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「「しるし」は・・・・・・」
夜神は自分の首を隠すように、両手で覆う。ルードヴィッヒに咬まれて、無理やり付けられた所有物の証。
コレがある限り死ぬまで自分は、あの皇帝の物だと吸血鬼達に言っているのと同じなのだ。

目の前が暗くなりそうだ。いや、暗くなってきたのか?夜神がそんな事を思ってしまったのも無理もない。
傍から見ていたら震えだして、クラクラと体が揺れはじめていったのだ。

これはまずい!と日守衛生部長が駆け込んで、夜神を抱きとめる。
「息をゆっくりと吸って、吐いて、もう一度吸って、吐いて、そうゆっくりでいいから・・・・・・大丈夫」
過呼吸になりそうだった夜神に、背中を擦りながら、息の仕方を教えていく
「ハァハァハァハァ・・・・ハァーハァー・・・・・」

しばらくすると呼吸も安定してきて、何とか喋れるまでに回復した。
「・・・・・すみませんでした。お見苦しい所をお見せして申し訳ございません。日守衛生部長もありがとうございます」
夜神は背中を擦る日守衛生部長と藤堂達に、頭を下げて先程の失態を詫びる。

「体調は大丈夫なんだね?なら続けていく」
「なっ、見たでしょう。まだ、万全ではなんですよ!大体の情報は入手出来たのですから、後日でもいいでしょう!」
藤堂と上層部で意見が分かれる。夜神を守りたい藤堂と、日本軍を絶対的に優位にさせたい上層部とで対立している。

夜神はそんな藤堂元帥を見て嬉しくなった。自分の事を心配してくれる人が近くに居るだけでも、心強いのだ。それは背中を擦る日守衛生部も同じだ。

この部屋でも一人ではない。夜神は俯いて溢れそうになる涙を堪えて、心を整えてゆっくりと顔を上げる。
「ご心配ありがとうございます。私は大丈夫です・・・・「しるし」と「スティグマ」は同じです。ただ格が違うだけです」

日守は話しはじめた夜神から、ゆっくりと離れてすぐ近くの窓側に移動する。ここなら変化も見逃さず対応出来るからだ。
藤堂も上層部の面々に顔を向けて喋る、夜神に何も言えなくなり口を挟むことを辞めた。
ただ、もう一度同じことがあれば、今度は本気で止めることも辞さない覚悟を決めていた。

「吸血鬼の行うマーキングです。「しるし」と呼ばれ、特定の吸血鬼だけが出来る行為です。気に入った人間に付けていきます。そして「しるし」のある人間に吸血行為、殺傷行為をする事は禁じられてます。もし、それを行ったら速死刑です。そして「スティグマ」も「しるし」と同じです。ただ、使う相手が違うので言い方を変えてるようです」
「なら、夜神中佐はどちらを付けられて、相手は誰なんですか?」

上層部の質問に、無意識に手で首を隠す。顔は蒼白になり、ガタガタと震えだす。
「・・・・・・「スティグマ」です。相手は・・・・皇帝です・・・・・」
「なっ、皇帝とは、あの帝國の皇帝・ルードヴィッヒか!!」
「いや、何故?」
「中佐、それは事実か!偽りはないのだな」
予想しない人物に上層部の人間は矢継早に質問していく。
ただ、それを予測していた人物もいる。それが藤堂元帥と七海少佐の話しを聞いていた日守衛生部長だ。

「私は、幼少期と三年前の襲撃事件で二回付けられました。ただ、あちら側も私が付けられていたのを知らなかったようです。知っていたのは皇帝だけでした。今後どうなるかは分かりません。あちらの世界ではあちらのルールがありますが、私はここに居ます。それがどうなるかは討伐任務をしないと分かりません」
分らない事だらけなのだ。それはこの場に居る上層部もそして夜神自身もなのだ。

「夜神中佐の「スティグマ」の件は機密として対処する。それ以外は、共有情報としていくことでいいですか?みなさん?」
藤堂元帥が上層部の面々をぐるりと見回して、凄みのある声と顔で牽制する。それに圧倒されたのか騒がしかった上層部も静になり、口々に賛成を告げていく

「話もまとまったので、答申委員会は終了する。そして夜神中佐に処分を言い渡す!」
藤堂の声を聞いて、震えて涙目だった夜神は、顔を上げて敬礼する。
「はっ!!」
それは染み付いた習慣からなるものだった。それを見ていた藤堂は上層部に見せた凄みのある顔ではなく、いつもの威厳ある、だかその瞳はどこか優しさを含んだ表情で夜神を見る。
「夜神中佐には一週間の入院指示が出ている為、入院してもらう。退院後は一ヶ月の内勤勤務を命じる。引き続き学生の教育係は続行するように。討伐は第一室の隊長達に同行を願い出るように。そして、内勤勤務で書類整理と体力の回復をするように!」
「はっ!了解しました!」
「そして、その身を呈して謎の多い帝國から、様々な情報を持ち帰り、帝國軍の進軍を阻止した功績を認め「大佐」に任命する。その階級に見合った行動をするように!」
「えっ?・・・・はい!」
あまりの出来事に驚いてしまって、返事をしてしまったがそれ以上の言葉は出ることが出来なかった。
降格すること考えていたのだ。それが逆の事になったのだから驚き以外ない。

「夜神大佐にはこのまま、女性の答申委員会があるが、日守衛生部長続けても大丈夫かね?」
窓際で様子を見ていた日守衛生部長に藤堂元帥が確認する。
「点滴を外したり、準備などある為、三十分の休憩を挟んで開始を願い出ます」
「了解した。では三十分後に、場所はここで。委員会の皆さんに連絡を。我々はこれで失礼する」

藤堂元帥からの指示で日守衛生部長や上層部の女性が動いていく。そして部屋から上層部の面々が出ていく中、藤堂は夜神に近づきベットに腰掛ける。
「藤堂元帥?」
「凪、頑張ったな。嵐山も凪ぐらいの年で大佐にはなってなかったぞ?さすが嵐山の娘だ」
藤堂の手が夜神の白練色の頭を撫でる。それは子供をあやすような優しい手つきだった。
白い目を目一杯開いて藤堂を見る。藤堂の顔つきは先程の威厳のある顔ではなく、優しさに溢れていた。
「ありがとうございます。先生に追いつけるよう頑張ります」
「凪なら、立派な剣士になれる。それと内勤の書類整理なんだか・・・・・」
「元帥?」
「机の上でサグラダ・ファミリアが建造されているんだ。頑張って解体していくように。けど、入院で更に増えるかもしれんな・・・・頑張れ!」
「サグラダ・ファミリア?解体?なんですかそれ?」
藤堂の突然の話についてこれず、夜神は「?」を飛ばしながら話しを聞く
「見れば分かる。私はそろそろ出る。凪、次の委員会は黙秘権が認められている。あまり無理をするな」
「っ・・・・・・はい。ありがとうございます」

次の委員会は女性の答申委員会だ。それは性的暴行があった者のみに適用される。そして夜神はそれに当てはまる。
藤堂は夜神の頭をグシャグシャとかき乱して、ベットから立ち上がり振り返ることなく病室を出でいく。

夜神も藤堂の心配を分っているし、立場上足を踏み入れられないことも理解している。だから上層部が出ていってからの短い会話で、落ち着かせようとしてくれたことも分てしまい苦笑いをする。

「スティグマ」などと、厄介なものを付けられてしまった夜神でも、変わらず受け入れてくれる人達が居ることが嬉しかったのだ。
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