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第三章
※旅の終焉⑦
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仲間が来る……その事実に気持ちが次第に焦っていく。
魔法は使う事は出来る……けれど使おうとすれば……きっと簡単に止められてしまうだろう。
この敏感な体じゃ……少し触れられるだけでも、魔力の流れが乱れしまうもの。
でも彼に気が付かれないように……何とか魔法を使わないと。
このままじゃ、エヴァンが殺されてしまうわ……。
私は感じる魔力を流れをそのままに、体に廻る魔力を静かに感じていく。
魔力を集めずに魔法を使えば……たぶん威力はそれほど出ないわ。
小さな魔力で作り出せるもの……自然の力を利用するのなら風?
カーテンが大きくたなびく様子に視線を向けると、私は小さく首を横に振った。
いえ……危ないわ。
今吹き荒れる風を利用しても、彼を吹き飛ばせるのかどうかは判断できない。
それに今の体では魔法を維持する事なんて出来ない。
一発勝負……、殺す気でいかないと……。
確か……王宮で読んだ魔導書に一番攻撃力の高い魔法は炎と書かれていたわね。
でも火をこの距離で使用すれば……私にも被害が出てしまう……。
それでもやらなきゃ……、私が捕まったままだと、エヴァンが動けない。
私は恐怖を必死に閉じ込めると、拳を強く握りしめた。
火を作り出すには酸素と火種……この二つは大丈夫……後は燃えやすい物。
噛まれた傷が痛む中、必死に頭を回転させると、イーサンに気が付かれない様、キョロキョロと辺りに視線を向けていく。
全裸の私には、火種になりそうなものはないわ。
この男は革製のローブに、革製の靴と燃えにくい物ばかり。
何か……何かないかしら……。
そう思い悩んでいると、私の髪が強く引っ張られ、激しい痛みに唸り声が出る。
そのまま引きづられるままに扉の外へと連れられていくと、ブロンドの髪がチラッと視界に映った。
そうだ……髪!
髪は燃えやすい……小さな火種でもすぐに大きく成長してくれるはず……。
それに何と言っても男の手を払う事が出来るわ。
いける……!
私は痛みを振り払うと、瞳を閉じ、頭の中で燃え上がる炎をイメージする。
肌に触れれば……きっと熱いわよね……。
怖い……、怖い……でも逃げ延びる為には、現状これしか思いつかない。
出来れば防御魔法で肌を守りたいところだが……あいにくそんな余裕はないわ。
心を落ち着かせていくと、メラメラと燃え上がる真っ赤な炎が暗闇に浮かびあがっていく。
「おぃ、魔導師動くな!!!」
イーサンの怒鳴り声と共に、無理矢理に顔を持ち上げさせられると、首筋にナイフが触れ、ピリッと小さな痛みが走る。
ドロッと生暖かい血が流れだすと、彼のナイフが止まった。
切られた……っっ。
怖い……、怖い……痛い……。
あぁ……ダメ、集中しないと……。
私は震え始める体を必死に抑え込むと、脳裏に炎を描いていく。
イーサンとエヴァンは睨み合い、緊張感が走る中、私は勢いよく目を開けると、髪へ魔力を一気に流す。
毛先を火種にし、魔力を解き放つと、髪がチリチリと一気に燃え始めた。
「あちぃっ!!!くそっ、この女!!!」
イーサンの叫び声を共に、私の体は投げ出されると、そのまま床へと倒れ込む。
すると頭上から冷たい水が全身に降り注いだ。
「きゃっ、あぁぁ、ああああああっ、あああああああああああああああっっ」
冷たい水の刺激に私は絶頂に達すると、全身がビクビクと痙攣していく。
床が水浸しになり、髪が燃えた匂いが鼻を掠める中、先ほどまで感じていた熱が徐々に引いていく。
絶頂した為か……将又水で媚薬が流れたのかはわからないが、先ほどよりも疼き幾分ましになっていた。
これで戦える……。
私は床へ手をつき、ゆっくりと立ち上がろうとした瞬間、イーサンの足元がパキパキパキと凍りついていく。
