン。ここからまた打ち合いが始ま――りは、しない。
今回のあたしは飛んできた球を全力では返さず、突然かつかなり強引に、ネット際を狙ったドロップショットを放った。
「これを拾えなかったら、このゲームを取られちゃうわよ? 天才のユートさんなら拾えますよねぇ?」
「っっ、声で騙しやがって……! ざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
彼は目を血走らせ、鬼の形相でネットに駆ける。
その迫力と動作は荒々しく、足が絡まりそうなほど。ヤツは遮二無二両脚を動かし続け、そうして――。やがて、本当に足が絡まってこけた。
《ユート・スピン VS ヒューナ・フラット 5‐6》
ポイント連続獲得により、サービスブレイク。この試合初めて、ポイント上であたしが優位に立った。
「あらら、アンタのゲームを取っちゃった。残念無念、だったわね?」
「っっっっ! ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ユートは大音声を上げ、ガキンッ。コートにラケットを叩きつける。
「なんでだ……! なんでこんなにあっさり点を取られて、こんなヤツにブレイクされるんだよ!! コイツはオレより劣ってるんだぞっ!!」
更には叩きつけたラケットを踏み付け、頭を掻きむしって激昂する。
ラケットというものは、プレーヤーにとって相棒。大事にしなければならない友達。不愉快な行動をやめさせるためにも、種明かしをしてあげましょうか。
「ユート。そうなった理由に気付けてないみたいだから、教えてあげるわ」
「り、理由、だと……? 気付いていない、だと……!?」
「そう。それをこれから、プレーしながら発表するわ」
このゲームはあたしがサーバー(サーブをする人)なので、左手に――持ち変えはせず、呼吸を整えてからトスをあげる。
そのあとは腕をしなやかに振ってスライスサーブを放ち、そうするとボールはサービスボックス内で綺麗に弾み――。右手打ちだと『右から左』という方向になるので、その球はヤツから逃げるように跳ねる。
「ははぁん、そうやって揺さぶるつもりなんだろ……? だがなぁっ、天才にそんなものは通用しな――っ!?」
嘲笑っていたユートはボールに追いつけず、ラケットは空振りとなる。
《ユート・スピン VS ヒューナ・フラット 0‐15 (5‐6)》
第12ゲーム。あたしが、サービスエースで先制した。
ヤツは顎から落ちる汗を拭い、歯噛みをして睨み付けてくる。その姿は外見も相俟って凶暴なライオンのようで、観客席から『ひぃっ』という声がした。
「ヒューナぁ……。このまま、取らせはしねーぞ……!」
「ううん、そうはさせない。このまま取らせてもらうわ」
「ほざけ……っ! 天才を舐めんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ったく、バカの一つ覚えね。天才天才うるさいのよっ!!」
あたしは大声を起爆剤にして、やって来たサーブをリターン。ここからまた打ち合いが始ま――りは、しない。
今回のあたしは飛んできた球を全力では返さず、突然かつかなり強引に、ネット際を狙ったドロップショットを放った。
「これを拾えなかったら、このゲームを取られちゃうわよ? 天才のユートさんなら拾えますよねぇ?」
「っっ、声で騙しやがって……! ざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
彼は目を血走らせ、鬼の形相でネットに駆ける。
その迫力と動作は荒々しく、足が絡まりそうなほど。ヤツは遮二無二両脚を動かし続け、そうして――。やがて、本当に足が絡まってこけた。
《ユート・スピン VS ヒューナ・フラット 5‐6》
ポイント連続獲得により、サービスブレイク。この試合初めて、ポイント上であたしが優位に立った。
「あらら、アンタのゲームを取っちゃった。残念無念、だったわね?」
「っっっっ! ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ユートは大音声を上げ、ガキンッ。コートにラケットを叩きつける。
「なんでだ……! なんでこんなにあっさり点を取られて、こんなヤツにブレイクされるんだよ!! コイツはオレより劣ってるんだぞっ!!」
更には叩きつけたラケットを踏み付け、頭を掻きむしって激昂する。
ラケットというものは、プレーヤーにとって相棒。大事にしなければならない友達。不愉快な行動をやめさせるためにも、種明かしをしてあげましょうか。
「ユート。そうなった理由に気付けてないみたいだから、教えてあげるわ」
「り、理由、だと……? 気付いていない、だと……!?」
「そう。それをこれから、プレーしながら発表するわ」
このゲームはあたしがサーバー(サーブをする人)なので、左手に――持ち変えはせず、呼吸を整えてからトスをあげる。
そのあとは腕をしなやかに振ってスライスサーブを放ち、そうするとボールはサービスボックス内で綺麗に弾み――。右手打ちだと『右から左』という方向になるので、その球はヤツから逃げるように跳ねる。
「ははぁん、そうやって揺さぶるつもりなんだろ……? だがなぁっ、天才にそんなものは通用しな――っ!?」
嘲笑っていたユートはボールに追いつけず、ラケットは空振りとなる。
《ユート・スピン VS ヒューナ・フラット 0‐15 (5‐6)》
第12ゲーム。あたしが、サービスエースで先制した。
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