悪役令嬢はお断りです

あみにあ

文字の大きさ
上 下
107 / 135
最終章

前世の記憶 (其の二)

しおりを挟む
色々と考えた結果、お金を貯めて探偵を雇い母を見つけ会いにこうと決意したの。
どうして私を捨てたのか、なぜ迎えに来なかったのか、本当に気休めであんなことを言ったのか。
私を愛していないのか……。

唯一の血縁者、きっと何か理由があるはずとそう信じてた。
だって他の子供たちは親という存在と強い絆で結ばれていたから。
私もきっと母と結ばれているのだと、信じたかった。

高校三年の冬。
卒業が決まり、お金もたまった。
探偵に頼むと、思っていたよりもあっさり見つかって拍子抜けした。
母が暮らしているのは隣の県。
会いに行くのは簡単。
私はサファイアのネックレスを握りしめて、母へ会いに行ったの。
期待と希望を持って。
けれどそこでみたのは……私が望んでいた暮らしだったーーーーー。
私はその場にネックレスを投げ捨て逃げた。
母にとっては私はいらない存在だったのだと。
信じていた自分が惨めで悔しくて、泣きながらどこまでも走った。

本当にクソみたいな前世。
だから今回こそは平凡な幸せを手にしたかった。
牢獄なんて行きたくなかった。

そして選んだ道で、剣という夢中になれるものを見つけて、人と関わり幸せを知った。
前世でも何か夢中になるものを見つけていれば、違ったのかもしれない。
あの頃の私はそういったものに目を向ける余裕はなかったんだ。

こうして改めて人生を振り返ると、前世に比べて今は幸せすぎたんだよね……。
これ以上望んじゃだめだ。
ノア王子を救えればそれでいい。
ボロボロだけれども、出来る限りのことはやりきった。
これなら前世とは違う気持ちで死を受け入れられるだろう。

★おまけ(ピーター視点)★

俺は城へやってくるとリリーの姿を探していた。
事件は無事に解決し、ノア王子とリリーが婚約したと城ではお祭り騒ぎ。
正直、あいつが即答するとは思っていなかった。
心から祝福は出来ないが、リリーが選んだのだ、俺の出る幕はない。

城内を駆け回りようやく彼女を見つけると、俺は傍へ駆け寄り腕を掴む。

「リリー、探したぞ。宿舎から出るのに挨拶もなしかよ。婚約したからって浮かれすぎだろう。たくっ、行動も早すぎだ、ってそんなこと言いにきたんじゃねぇ。ちゃんとこの前の事、説明しろよな」

リリーはおもむろに振り返ると、俺の手を強く払いのけた。
いつもとは違うその態度に思わず面食らう。
パシンッ。

「気安く触らないでちょうだい、ピーター様。私ももう騎士ではありませんの。ノア王子の婚約者ですわ。王妃となる高貴な存在ですわよ」

リリーは令嬢のような仕草を見せると、妖麗な笑みを浮かべた。

「はぁ!?、様ってなんだ、高貴って……ッッ、婚約はめでたいが……お前……変なものでも食ったのか?」

聞きなれない言葉に、驚きすぎて目を見開き固まると、リリーは目を細め不機嫌な表情で顔をそむける。

「はぁ……はっきり言わないとわからないのですか?今までの私とは違うのです。侯爵家ごときが、これ以上馴れ馴れしくしないでくださいませ」

ませ……って、おいおい本当にどうしたんだ?
普段のリリーから想像できない様に、言葉が上手く出てこない。
固まる俺の様子に、リリーはふんっとそっぽを向くと、スタスタと歩き始めた。

「おっ、おい、待てって。騎士じゃないって、騎士学園は卒業しないのか?ノア王子との結婚は卒業してからだろう?」

去ろうとするリリーを慌てて引き留めると、彼女は立ち止まりおもむろに振り返る。

「ふふっ、あんな野蛮な学園へ戻るつもりはありません。汗臭いし泥臭いですし……それにこれ以上直射日光を浴びたらそばかすが増えますわ。太陽の光ってお肌にも悪いですのよ。だから私はもう二度と剣を握りませんわ」

はぁッッ!?まじかよ……。
リリーは口元に手を当て上品に笑うと、俺を一瞥し去っていった。
何なんだあれ……?
まるで貴族令嬢のような彼女の姿に、俺は首をかしげると、じっとその背を見つめていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

伯爵令嬢は執事に狙われている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:626pt お気に入り:449

聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:894

発情期がはじまったらαの兄に子作りセッされた話

BL / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:849

俺を裏切り大切な人を奪った勇者達に復讐するため、俺は魔王の力を取り戻す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,583pt お気に入り:91

処理中です...