奪われた英雄と不死の魔王

 魔王。それは、『魔物を生み出す』という人智を超えた権能を持つ存在。
 不死とも呼ばれたそんな魔王を倒した三人の英雄がいる。
 内の一人、『封魔のヴェルテ』。
 彼は魔王討伐後、故郷近辺の森林にある親友の墓参りへ赴いていた。
 そこで、英雄である彼の運命を狂わす出会いを果たす。

 墓標として建てていた石碑に纏わり付く魔物の影。
 肉塊にただ目玉と不揃いな口をつけただけのような見た目をした、数々の魔物を倒した彼ですら初めて見るその悍ましい魔物は明らかに何もできない低級のものだった。
 彼は親友の墓を汚すその魔物を一閃しようとした。──が、魔物は魔法を極めたはずの彼が絶句するような、想像を超えた魔法を行使する。

 『入れ替わり』
 それは、肉体を奪い魂を交換するという馬鹿げた魔法。

 彼はその魔法と魔物の存在について、一つの可能性を思い出した。
 自分以外の他の二人の英雄が研究していた禁忌の古代魔法にそれに近しいものがあった。
 こんな異常事態を招いたのは、異常者としか思えないあの二人による謀りと見て間違いない。
 
 肉体を奪われ低級魔物に身を堕とされた彼は、踵を返す自分自身だった背中を見上げて誓う。
 この姿で生き残り必ずあの肉体を取り戻す。そして、なんとしてでも自分をこの状況へと陥れた二人の英雄を見つけ出し、殺す。

 冒涜の錬金術師──ディラ=フェルディア。
 傀儡の異端官──シシリア=デンフォード。

 もはや英雄でなくなったヴェルテの殺意の渦はこの二人に向けられた。
 ──が、彼は知らなかった。
 英雄たちの思惑と、ヴェルテに与えられた試練の真実を。


◆◇◆

 短編を書いてみたくて執筆しました。
 4日連続更新、5話で完結する予定です。
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