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第2話(2)

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「ソフィアがあのフィアナ・エル様で、僕がフィアナ様の夫のルシアン様……。死の間際に約束を交わした僕達は時を超えて、再び出会っていた……」
「そして……。殿下がずっと飲まれていたお薬が、全く意味のないものだった……。あまりにも荒唐無稽な事実、ですね……」

 お部屋に入って先ほど知り得たものを全てお話ししたら、お二人は唖然としつつも受け入れてくださいました。
 わたしは前世の出来事をつぶさに語れましたし、なにより、膨大な――会長様を遥かに超える薬師としての知識を持っています。これまでの自分ではあり得ないことを行えているので、現実味がなくとも信じていただけました。

「そっか……。僕らの出会いは、偶然ではなく必然だったんだね」
「ええ、そうですね。フィアナ様だった部分が、前世の出来事を語りたがっているのですが――。残念ながら、そうしている場合ではありませんね」
「多々、不可思議があります。ソフィア様……。偉大な薬師の目には、薬の件はどう映りますか?」
「…………ライアンさん。このお薬は、ここに来るまで誰かの手に渡っていますか?」

 その部分は、とても重要な部分。そのためお顔を向けてみると、左右への首振りが2回ありました。

「いいえ。自分が陛下の目の前で中身を確認した上で直接会長殿から受け取って保管しており、どこかで入れ替わってしまう、間違える等は起こり得ません」
「そう、ですか。だとしたら………………この状況下で考えられる可能性は、一つ。『別の薬を飲まさないといけないため、何の影響もないものを飲ませておいた』、ですね」

 この手のものは、飲んでも飲んでいなくても体に変化はありません。ですので現況を加味すると、そういう判断になります。

「お薬の中には、複数服用すると効き目などが狙い通りに出てくれなくなるものが多く存在します。ですので、このようなものを選んだと思われます」
「………………ソフィア、様。それは……。つまり……」
「僕は、自分でも知らない間に……。他の薬を飲んでしまっていた――飲まされていた、ということなんだね?」
「はい、そうなります。症状と経過を鑑みると、恐らくは………………ソレが混ぜられていたのは、お食事。その中身は…………思った通りでした。薬であり、毒でもあるものですね」

 先ほど零してしまった、スープ。お皿に残っていた液体を少しばかり舌に載せると、本当に極僅か、熟練薬師にしか感じられない程度に独特の苦みがありました。

「本来は治療薬として使うものなのですが、これには『成分の一部が一定期間排出されず、体内に蓄積してしまう』という性質があります。ですので短期間に何度も服用すれば余計な物が溜まって不調を引き起こしてしまい、やがては死に至ってしまうのですよ」
「そっ、それではソフィア様! 殿下は……っ!」
「はい。この薬を飲まなければ、自然に快復いたします」

 症状が現れた時期が3週間前ですから、服用期間は二十数日。加えて自然な形で弱るよう一服の量は抑えられていましたので、そうですね。2週間もあれば元通りになりますし、別の薬で排出を手伝えば1週間で治ります。

「僕は、大丈夫、なんだね……。よかった……っ。ソフィアを、悲しませずに済む……!」
「自分も、安堵いたしました。殿下、おめでとうございます……っ!」

 アシル様の頬を涙が伝い、ライアンさんは目頭を押さえて肩を震わせます。当然ずっと不安だったわたしも同じ状態で、喜びの涙が零れ落ちて止まりません。

「久しぶりに……。生きた心地がしたよ……」
「自分も、です。しかし、そのようなお話は知りませんでした。治療薬として使われているものに、そんな副作用があったのですね……」
「公表していますと、不要な怯えなどをもたらしてしまいます。そのため昔から――フィアナ様が生まれた200年近く前から、薬師協会はそう決めているんですよ」

 病は気からという言葉があるように、気持ちは身体に大きく影響します。たとえばリスクがあると認識していたら、不調を――病状の悪化をもらたしてしまいます。
 そこで安心して病を治せるように。当時の人はそんな理由で秘匿のルールを設け、同時に『絶対に悪用しない』と誓ったそうです。

「ですので薬師以外は知らない情報であり、であるならば――。その薬であり毒を用意したのは、王家専属薬師こと薬師協会の会長となります」
「僕らに薬を出せるのは、あの方のみ……。そう、なるね……」
「ええ、そうですね。……けれど……。そうなのでしたら……。腑に落ちない点があります」

 アシル様がベッドで唸った後、ライアンさんが小さく手をあげました。
 はい。そうです。腑に落ちない点が、一つあります。








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