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第三章
最後の局面
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時空移転魔法を起動し、体が大きく投げ出されたかと思うと……私はまた暗闇の世界へとやってきていた。
自分自身を確認できないほどの深い闇の世界。
目と鼻の先すら見えないが……手からはエヴァンの温もりを感じる。
「エヴァン」
そう呼んでみると、手に感じる力が強くなった。
「どうしたんですか?」
「ううん、何でもないの」
彼の存在を確認し、暗闇に身を任せていくと、また扉が薄っすらと目の前に現れていく。
しかし以前とは異なり、大きな扉が一つはっきりと浮かび上がると、突風が吹き抜けていった。
「遅い!!遅すぎるわ!!!」
甲高い怒鳴り声に私は大きく肩を震わせると、キョロキョロと辺りに視線を向ける。
すると扉の後ろから金色の瞳に、ブロンドのカールヘアーの女性が姿を現した。
以前見た時より彼女は成長しているようで……身長も伸び幼かった顔つきが、大人びて可愛いというよりも美しくなっている。
「あなたは……あの時の女の子?」
「せやって……そんな事よりも、遅すぎる!紅月よりも前にあんたはここへ、来やなあかんかったんや!」
突然の関西弁にツッコム事も出来ないまま、女性は怒りを露わにすると、私へと詰め寄ってきた。
「もう時間はあらへん。世界があんたらを消そうと動いている……。元の世界へ戻す方法がわかったんやったら、さっさとこんかい!!!!」
怒声が闇の世界へ響き渡る中、私は彼女の言葉に、大きく目を見開き固まっていた。
世界が私たちを……。
嘘でしょ……どうして……?
「消そうと動いているって……。一体どういう事なの?」
「言葉通り……一度歪んだ世界はひどく不安定なんや。そこであんたらが、また過去の世界を歪めた。本来ならあんたが魔女の屋敷へ行ってすぐ、ここへ来るはずやったんや……。それがなんで……なんでこんなにおそなったん。多少ずれがあっても、紅月の日までにはここへ、来やなあかんかったんや!!」
紅月……。
昨日見たあの真っ赤な月。
彼女の言葉に手足が冷たくなっていくのを感じると、私は恐々に口を開いた。
「もしかして……もう正しい世界へ戻すことが出来ないの?」
「いや、まだギリギリ間に合う。ただあんたが行きたいと望む時には、連れて行くことは出来へん」
女性は徐に大きな扉を指さすと、その扉が小さく光始める。
闇の世界にフワフワと流れるように光が溢れだすと、雪のように降り積もっていった。
「この扉の向こうは、あの二人が魔法を使い終わった直後や。あんたはついたらすぐ、塞ぎかけてる歪みに魔法を打ち込んで壊す。そこでもし魔法が遅かった場合、歪みは閉じてまう。一度塞がった歪みはあんたには開けることが出来へんからな。せやからすぐに魔法を使いや。後は壊れるまで魔法を打ち込み続けるとえぇ。後、その後ろに居てる男にも手伝ってもらい。あんた一人じゃ無理や」
そっと後ろを振り返ると、先ほどまで見えなかったエヴァンの姿がフワッと浮かび上がる。
彼は呆然とした様子で少女を眺める中、彼女はまた口を開いた。
「この扉を開く前に……ここを通らせるには、通行料が必要や。そのあんたの胸元にある玉を全部回収するで」
女性の言葉に胸元からいくつもの玉が勢いよく飛び出すと、全ての魔力玉が彼女の元へ飛んでいく。
「待って!!それがないと……あの防御魔法を壊す事なんて無理よ!!」
そう叫ぶと女性は冷たい瞳を浮かべたままに、二つの魔力玉を私の前へと浮かべてみせた。
「なら一個は今食べぇ。それでついたらすぐに魔法は使えるやろ。あと一つは……これは言わんでもわかってるやんな?」
あと一つは……エヴァンを元の世界へ戻す。
「壊した後に……そんな時間があるのかしら……?」
そうボソッと呟くと、彼女は大丈夫だという様に深く頷いて見せた。
「そんな事よりもや、世界が怒ってる今、あんたらが過去の世界へ滞在できる時間は少ない。ちんたらしてたら、世界に消されてまうから注意しぃや。戻る魔法陣は頭の中で思い描けば、それで十分や」
彼女の言葉に私はしっかり顔を上げると、深く頷いて見せる。
「行きましょう、エヴァン」
そう声をかけると、エヴァンはどこか苦しそうな表情を浮かべている。
大丈夫?、そう声をかけようとすると……彼女が私へ顔を寄せ耳打ちしてきた。
「色々と聞きたい事もあるやろうけど……あんたはもう一回ここへやって来る。……その時にゆっくりな」
もう一度ここへ?
