169 / 358
第四章
隣町には
しおりを挟む
彼女の魔法で隣町へとやってくると、私たちは橋の上へ姿を現した。
目の前に広がっていく橋の下に流れる川の風景に、なぜか温かい……不思議な気持ちが胸からこみ上げてくる。
この街へ師匠に連れられ訪れた事があるが、それはまだ私が幼い頃。
確か……師匠の友人がこの街に居るからと会いに行く時に、一緒に連れてきてもらっただけだ。
「わぁ、綺麗ですね!!エヴァン様見てください、水面がキラキラ光ってますわ」
姿を現すや否や、彼女はそう声をあげると、欄干まで駆け寄っていく。
そうして橋の手すりへと身を乗り出す姿に、また別の……誰かの姿が重なった。
その影は次第に薄っすらと浮かび上がってくると、私はその誰かを必死に見つめていた。
同じブロンドの髪だが、長さが肩程までに短く、真っ白なワンピースを着た女性……。
その姿は、川へ向かって小さく手を振っている。
見た事もないその女性の姿に、なぜだか目が離せなくなる。
次第に胸から熱い何かがこみ上げ、呆然とするままにその誰かの姿を目で追っていると、彼女がゆっくりとこちらへと振り返った。
あなたは一体……。
その姿を息を呑むような思いで見つめていると……そこに映し出されたのは桃色の瞳を浮かべたステラの姿だった。
「エヴァン様、……どうされたのですか?」
その問いかけに私はやっと我に返ると、先ほどの幻影を振り払うように慌てて目を閉じた。
今のは何だ。
私はここに女性と来たことなど、一度もない。
なのに……なんなのでしょうか……あの、懐かしい様な……それでいて、この物悲しい気持ちは……。
私は橋から視線を反らし考え込んでいると、彼女が私の前へと佇んでいた。
「エヴァン様は……いつも何を見てらっしゃるのですか?」
そう囁かれた言葉に顔を上げると、彼女の瞳は悲しそうに揺らいでいる。
「何をとは……。普通ですよ、あなたと同じ風景を見ております」
そう淡々と答えると、彼女はゆっくりと首を横に振った。
「いいえ。エヴァン様はいつも私の姿に、誰かを重ねておりますよね……。最初に出会った時も、魔法を教えて頂いている時も、そして今も……。その方は、エヴァン様の大切な人なのですか?」
「いえ……私には大切な人などおりません。気のせいではないですか?」
そう誤魔化すように笑みを浮かべてみると、彼女は真剣な瞳で私をじっと見つめていた。
「その……エヴァン様はご存知ではないでしょうが……よく王宮や街でエヴァン様をお見かけしたんです。その時いつもエヴァン様は、心ここにあらずとでもいうのでしょうか……そんなふうに感じました。でも今はその……欠けていた何かに気が付いたような、そんな表情を見せてくれるんです。……すみません、何といえばいいのかしら……上手く言葉にすることが出来ませんわ……。変な事を口走ってしまいましたね、気にしないで下さいませ」
彼女は無理矢理に笑みを作ると、私に背を向け、橋の向こうへと渡っていく。
欠けている何か……、私には一体何が欠けているというのでしょうか。
自分で自分の事が理解できぬままに、彼女の姿を追う様に足を進めていくと、人でにぎわうカフェテラスが遠目に映る。
そんなカフェテラスには談笑する女性や男性、白いワイシャツに、長いサロンエプロンをつけたスタッフが忙しそうに動きまわっていた。
その姿を目にすると、またも既視感が私を襲う。
この店に来るのは初めてのはずだが、一度訪れた事のあるような……。
徐に記憶を探ってみるも、やはりこの店に訪れた記憶は見当たらない。
師匠と来た時は、食事などこの街でとった覚えもない。
先ほどの彼女の言葉が反芻する中、何も答えは出る事無く、私は彼女に続くようにカフェテラスへと向かっていった。
入り口の看板には、キラキラと宝石のような飴がケーキの上にちりばめられた、彩り豊かなスイーツの絵が描かれている。
その絵が目に留まると、私はそこで立ち止まった。
このスイーツも見たことがありますね。
だが……一体どこで?
