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第一部

24.逃走中

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私は毎日の様にローレンが学園に行ってる間、鍵作りに励んでいた。
そしてついにその時がやって来た。

カチャカチャ…
作った鍵を一周回すと足枷が外れた。

「………っ!!」
私は嬉し過ぎて声にならなかった。

足枷が外れた。
これで私はやっと自由になれる。
高鳴る気持ちを押さえて、私は急いでここから出て行く準備を始める。

ローレンが戻って来るまでにはまだ2時間はある。
だけどゆっくりなんてしていられない。
1秒でも早くここから抜けしたかった。

私はクローゼットの中から一番目立たない服を取り出し急いで着替える。
そしてポケットに入るだけ、お金に換金出来そうな装飾品を詰め込んだ。
靴を履くと、そのまま窓の方へと移動した。

足枷が付いてた頃は窓までは近づけなかった。
窓も殆どが開かない仕様になっていたけど、一つだけ空気の入れ替えの為に開く扉があることを私は知っている。
私はその扉を開けるとゆっくりと外に出た。

この部屋は一番端の奥の部屋で、すぐ傍には大きな木がある。
飛び移れない距離ではない。
少し怖いけど、最悪落ちても2階だし死ぬことは無いだろう。

迷ってる暇なんて無い。
そう思って私は大きく深呼吸をすると、木に飛び移った。

「………っ……あぶなっ…」
片足が滑りそうになった瞬間両手で木にしがみ付いて、無事木に飛び移ることが出来た。
心臓が止まるかと思った。

私はそのまま木の枝に足を移動させながら下へと降りていく。
枝が無くなると木に足と手を絡ませ、しがみ付く様にしてゆっくりと慎重に降りて行った。
少し間抜けな姿だけど、誰も見てないから気にしない事にしよう。

下まで降りると建物の物陰に隠れながら、見張りなどが居ないか確認する。
見張りではなさそうだけど、メイドの話し声が聞こえて来た。
私は見つからない様に物陰に隠れながらメイドが居なくなるまで少し待機することにした。


「近頃のローレン様、ピリピリしていて本当に怖いわよね…」
「本当よね。目が合った瞬間殺されるんじゃないかと思ったわ…」
メイド達はどうやらローレンの話をしている様だった。

「もうすぐ成人の儀だって言うのにね…。アレクシア公爵様と揉めているって噂よ」
「それってヘンディル伯の令嬢との結婚の事よね?私もその噂聞いたわ…」

どういうこと…?
ローレンはシレーネとの婚約は白紙に戻すって言ってたけど…違うの?

「あ、いけないわ。もうこんな時間…ローレン様が戻ってくる前に準備を終わらせないと怒られてしまうわ」
そう言ってメイド達は慌てて屋敷の中に戻って行った。

その話がどういう意味かは分からなかったけど、私は扉の方へと向かった。
どうやら本当に見張りは無く、簡単に外に出ることが出来た。


やっと…!!
やっとここから抜け出すことが出来た。
私は感動して思わず両手を握りしめた。

だけどまだ油断は出来ない。

ローレンが帰って来て、私が居ない事に気付けばすぐに探そうとするに違いない。
なるべく遠くに行って身を隠せる場所を見つけないと…。

実家にも帰りたいけど、きっと実家に戻ればすぐにローレンの所には知らせが入るだろう。
だから今はその気持ちは抑えることにした。


私は走って近くの街まで向かった。
きっとローレンは私が王都へ逃げたと思うだろう、だけどそれは想定済み。
大きい街だからこそ逆に目立たないと思った。
それに私は一応は死んだ事になってるから、公に私の捜索も出来ないだろう。
だから暫くは目立たない様にして王都で身を隠すことにした。

屋敷を逃げ出してからはっきりとした時間は分からないけど、恐らく1時間程度だろう。
とりあえず私は直ぐに装飾品を換金することにした。

骨董屋に入ると、店内には色んな物が売られていた。
宝石や装飾品、衣服に装備品などジャンル問わず置かれていた。

私は目に入った黒い目立たないローブと、履きやすそうな茶色のブーツを手に取った。

「換金と、これ購入したいです」
「ちょっと待っておくれ、今鑑定させてもらうね…」
骨董屋の主人は80代くらいの白髪の老人だった。

「これ…全部買取でいいのかい?」
「お願いします…」
そう言うと老人は一つづつ鑑定をしていく。

「そうだね、この3点で…150金貨って所かな。お前さん、良い所のお嬢さんなのかい?」
「え…、ああ…はい。150金貨で良いです。あとこのローブとブーツはおいくらですか?」
私が聞くと「差額は抜いといたよ」と言われた。

150金貨あれば当分生活には困らないだろう。
もっと安いのかと思っていたけど、思った以上に換金額が高くて驚いた。
ローレンは一応公爵令息だし、私に良い物を買ってくれたんだなと思うと少しだけ心が痛んだ。

私は換金を終えると骨董屋から出て、路地裏で買ったローブとブーツを身に着けた。
履いていた靴は路地裏の目立たない所に履き捨てて行く事にした。

歩き疲れたせいでお腹が空いたので簡単に食べれる軽食を食べると、私は比較的安い宿屋を探した。
貴族が泊まりそうもない、平民向けの宿屋に止まった方が見つかるリスクは少ないはず。

基本的に貴族はプライドが高いから、絶対に平民向けの宿屋になんて泊まらない。
本来のアリアもそういうタイプだったけど、私は転生しているので全くそんなことは気にしない。

私は宿屋を見つけると、中に入った。

「いらっしゃいませ、お泊まりの方ですか?」
「はい…」
宿屋の受付をしていたのは主人では無く私と同年代位の若い女性だった。

「何泊されますか?」
「えっと…とりあえず1泊で、あとからまた増やす事って出来ますか?」
私が聞くと感じが良い態度で「大丈夫ですよ」と言ってくれた。

「食事もここで出来ますので、良かったらご利用くださいねっ!うちの食事結構人気なんですよー」
「そうなんですね、後で来てみます」
年代が同じせいか話しやすく感じた。

「それではお客様のお部屋は203号室になります、ごゆっくりどうぞー」
「ありがとうございますっ…」
私は挨拶を済ますと、泊まる部屋へと向かった。



室内に入ると、小さい一人用のベッドと小さな机と椅子、そしてクローゼットが置かれていた。
トイレは兼用で外にあり、浴場は無い。
汗をかいたので少し気持ちが悪かったけど、今は我慢するしかない。

私はベッドに横になった。

「はぁ……とりあえず、ここまで来れた…」


これからどうしよう…。

とりあえず、私が生きてる事を家族に知らせたいけど今はそれを行うのは得策ではない。
家に近づけばローレンに見つかる可能性が高い。

それからシレーネの事も心配だった。
ローレンはシレーネとの婚約は白紙に戻すって言ってたけど、あのローレンの言葉をそのまま鵜呑みには出来ない。
あのメイドの話しぶりから、きっとまだ婚約は続いてるんだと思われる。

そうなるとシレーネが心配だ。
あんな狂ったローレンと結婚してしまえば、シレーネが何をされるか分からない。
シレーネは大事な友達だから救いたけど、今の私はシレーネに近づくことも出来ない。

本当ならすぐに王都を離れて他の国に逃げようと考えてた。
だけどその為にはいくつかの問題がある。

私は死んだ事にされているため、他国への入国がこのままだと出来ない。
冒険者登録などをして、身分証を作るしかない。
だけどここの冒険者ギルドに行くとローレンに見つかる可能性が高い。


まだまだ問題は山積みだ。



安心したせいか、私はそのままうとうとと眠ってしまった。

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