その言葉が反芻する中、彼女は私から体を離し、大きな扉へ何かボソボソと呟くと、ゆっくりとドアが開いていく。
闇の世界に光が溢れ、隙間から流れ出す風に思わず身構える中、突風が激しく巻き起こっていった。
グラリと体が傾いた刹那、エヴァンの大きな腕が私を強く包み込む。
そのまま二人で扉の中へと吸い込まれていくと、真っ白な世界へと、のみこまれていった。
自分自身を確認できないほどの深い闇の世界。
目と鼻の先すら見えないが……手からはエヴァンの温もりを感じる。
「エヴァン」
そう呼んでみると、手に感じる力が強くなった。
「どうしたんですか?」
「ううん、何でもないの」
彼の存在を確認し、暗闇に身を任せていくと、また扉が薄っすらと目の前に現れていく。
しかし以前とは異なり、大きな扉が一つはっきりと浮かび上がると、突風が吹き抜けていった。
「遅い!!遅すぎるわ!!!」
甲高い怒鳴り声に私は大きく肩を震わせると、キョロキョロと辺りに視線を向ける。
すると扉の後ろから金色の瞳に、ブロンドのカールヘアーの女性が姿を現した。
以前見た時より彼女は成長しているようで……身長も伸び幼かった顔つきが、大人びて可愛いというよりも美しくなっている。
「あなたは……あの時の女の子?」
「せやって……そんな事よりも、遅すぎる!紅月よりも前にあんたはここへ、来やなあかんかったんや!」
突然の関西弁にツッコム事も出来ないまま、女性は怒りを露わにすると、私へと詰め寄ってきた。
「もう時間はあらへん。世界があんたらを消そうと動いている……。元の世界へ戻す方法がわかったんやったら、さっさとこんかい!!!!」
怒声が闇の世界へ響き渡る中、私は彼女の言葉に、大きく目を見開き固まっていた。
世界が私たちを……。
嘘でしょ……どうして……?
「消そうと動いているって……。一体どういう事なの?」
「言葉通り……一度歪んだ世界はひどく不安定なんや。そこであんたらが、また過去の世界を歪めた。本来ならあんたが魔女の屋敷へ行ってすぐ、ここへ来るはずやったんや……。それがなんで……なんでこんなにおそなったん。多少ずれがあっても、紅月の日までにはここへ、来やなあかんかったんや!!」
紅月……。
昨日見たあの真っ赤な月。
彼女の言葉に手足が冷たくなっていくのを感じると、私は恐々に口を開いた。
「もしかして……もう正しい世界へ戻すことが出来ないの?」
「いや、まだギリギリ間に合う。ただあんたが行きたいと望む時には、連れて行くことは出来へん」
女性は徐に大きな扉を指さすと、その扉が小さく光始める。
闇の世界にフワフワと流れるように光が溢れだすと、雪のように降り積もっていった。
「この扉の向こうは、あの二人が魔法を使い終わった直後や。あんたはついたらすぐ、塞ぎかけてる歪みに魔法を打ち込んで壊す。そこでもし魔法が遅かった場合、歪みは閉じてまう。一度塞がった歪みはあんたには開けることが出来へんからな。せやからすぐに魔法を使いや。後は壊れるまで魔法を打ち込み続けるとえぇ。後、その後ろに居てる男にも手伝ってもらい。あんた一人じゃ無理や」
そっと後ろを振り返ると、先ほどまで見えなかったエヴァンの姿がフワッと浮かび上がる。
彼は呆然とした様子で少女を眺める中、彼女はまた口を開いた。
「この扉を開く前に……ここを通らせるには、通行料が必要や。そのあんたの胸元にある玉を全部回収するで」
女性の言葉に胸元からいくつもの玉が勢いよく飛び出すと、全ての魔力玉が彼女の元へ飛んでいく。
「待って!!それがないと……あの防御魔法を壊す事なんて無理よ!!」
そう叫ぶと女性は冷たい瞳を浮かべたままに、二つの魔力玉を私の前へと浮かべてみせた。
「なら一個は今食べぇ。それでついたらすぐに魔法は使えるやろ。あと一つは……これは言わんでもわかってるやんな?」
あと一つは……エヴァンを元の世界へ戻す。
「壊した後に……そんな時間があるのかしら……?」
そうボソッと呟くと、彼女は大丈夫だという様に深く頷いて見せた。
「そんな事よりもや、世界が怒ってる今、あんたらが過去の世界へ滞在できる時間は少ない。ちんたらしてたら、世界に消されてまうから注意しぃや。戻る魔法陣は頭の中で思い描けば、それで十分や」
彼女の言葉に私はしっかり顔を上げると、深く頷いて見せる。
「行きましょう、エヴァン」
そう声をかけると、エヴァンはどこか苦しそうな表情を浮かべている。
大丈夫?、そう声をかけようとすると……彼女が私へ顔を寄せ耳打ちしてきた。
「色々と聞きたい事もあるやろうけど……あんたはもう一回ここへやって来る。……その時にゆっくりな」
もう一度ここへ?
その言葉が反芻する中、彼女は私から体を離し、大きな扉へ何かボソボソと呟くと、ゆっくりとドアが開いていく。
闇の世界に光が溢れ、隙間から流れ出す風に思わず身構える中、突風が激しく巻き起こっていった。
グラリと体が傾いた刹那、エヴァンの大きな腕が私を強く包み込む。
そのまま二人で扉の中へと吸い込まれていくと、真っ白な世界へと、のみこまれていった。
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