確か……誰か……女性と一緒だった気が……。
いえ……そんなはずはありません、はぁ……一体この感覚は何なのでしょうか。
モヤモヤとする感覚に苛立つ中、じっと絵を眺めていると、ステラが不思議そうな表情で私を覗き込んできた。
「エヴァン様、ここへ来られたことがあるのですか?」
「いえ……来たことはないはずなのですが……。このスイーツは見たことがあるような……」
そう自信なく言葉にすると、彼女はニッコリと笑みを浮かべてみせる。
「なら、雑誌とかで見たのかもしれませんわ。ここのカフェはとても有名ですから!」
あぁ……雑誌か……それだけ人気のあるカフェでしたら、十分にあり得るでしょう。
私はそう納得すると、彼女と並ぶ様にカフェへと入って行った。
しかし中へ入り、食事を始めると、既視感はどんどん強くなっていく。
食べた事もないはずのスイーツの味が、頭の中によぎっていった。
そのまま既視感はなくなることがなく、私は疲れたままに店を出ると、彼女と一緒に王宮へと戻っていった。
目の前に広がっていく橋の下に流れる川の風景に、なぜか温かい……不思議な気持ちが胸からこみ上げてくる。
この街へ師匠に連れられ訪れた事があるが、それはまだ私が幼い頃。
確か……師匠の友人がこの街に居るからと会いに行く時に、一緒に連れてきてもらっただけだ。
「わぁ、綺麗ですね!!エヴァン様見てください、水面がキラキラ光ってますわ」
姿を現すや否や、彼女はそう声をあげると、欄干まで駆け寄っていく。
そうして橋の手すりへと身を乗り出す姿に、また別の……誰かの姿が重なった。
その影は次第に薄っすらと浮かび上がってくると、私はその誰かを必死に見つめていた。
同じブロンドの髪だが、長さが肩程までに短く、真っ白なワンピースを着た女性……。
その姿は、川へ向かって小さく手を振っている。
見た事もないその女性の姿に、なぜだか目が離せなくなる。
次第に胸から熱い何かがこみ上げ、呆然とするままにその誰かの姿を目で追っていると、彼女がゆっくりとこちらへと振り返った。
あなたは一体……。
その姿を息を呑むような思いで見つめていると……そこに映し出されたのは桃色の瞳を浮かべたステラの姿だった。
「エヴァン様、……どうされたのですか?」
その問いかけに私はやっと我に返ると、先ほどの幻影を振り払うように慌てて目を閉じた。
今のは何だ。
私はここに女性と来たことなど、一度もない。
なのに……なんなのでしょうか……あの、懐かしい様な……それでいて、この物悲しい気持ちは……。
私は橋から視線を反らし考え込んでいると、彼女が私の前へと佇んでいた。
「エヴァン様は……いつも何を見てらっしゃるのですか?」
そう囁かれた言葉に顔を上げると、彼女の瞳は悲しそうに揺らいでいる。
「何をとは……。普通ですよ、あなたと同じ風景を見ております」
そう淡々と答えると、彼女はゆっくりと首を横に振った。
「いいえ。エヴァン様はいつも私の姿に、誰かを重ねておりますよね……。最初に出会った時も、魔法を教えて頂いている時も、そして今も……。その方は、エヴァン様の大切な人なのですか?」
「いえ……私には大切な人などおりません。気のせいではないですか?」
そう誤魔化すように笑みを浮かべてみると、彼女は真剣な瞳で私をじっと見つめていた。
「その……エヴァン様はご存知ではないでしょうが……よく王宮や街でエヴァン様をお見かけしたんです。その時いつもエヴァン様は、心ここにあらずとでもいうのでしょうか……そんなふうに感じました。でも今はその……欠けていた何かに気が付いたような、そんな表情を見せてくれるんです。……すみません、何といえばいいのかしら……上手く言葉にすることが出来ませんわ……。変な事を口走ってしまいましたね、気にしないで下さいませ」
彼女は無理矢理に笑みを作ると、私に背を向け、橋の向こうへと渡っていく。
欠けている何か……、私には一体何が欠けているというのでしょうか。
自分で自分の事が理解できぬままに、彼女の姿を追う様に足を進めていくと、人でにぎわうカフェテラスが遠目に映る。
そんなカフェテラスには談笑する女性や男性、白いワイシャツに、長いサロンエプロンをつけたスタッフが忙しそうに動きまわっていた。
その姿を目にすると、またも既視感が私を襲う。
この店に来るのは初めてのはずだが、一度訪れた事のあるような……。
徐に記憶を探ってみるも、やはりこの店に訪れた記憶は見当たらない。
師匠と来た時は、食事などこの街でとった覚えもない。
先ほどの彼女の言葉が反芻する中、何も答えは出る事無く、私は彼女に続くようにカフェテラスへと向かっていった。
入り口の看板には、キラキラと宝石のような飴がケーキの上にちりばめられた、彩り豊かなスイーツの絵が描かれている。
その絵が目に留まると、私はそこで立ち止まった。
このスイーツも見たことがありますね。
だが……一体どこで?
確か……誰か……女性と一緒だった気が……。
いえ……そんなはずはありません、はぁ……一体この感覚は何なのでしょうか。
モヤモヤとする感覚に苛立つ中、じっと絵を眺めていると、ステラが不思議そうな表情で私を覗き込んできた。
「エヴァン様、ここへ来られたことがあるのですか?」
「いえ……来たことはないはずなのですが……。このスイーツは見たことがあるような……」
そう自信なく言葉にすると、彼女はニッコリと笑みを浮かべてみせる。
「なら、雑誌とかで見たのかもしれませんわ。ここのカフェはとても有名ですから!」
あぁ……雑誌か……それだけ人気のあるカフェでしたら、十分にあり得るでしょう。
私はそう納得すると、彼女と並ぶ様にカフェへと入って行った。
しかし中へ入り、食事を始めると、既視感はどんどん強くなっていく。
食べた事もないはずのスイーツの味が、頭の中によぎっていった。
そのまま既視感はなくなることがなく、私は疲れたままに店を出ると、彼女と一緒に王宮へと戻っていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる