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19ー海沿い通り、船がたくさん見えますの
しおりを挟む朝市が終わるまで、マルタの家の前の海沿い通りを散歩しました。
市場があるので、朝の海沿い通りには土手から繋がった桟橋に船がたくさん繋がれています。
手漕ぎボートから、一本のマストが船中央から伸びる漁具を積んだ中規模のもの。
さらに、視線を遠くにやると。
少し離れた海の先にまで、頑丈そうな大きな石材や木材を使って作られた船着場があり、そこには大きなマストが三つほど連なった、とても大きな船が横付けされています。
「圧巻ですわね、あの船」
「そうですね。でもリムの港はもっと大きな船がありましたよ?」
「そうなんですの? もっと大きいって……全長50メートルくらいですか?」
「カトレアさん、船はトン単位らしいですよ」
「あら、では何トンですか?」
「それはわかりません」
内陸にいては、基本的に船の知識なんて必要ないですものね。
トレイザさんの思わぬ雑学っぷりに感心しつつ、土手から下を眺めます。
海岸とはまた違った形ですの。
石が積み上げられ、そこに盛り土で固められています。
徐々に深くなって行くのではなく、見下ろせばもう深いといったところ。
澄んだ海水の底には砂ではなくゴツゴツとした岩肌。
なかなかに興味深いですわね。
あっ、魚が泳ぎました今。
なんだか頑張れば手が届きそうですのー。
「カトレアさんあんまり近づくと危ないですよ」
「おっと、そうでした」
緩やかな傾斜のある砂浜ではなく、壁みたいな感じなので、落ちたら登るのに一苦労しそうです。
一応、はしごや階段のようなものが等間隔で設けられているのですが……そこまで泳げるのかはまだわかりません。
練習はしましたけど、自信はないのです。
できれば魔術なしですいすいと泳げるようになりたいと思いました。
「トレイザさん」
「なんですか?」
「大きい船にも、マストがあるタイプとないタイプがございますが……まだ完成していない船を浮かべているんですの?」
「ああ、この辺境に来る前に、リムの向こうにある国スタフォードで魔術を応用した動力源が発明されたらしいです。確かそれがあると風がない日でも海を渡ることができるそうですよ?」
「そうなんですか……全然知りませんでしたね……」
海じゃなくとも、何にでも応用できそうな気がしますね、それ。
陸路も馬ではなく、それを使う日が来るのではないでしょうか。
そんなことを話していると、マルタが手を振りながらやってきました。
「おーい!」
「おーい、ですの」
手を振り返すと、マルタは言います。
「その、ですのって口癖なのか? なんか貴族みたいだな」
「へ、偏見ですの」
危ない危ない。
この街の背景的に、立場を明かすのは避けないと……。
もしマルタに私が辺境領にやってきた公爵家(追い出された感じですけど)だとバレてしまえばどうなるのでしょうか?
せっかく知り合えたのに、それで不仲になるのは……寂しいですの。
「く、口癖なんですの」
「カトレアさん、わりと育ちは良いですからねえ。親の方針でそう呼ばされていたんですよ」
「ふーん。まあ、この街に長期滞在するなんてそこそこお金持ってないとできないからなー」
トレイザが適度にフォローしてくれたおかげでなんとか誤魔化すことができました。
わりと、というか公爵家はこの国には四家しかありませんので、わりとの範疇には治らない気がします。
そして「ですの」は、親の方針というか……お母様の口癖が移ってしまったというか……。
「でも貴族なんてあんまり良いもんじゃない……ここではな。特に大人達なんか昔ばちばちに争っててさー、だから一部恨み持ってる奴がいるんだよ。まあ、カトレアは貴族みたいに高飛車でもなんでもないから、気にしてないけどな!」
そう言いながらマルタはスタスタと歩いていきます。
「そうなんですね……」
なんと言い返せばよいのやら、迷ってしまいました。
結局のところ、いつかはバレてしまうのですよね。
その時、マルタはどんな反応をするのでしょうか。
それを考えると、少し心が苦しくなりました。
「あ、そうだ。朝飯食べた後、時間ある?」
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