「なっ、何だこれ。くそっ、お前か魔導師!!!」
動こうにも動くことが出来ないイーサンが悪態をつく中、氷は徐々に彼の全身を覆っていった。
これは……。
そっと後ろを振り返ると、エヴァンからメラメラと魔力が放出されている。
すごい、人間を凍らせるなんて……。
イーサンが凍り付いていく様を唖然と眺めていると、後ろからコツコツと足音が耳に届く。
その音に慌てて振り返ってみると、エヴァンは怒った様子で私を見下ろしていた。
「あなた……本当に何をやっているのですか!!!!」
「えっ……ごめんなさい」
激しい怒りに咄嗟に謝ると、エヴァンはしゃがみ込み、ペタペタと私の体を確認していく。
火傷がないことに安堵したのか……エヴァンはほっと息を吐きだすと、短くなった髪を掬い上げた。
「どうしてこんな無茶な事を……、それにこの色……一体どうしたのですか?」
「あっ、その……このままだとあなたが殺されてしまうと思って……。色は……私もわからないの。ここにやって来た時にはこの色になっていて……。瞳も同じ……」
ボソボソとエヴァンへそう説明すると、彼は難し表情を見せた。
「時空移転魔法の弊害ですかね……。とりあえずここから逃げましょう」
エヴァンは自分のローブを脱ぐと、優しく私を包み込んだ。
ローブに巻かれ、よく知るエヴァンの匂いが鼻を擽ると、なぜだが心が温かくなっていく。
そのまま彼は私を包み込むように抱きあげると、大きく割れた腕の傷が目に映った。
「ごめんなさい……」
「これぐらい大丈夫です。それに謝るぐらいでしたら、もう一人で勝手な行動をしないでください」
彼の言葉に私は素直に頷くと、流れ出る涙を手で拭き取っていく。
「傷を治療しないと……」
「いえ、それよりも……。あなたはゆっくり休みなさい」
エヴァンの優しい音色が耳に届くと、彼の大きな手が視界を遮る。
暗闇の中、エヴァンの魔力を感じると、私は静かに眠りについた。
*******************
次回閑話を挟みます。
魔法は使う事は出来る……けれど使おうとすれば……きっと簡単に止められてしまうだろう。
この敏感な体じゃ……少し触れられるだけでも、魔力の流れが乱れしまうもの。
でも彼に気が付かれないように……何とか魔法を使わないと。
このままじゃ、エヴァンが殺されてしまうわ……。
私は感じる魔力を流れをそのままに、体に廻る魔力を静かに感じていく。
魔力を集めずに魔法を使えば……たぶん威力はそれほど出ないわ。
小さな魔力で作り出せるもの……自然の力を利用するのなら風?
カーテンが大きくたなびく様子に視線を向けると、私は小さく首を横に振った。
いえ……危ないわ。
今吹き荒れる風を利用しても、彼を吹き飛ばせるのかどうかは判断できない。
それに今の体では魔法を維持する事なんて出来ない。
一発勝負……、殺す気でいかないと……。
確か……王宮で読んだ魔導書に一番攻撃力の高い魔法は炎と書かれていたわね。
でも火をこの距離で使用すれば……私にも被害が出てしまう……。
それでもやらなきゃ……、私が捕まったままだと、エヴァンが動けない。
私は恐怖を必死に閉じ込めると、拳を強く握りしめた。
火を作り出すには酸素と火種……この二つは大丈夫……後は燃えやすい物。
噛まれた傷が痛む中、必死に頭を回転させると、イーサンに気が付かれない様、キョロキョロと辺りに視線を向けていく。
全裸の私には、火種になりそうなものはないわ。
この男は革製のローブに、革製の靴と燃えにくい物ばかり。
何か……何かないかしら……。
そう思い悩んでいると、私の髪が強く引っ張られ、激しい痛みに唸り声が出る。
そのまま引きづられるままに扉の外へと連れられていくと、ブロンドの髪がチラッと視界に映った。
そうだ……髪!
髪は燃えやすい……小さな火種でもすぐに大きく成長してくれるはず……。
それに何と言っても男の手を払う事が出来るわ。
いける……!
