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第2話 ソフィア視点(1)

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 ※(())は心の中の声、()は小声となっております。




「ソフィア様っ! ソフィア様っ! フィアナ様!!」

 …………。???
 気が付くとわたしは…………ライアンさんに、抱きかかえられていて……。そんなライアンさんは…………血相を変えた様子で、何度も呼びかけてくれていました。

「あ、れ……? らいあん、さん……? わたしは、一体……?」
「使用人が扉の前で倒れている貴女を発見し、自分が駆け付けたのですよ。恐らくは2分程度、意識不明となっておりました」

 そっか。あの時突然、大量の情報が――前世の記憶が流れ込んできて、多分そのショックで気を失ってしまっていたんですね。

((信じられませんが……。わたしはかつて、あのフィアナ・エル様だったようです……))

 夫ルシアンの死後に正式な薬師となり、いくつもの薬を生み出した世界一の薬師。数々の異名を持ち数多の病人を救った、薬のスペシャリスト。そして、


 人間なのだから、誰だって弱気になる時はある。強い意志を持っていても、不安になってしまう時がある。
 だけど。諦めたら、下を向いてしまったら、きっとそこで終わり。あるはずの未来が、なくなってしまうのだと思う。
 だから。何があっても、前を向いて進み続けましょう。
 そうすれば必ず、願いは叶うから。


 あの本の著者である、知らない人はいない伝説の女性だったようです。

((……あの出来事は事実なのですから、だとしたら……。フィアナ様だった頃の意志が、記憶を――薬学の知識を、与えてくれたんですね))

 記憶が蘇る直前に響いた、『あの時はなかった「知識」を使って、あの時にできなかったことを果たす』、『悲劇を繰り返させはしません』。
 あれは、そういうことを意味していて……。前世であの約束をしていたので、なんとなくですが分かります。

((約束を守ってくださっていたのですね))

 アシル様は、ルシアンさん。私達はもう一度、夫婦になろうとしていた。
 今度こそ愛する人を助けて、愛する人が約束を果たせるように――。さっきのわたしの気持ちが切っ掛けになって、過去が目覚めたのです。

「ソフィア様。お熱はないようですが、どこかに異常はございませんか……?」
「はい、大丈夫です。もう大丈夫ですよ、何もかも」
「な、なにもかも、ですか? あの……。それはどういう……?」
「こちらは、内密にお願い致します。実はですね、わたしはかつて――あれ? そのお薬は……」

 中身が零れてしまったスープと薬包紙から同じく零れている薬を見つけ、立ち上がろうとしていたわたしは手を伸ばします。
 台無しにしてしまったスープさんには申し訳ないのですが、それよりも気になることがありました。

「……………………」

 この薬。
 これは……。

「ソフィア様っ! お舐めになってはいけません! 健康な方が呑んでしまったら、健康を害してしまうとのことで――」
「かえって不健康になってしまうことは、ありませんよ」(……ライアンさん、声量を合わせてください。なぜならこの粉は、単なる野草の粉末なのですからね)

 風通しの良い場所に自生してる、ナコデシ草というものを乾燥して粉にしたもの。利も害もない、本当にただの粉なんです。

「え――」(失礼致しました。ここにあるものは、単なる野草……? 『熱と痛みの緩和』を目的に、王家専属の薬師――協会の会長殿が、直々に用意してくださったものなのですが……?)
(はい。そのお話は、わたしも耳にしております。ですがここにあるのは紛れもなく、ただの白い粉なのですよ)
(ソフィア、様……。どういった理由で、そのように断言できるのでしょうか……?)
(この件に関しては、他にも何かと確認したい点があります。長くなりますので、その詳細はお部屋のなかでお伝えさせてもらいますね)

 内容を鑑みると、他の人に聞かれるのは困りますからね。確実に信頼できるアシル様とライアンさんだけしかいない場所で、全てを打ち明けることにしました。







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