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第一章:聖女から冒険者へ

42.敵国の動向②

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「でもさ、その話が本当だって言うのなら、一番狙われるのはルナじゃないのか?」
「……!?」

 ゼロの言葉に私はドキッとして、不安そうな表情へと変えていく。

(なんで私!? もしかして、私が聖女だから……? 邪魔者だと思われて、消されるとか!?)

 突然私の名前を出されて驚いてしまったが、理由はそれだけではない。
 そんな危険な国に狙われているのかもしれないと思ったら、体が竦んでしまうくらい急に怖くなってきたからだ。

「悪い、ルナ。そんなつもりで言ったわけじゃないんだ」

 明らかに動揺している私の姿を見て、ゼロは慌てるように謝ってきた。
 私を怖がらせるために言ったわけでないことくらい分かっていたが、その時の私はそれでも戸惑いを抑えることが出来なかった。
 あんな恐ろしい話を聞かされた直後だったのだから仕方がない。

(どうしよう、もし捕まったら……。怖い)

「ルナ、そんなに怯えなくても大丈夫だよ。ルナが狙われることは恐らくないと思う」
「私、狙われてない? 本当に……!?」

 イザナは落ち着いた声で言った。
 私を安心させるために、一時的にそう言ってくれただけなのかもしれない。
 私が縋るような顔でイザナを見つめていると、彼は私の頭を優しく撫でながら「大丈夫だよ」と再度言ってくれた。
 彼の表情を見ていると、本当に大丈夫なのかもしれないと思い始め、少しづつではあるが落ち着いていく。

(本当に大丈夫なのかな……)

 だけど完全に不安が拭いされたわけではない。

「これは噂なんだけど、最近ダクネス法国で大きな召喚の儀が行われたそうなんだ」
「召喚の儀……? それって私の時みたいな?」

「恐らくはね。そして、どうやら召喚されたって言うのが聖女のようなんだ」
「え……? 聖女って。私以外にも呼べるの?」

 聖女は世界に一人しか存在しないものだと勝手に思い込んでいたけど、この考えは誤りだったのだろうか。

「同時期に聖女が複数存在することは、有り得ない話では無いと思う。災厄が五つ存在するように、聖女だって一人とは限らないからね」
「……たしかに」

「召喚方法の知識と優秀な魔術師が揃っていれば儀式自体は可能だとは思う。失敗することもあるとは思うけど、あそこは魔術師が建国した魔法国だからね。ベルヴァルトよりも強い魔術師が揃っているのは間違い無いだろうな。そうなれば、成功率も自ずと高くなる」

 彼の分かりやすい説明を聞いて、私は納得していた。

(でも聖女なんて呼び出してどうするつもりなんだろう。災厄を起こそうとしている人達なんだよね? それなら、逆に聖女は邪魔な存在にならないのかな……)

 新たな疑問が生まれて、私は頭の中で考察を巡らせていた。

「ルナが狙われないって言った根拠は、第一の災厄をルナの手で封印したからだよ。この世界には元々五つの災厄が存在していて、一定の周期で起こるようになっているんだ。二年前、ルナが封印したのが第一の災厄と言われるものになるね。そして封印することで、聖女の力は失われる」
「え? でも私、今でも回復とか出来るよ? 魔法だって普通に使えてるし」

「基本的に聖女は魔力に関しての基礎能力値が高いからね。失われるというのは、封印をする時に使う聖なる力のことになるのかな。それは聖女にしか扱えないもの。今後、もし第二、第三といった災厄が起こったとしても、ルナには封印出来ないってことになるね」
「そういうことなんだ」

 今彼が言ったことが事実だとすれば、私はもう本当に聖女ではなくなったということになる。
 そのことを知って、嬉しいような、少し寂しいような気持を感じていた。

(私、もう聖女じゃなくなっていたんだ。全然知らなった……)

 それならば、どうしてあの国は役目を終えた私のことを引き留めるために、イザナと婚姻させたのだろう。
 他に考えられることと言えば、聖女であったという名誉な肩書があることくらいだ。

「恐らく、そのこともあの国は知っているのだろうな。そうでなければ、新たな聖女なんて召喚しないはずだからね。今の話で少しは安心出来たか?」
「うんっ……」

 イザナは優しい瞳で私のことを見つめていた。
 私はほっとしたように小さく頷くと、彼は小さく微笑んで「良かった」と言った。

(良かった……。私が狙われる可能性は低いってことだよね。これで安心して旅を続けられる)

 安堵はしているものの、新たな聖女に関して少し気になっていた。
 召喚された聖女は、私のように突然異世界から呼び寄せられた少女なのだろうか。
 当時の記憶を思い出し、私は複雑な気持ちになっていた。

(でも、そうだよね。聖女になったのは私だけではないはずだよ。過去にもいたはずだし、きっとこれからだって……)

 先程の話でイザナは、一定の周期で起こっていると話していた。
 苦労して封印した災厄も、数十年、もしくは数百年後にはまた復活してしまうのだろう。
 そんな事を考えると気が滅入りそうだったので、それ以上考えるのはやめることにした。

「そうだったのか……。ルナ、不安なことを言ってごめん」
「ううん、ゼロも知らなかったなら仕方ないよ。私のことを心配して言ってくれたのは分かってるから、大丈夫だよっ」

 私はゼロの事を責める気など最初からなかった。
 一緒に旅を続けて来て、彼はいつも私のために色々動いてくれていたのを見て来て知っているからだ。
 そして私にとってゼロは、何でも話せる友人のような存在なんだとも思う。
 
 最初は怖い話だと思って怯えてしまったが、結果的に安心することが出来た。
 そして、聖女と言う特別な地位から解放されたのだと思うと、心がすごく軽くなったような気がした。

 『聖女』のルナではなく、ただの『冒険者』のルナになれたことを私は嬉しく思った。
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