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嵐の前の静けさ
でも全部はさすがに無理。
「何とか探して送りました」
「いやー 柊也ならきっと何とかしてくれるって思った! あっちのやつらには薄い肉なんて肉じゃないって最初言われたけど、いざ食ったら美味いわけよ。塊食うより楽だしな。スライサー結構いろいろ活躍したぜ、しゃぶしゃぶしたり、すき焼きしたり」
なんだろう。ただの食い道楽に聞こえてきた。
「で、人が何十万も出して買った機械を、急かされてわざわざ航空便で、結構な運賃で送ったのに、向こうを離れるときぽんと人にくれてやったんですよ、藤也は」
「んなもん、持って帰るのも金かかるし、重いし。ちょうど日本料理の店出すってやつがいたから、ご祝儀だーってなもんで」
ぱーっと、って言いながら万歳した藤也に、柊也がため息。
「だから、今お前も俺の店、顔パスにしてんじゃん。自力で頑張って元取れよ」
あっけらかんとした藤也。ため息つく気も失せたのか、ワイン飲んでる柊也。でもなんだかんだ言って、仲良いよなぁ コイツらって。
きっと藤也は何も考えずに柊也に無理難題吹っかけて、柊也はスマートな振りしてるけど結構負けず嫌いっぽいから、意地でも探して送ってたんだろうことくらい、俺にも想像つく。
「マコー? 大体あらかた食べたけどどうする? デザート、食う?」
「食う!!」
藤也が冷蔵庫から出してきた白い箱。開けて覗き込んだら、キラキラしたスイーツが三種類一個ずつと、プリンが三個。
うわー おいしそうだなぁ どれにしようかな。タルトもいいけど、梨もベリーも捨てがたい。シンプルなプリンも食いたい。でも全部はさすがに無理。
「うううー」
「ケーキは全部マコのだから、残りは明日食えば?」
覗きこんだまま唸って動かない俺を見て、コーヒーやら取り皿なんかを持ってきた藤也が笑う。
「二人ともプリン食うの?」
「ええ。さすがに真琴のように、食後にいくつもいくつも入りませんから」
伸びてきた手が二本。プリンの容器を取り出す。
「んじゃ、俺もプリンとー 梨にしようっと」
俺が悩んでる間に、食事のプレートはテーブルから消え去って、真っ白の新しい皿に、梨のミルクレープ。
層になってるとこ、フォークで切るのが楽しい。藤也が作るのは、クレープもすごく柔らかいから、クリームがはみ出したりせずに、普通のケーキみたいに切れるんだよなぁ。
一口、口に入れて。
はぁー 幸せだなぁ
上に乗ってる梨は、ちょっとくたっとなってるけど、厚さが絶妙で、ちゃんとしゃきしゃきした食感も残ってる。
おいしいものはあっという間になくなってしまう。今度はスプーンをもって、プリン一掬い。んー これも美味い。
「ほんっと、マコは美味そうに食うよなぁ」
「実際美味いし。俺、プリン好きだから、結構有名なトコのとかも色々食ったけど、藤也のが一番好き」
「そんなことを言うと、毎日プリン攻めに遭いますよ」
「へーき。バケツプリンでもこれなら食えると思う」
ふわっとして、とろっとして、甘くて、でもしつこくない。
「製造法的にバケツは無理」
「ちぇー」
容器の底に残ったプリンを未練がましくこそげ取ってる俺に、藤也が笑いながらコーヒー飲みほした。よくこんなのストレートで飲めるよなぁ って思う。
食後のは、すげぇ濃くて苦いから、俺のだけカフェオレ仕様。
「さてと。風呂張ってくるわ。柊也片付けよろしく」
同じくらいのタイミングで飲み終わったらしい柊也が頷くのを見て、藤也がダイニングから出て行った。
「あ、俺も手伝──ぐぎ」
反射、手伝おうと思って何にも考えずに立って。
腰とか、それからあらぬところとか。急な動作にビッキーンって電気走って、そのまま撃沈。
「真琴は休んでいていいですよ。ざっと汚れを落として食洗機に入れるだけですし」
ちくしょー
動いてた方が気が紛れて楽なのに、動けないってツライ……
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