私は痛みを振り払うと、瞳を閉じ、頭の中で燃え上がる炎をイメージする。
肌に触れれば……きっと熱いわよね……。
怖い……、怖い……でも逃げ延びる為には、現状これしか思いつかない。
出来れば防御魔法で肌を守りたいところだが……あいにくそんな余裕はないわ。
心を落ち着かせていくと、メラメラと燃え上がる真っ赤な炎が暗闇に浮かびあがっていく。
「おぃ、魔導師動くな!!!」
イーサンの怒鳴り声と共に、無理矢理に顔を持ち上げさせられると、首筋にナイフが触れ、ピリッと小さな痛みが走る。
ドロッと生暖かい血が流れだすと、彼のナイフが止まった。
切られた……っっ。
怖い……、怖い……痛い……。
あぁ……ダメ、集中しないと……。
私は震え始める体を必死に抑え込むと、脳裏に炎を描いていく。
イーサンとエヴァンは睨み合い、緊張感が走る中、私は勢いよく目を開けると、髪へ魔力を一気に流す。
毛先を火種にし、魔力を解き放つと、髪がチリチリと一気に燃え始めた。
「あちぃっ!!!くそっ、この女!!!」
イーサンの叫び声を共に、私の体は投げ出されると、そのまま床へと倒れ込む。
すると頭上から冷たい水が全身に降り注いだ。
「きゃっ、あぁぁ、ああああああっ、あああああああああああああああっっ」
冷たい水の刺激に私は絶頂に達すると、全身がビクビクと痙攣していく。
床が水浸しになり、髪が燃えた匂いが鼻を掠める中、先ほどまで感じていた熱が徐々に引いていく。
絶頂した為か……将又水で媚薬が流れたのかはわからないが、先ほどよりも疼き幾分ましになっていた。
これで戦える……。
私は床へ手をつき、ゆっくりと立ち上がろうとした瞬間、イーサンの足元がパキパキパキと凍りついていく。
「なっ、何だこれ。くそっ、お前か魔導師!!!」
動こうにも動くことが出来ないイーサンが悪態をつく中、氷は徐々に彼の全身を覆っていった。
これは……。
そっと後ろを振り返ると、エヴァンからメラメラと魔力が放出されている。
すごい、人間を凍らせるなんて……。
イーサンが凍り付いていく様を唖然と眺めていると、後ろからコツコツと足音が耳に届く。
その音に慌てて振り返ってみると、エヴァンは怒った様子で私を見下ろしていた。
「あなた……本当に何をやっているのですか!!!!」
「えっ……ごめんなさい」
激しい怒りに咄嗟に謝ると、エヴァンはしゃがみ込み、ペタペタと私の体を確認していく。
火傷がないことに安堵したのか……エヴァンはほっと息を吐きだすと、短くなった髪を掬い上げた。
「どうしてこんな無茶な事を……、それにこの色……一体どうしたのですか?」
「あっ、その……このままだとあなたが殺されてしまうと思って……。色は……私もわからないの。ここにやって来た時にはこの色になっていて……。瞳も同じ……」
ボソボソとエヴァンへそう説明すると、彼は難し表情を見せた。
「時空移転魔法の弊害ですかね……。とりあえずここから逃げましょう」
エヴァンは自分のローブを脱ぐと、優しく私を包み込んだ。
ローブに巻かれ、よく知るエヴァンの匂いが鼻を擽ると、なぜだが心が温かくなっていく。
そのまま彼は私を包み込むように抱きあげると、大きく割れた腕の傷が目に映った。
「ごめんなさい……」
「これぐらい大丈夫です。それに謝るぐらいでしたら、もう一人で勝手な行動をしないでください」
彼の言葉に私は素直に頷くと、流れ出る涙を手で拭き取っていく。
「傷を治療しないと……」
「いえ、それよりも……。あなたはゆっくり休みなさい」
エヴァンの優しい音色が耳に届くと、彼の大きな手が視界を遮る。
暗闇の中、エヴァンの魔力を感じると、私は静かに眠りについた。
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次回閑話を挟みます。
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