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第一章:聖女から冒険者へ

30.学生時代の友人

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 私達がグレイスラビリンスに来てから三日が過ぎていた。
 北の国での天候は荒れると暫く続くらしく、あとどれくらいしたら天気が回復するのか予想が付けられず、未だにここで足止めを食らっていた。
 天候だけはどうにもならない問題なので仕方ないとは思うけど、余りにも長引くと困ってしまう。

 私達は食事を済まして、街を歩いていた。
 そんな時だった。

「あれ? もしかして、イザナ……?」

 背後からイザナを呼ぶ女性の声が響いた。

「ソフィアか?」
「あ、やっぱりイザナだ。久しぶりねっ」

 彼の名前を呼んだのだから、イザナの知り合いであることは間違いないのだろう。
 彼女はイザナだと分かると、嬉しそうに笑顔を浮かべて近づいて来た。

「久しいな。こんな所で会うなんてな。元気だったか?」
「ええ、私は元気よ。イザナは?」

「ああ、私は元気だよ」

 二人は親しそうに話している。
 私とゼロは会話に入れず、二人のやり取りをただ眺めていた。

「ああ、悪い。二人にも紹介しておくよ。彼女はソフィア・エッカーマン。私の学生時代の友人だ」
「初めまして、ソフィアです」

 彼女は私達の方に顔を向けると挨拶をした。
 ソフィアは色素の薄い紫色の長い髪に、同色の瞳をしている。
 髪色はあまり見ない色だが、他を見れば派手でもなく地味でもない。
 要するに特に目立った容姿では無いという事になる。
 イザナと学生時代の友人だと言う事は年齢は25前後なのだろう。
 表情が柔らかいせいか優しそうに見えた。

「彼女が私の妻であるルナと、同行者のゼロだ」
「え、妻って……。じゃあ、もしかしてルナさんて聖女様ですか?」

 ソフィアは私が聖女だと分かると、驚いた顔でこちらをじっと見つめていた。
 私は聖女と言われて思わず苦笑してしまう。

「ソフィア、悪いがルナが聖女であることはあまり言わないで欲しいんだ」
「あ……、そうなんだ。ごめんなさい、ルナさん」

 イザナの言葉にソフィアは慌てて謝って来たので、私は「いえ、大丈夫です」と小さく答えた。

 外でずっと立ち話しているのも寒いので、どこかゆっくり出来る個室がある店へと向かった。
 そこでイザナはここに来ている理由をソフィアに話した。
 するとソフィアもジースに行くつもりだと言う事が判明した。


 ***


「この吹雪で先に進めなくて困っているんだ」
「それなら旧坑道を通って行きましょう。私は何度も通ってるから案内出来るわ」

 イザナが困っている事を話すと、ソフィアは一緒に行くことを提案してきた。

「おお、マジか? 俺達ずっと足止め食らってて困ってたんだよ」
「この国は天候が中々読めないからね」

 彼女の話にゼロも乗り気のようだ。
 戸惑っているのはこの中で私だけなのかもしれない。

「で、でもっ、旧坑道って迷うと抜け出せないって……」
「ふふっ、大丈夫よ。慣れてない人が通ればそうかもしれないけど、私は道順を知ってるから迷う事は無いわ。だからそんな顔をしなくても大丈夫よ」

 私が不安そうな顔をしていると、ソフィアは優しい顔で安心するように言ってくれた。

「ルナ、ソフィアの言葉は信じていいと思うよ。ここはソフィアの地元だからな」
「うんうん、もう何十回も通ってるからね。絶対に迷わないって自信はあるわ。だから私を信じて」

 彼女がここの地元なのだと分かると、私は安心するように小さく頷いた。

(何度も通ってるなら、迷うことはないのかも。良かった……)

「だけど最近少し魔物が出たりすることもあるから、それだけは注意かな」
「魔物なら俺達に任してくれ。これでも一応冒険者だからな」

 ゼロは自信あり気に言った。

 そして出発は明日に決まった。
 そして今日はこれで解散することになったのだが、ソフィアはイザナに話があると言ってきた為、私とゼロは先に宿屋に戻ることになった。


 ***


 帰り道、私はゼロと並んで歩いていた。

 私は少し彼女のことが気になっていた。
 元同級生ということなので、イザナが王子であることをソフィアは知っているのだろう。
 それなのにソフィアは親しそうに名前で呼んでいた。
 敬称を付けずに呼ぶのだから、それほど親しい間柄なんだろうと思う。
 私が黙って歩いてると、ゼロは顔を傾け私の横顔を眺めてきた。

「ルナ、どうした? そんな暗い顔して……」
「別に、暗い顔なんてしてないよ?」

 ゼロに指摘されて私は慌てて笑顔を作って答えた。

「そうか? 妙に静かだったから、何か考え事でもしてるのかなって思ってな」
「うん、なんでもないよ」

 ゼロは妙に勘が鋭い所があるので、ドキッとさせられる。

「もしかして、ソフィアに嫉妬でもしてるのか?」
「はっ……? し、してないよっ!」

 突然ゼロにそんなことを言われて私は慌ててしまう。
 確かに少しソフィアの事は気になるけど、嫉妬というのは違う気がする。
 久しぶりに同級生に会ったら、誰だって懐かしいと思うはずだし、募る話もあるのだろう。
 こんなことくらいで一々嫉妬していたら、私の心が持たない気がする。

「ふーん、成長したな。ティアラの時はあんなに悩んでたのにな」
「あれはっ、仕方ないよ……」

 その言葉に恥ずかしくなり、私は顔を背けた。

「まあでも、これで漸くジースに行けるな」
「うん、そうだね。ジースってどんな所なんだろう!」

 私は既にわくわくしていた。
 魔法都市というパワーワードに興味を惹かない方がおかしい。
 それに初めて行く場所だから、余計にそう思えるのだろう。

「ルナ、分かりやす過ぎる反応だな」
「……っ」

 私が嬉しそうな顔をしていると、ゼロはクスッと笑っていた。

「そうだな。やたらと図書館が多い場所だな。それと、魔法書や魔術に特化した装備が豊富ってとこか。だけど一番驚くのは、やっぱり空に浮かんでるって事だろうな」
「……空?」

「魔法都市ジースは天空の都市って別名もあるんだよ」
「天空の都市……」

 ゼロの言葉に私の想像は膨らんだ。

(なにそれ、すっごく楽しそう……!! 早く行ってみたいな)
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