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第一章

18.激怒

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その後はロランが私の屋敷まで送り届けてくれた。
馬車の中で震えている私の手をずっとロランが握っていてくれたから、私は平常心を保つことが出来たのかもしれない。

「シャル…大丈夫か?」
「……大丈夫じゃないけど…平気…。ロラン、送ってくれてありがとう…」
屋敷に着くと家の前までロランが付き添ってくれた。

「……やっぱり、もう少しお前の傍にいるよ。今のお前を一人にはしたくない…」
「ロラン優しいね…、ありがとう…。私も本当は一人だと色々と考えちゃいそうだったから…少し怖かったんだ…」
私が力なく笑うと、ロランは「俺になんて遠慮はするなよ」と漏らした。

(…こんなにロランに甘えていいのかな。ロランには婚約者だっているのに…。それに今回の事だって巻き込んじゃったわけだし…。でも…今日だけは…今日だけなら…いいよね…?)

私はロランの婚約者に申し訳なさを感じながらも、「今日だけ」と自分に言い聞かせていた。


屋敷に入ると使用人が私に気付き、近づいて来た。

「お嬢様、お帰りなさいませ…。旦那様がお嬢様の事をお待ちしておりますので、居間の方まで来て頂けますか…?」
「え…?お父様が…?」
屋敷に帰って来て早々私の事を呼び付けるなんて、理由は一つしか思い浮かばなかった。

(きっと…ジェラルドとの婚約解消の件だ……)

「シャル…大丈夫か?顔が真っ青だぞ…」
「……ロランも…一緒に来て…」
私は懇願する様な瞳でロランを見つめていた。

正式に婚約解消されたことを告げられるのが怖くて仕方が無かった。
まだどこかで、あれが本当ではないと信じたかったからなのかもしれない。

「ああ、安心していい。俺はシャルの傍にいるから…」
「……ありがと、ロラン…」
ロランは心配そうに私の顔を見て、私の手をぎゅっと握ってくれた。

「ご案内します、こちらへ…」
使用人は父が待つ居間へと私達を連れて行くと、扉をトントンと叩いた。


「旦那様…、シャルロッテお嬢様を連れて参りました。ご友人のロラン様もご一緒です…」
「ああ、入ってくれ…」
扉の奥から父の声が響き使用人が扉を開くと、私は父と目が合った。
父は私の真っ赤に染まった瞳を見て直ぐに何かを察した様だった。

「ロラン殿…、今日はわざわざ娘を送り届けてくれたこと…感謝する」
「お久しぶりです、ヴィーツェル公爵。シャルが…彼女がこんな状態なので…当然です」
私はロランと隣り合うようにソファーへと腰を下ろした。

「……その様子じゃ、シャルはもう知っている様だな。先程…王家から第二王子であるジェラルド殿下との婚約を白紙に戻すと書かれた書面が届いた。一体…こんな時期に何を考えているんだ…あのクソ王子は!婚約を決めたのも…結婚を急いだのも王家の方なのに…。それに小国の第三王女と婚約を決めたなどと……我が公爵家を侮辱するのにも程がある!」
「……ヴィーツェル公爵、落ち着いてください…」
父は怒りの感情を露わにして、部屋に怒号を響かせた。
普段穏やかな父が此処まで感情を剝き出しにする姿を見たのは初めてな気がして、私は驚いていた。

「すまない…つい感情が昂ってしまって…二人とも申し訳ない。シャル…こんな事になっているとは、私も全く知らなくて…驚いているのだが…二人はジェラルド殿下から直接聞いたのか?」
「はい、アリエル王女も同席して…その話を聞かされました」
答えられない私に代わってロランが答えてくれた。

「そうか…。シャル…辛かったな。そんなに目を腫らして…可哀そうに…。暫く学園は休みなさい…、無理して行く必要は無いからね…」
「……でも…」

「シャル、暫く休養だと思って休んだらいいんじゃないか?ジェラルドと顔を合わせるのは辛いだろ?」
「そうだぞ、シャル。それに…恐らくこの情報は他の貴族達にも伝わっているはずだ…。噂好きな貴族達はある事無い事好き勝手言うだろうからな。その事でシャルがまた傷つく事になるのは私も避けたいんだ…。今はゆっくり過ごせばいい。この地に居たくないと言うのであれば、旅行にでも行って落ち着いた場所で過ごすのもいいかもしれないな。学園は休学と言う事で私が伝えておく…。だから今は休みなさい…いいね」

ロランも、父も私の事を心配してくれているのだろう。
表情を見ればそれはすぐに分かった。

「わかりました。暫く…学園はお休みします…」
私は静かに答えた。

私自身もどこかほっとしていた。
これで暫くの間ジェラルドとアリエルの仲良くする姿を見なくてすむから。

だけど…それと同時にあの時に聞いたジェラルドの言葉が気になっていた。
ジェラルドはあの時確かに『仕組まれた』と答えていた。
しかし変に期待を持って、また絶望に突き落とされたらと思うと怖くて調べる気にはなれなかった。

(もう…ジェラルドの事は忘れたい…)

これ以上何も考えたく無くて、私はそうなることを強く望んだ。
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