[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

新章6:旅の頁

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私はシナンの手を引きながらにカミールの背を追っていく中、彼はそのまま人が行きかう大通りを進んでいく。
しかしシナンの小さな体で、彼のスピードに追い付くことは厳しい。

「えっ、ちょっ、ちょっと待って!」

そう彼の背に向かって呼び掛けてみるが、彼は振り向くことも立ち止まる事もない。
慌てて彼を追いかけていく中、歩く速さに見失いそうになると、私はシナンを抱き上げ、急ぎ足で人込みを掻き分けて行った。

そうして大通りを外れ、裏通りへと進んでいくと、薄暗い路地が淡々と続いていく。
そのまま進んでいくと先ほどまで騒がしかった街の音が消え、薄汚れた通りに人の姿はない。
生ごみのような臭いに、思わず鼻をつまむと、通りにはゴミが散乱していた。
そんな事を考えていると、カミールの背がどんどん小さくなっていく。
遠くからザワザワと騒がしい音が微かに耳にとどく中、私はわき目もふらずに、彼の背を慌てて追いかけていった。

迷路のような細道を進む中、どれぐらい歩いたのだろうか……足場の悪い小道を抜けた先で、ようやくカミールが立ち止まった。
その姿に肩で息をしながらそっとシナンを下すと、私は彼の傍へと駆け寄っていく。
はぁ、はぁ、……やっと追いついたわ……。

「ここが俺の家だ。一つ使っていない部屋があるから、お前らはそこをつかえ。あと金は出すが……掃除洗濯料理、家事全般はやってもらう」

汗を拭いながらにカミールの隣へ佇むと、彼の視線の先には、アパートのような古びた二階建て建物があった。
周りにはいくつも同じような家が密集し、日当たりが悪く、辺りは薄暗い。
よく見てみると、レンガで出来たその家は、長年使われていたのだろう……あちらこちらに黒い汚れ付き、レンガの一部が欠け年季を感じる。

わぁお……ここが……。
それにしてもさっきの発言……私を引き入れたのは……体のいい家政婦を探していた……?
いやいや……こんな見ず知らずの女に、家の事を任せるなんて正気じゃないわ。
一体彼は何を考えているのかしら……。

ってそれよりも掃除洗濯は魔法で何とか出来るとして……料理はまずいわね。
私はこの国で、一度も料理をしたことがない。
前の世界では自炊していたものの、ここは私の知る食材とは全くの別物。
似たような物もあるが……大半は見た事もない、どんな味なのか想像もつかないような食材ばかりだ。
それにこの世界の料理も、ちゃんと知らない……。
そんな私が料理を作るなんて、厳しいわよね……。

あぁ……あのエヴァンと一緒に居た時に、もっと料理について聞いておくべきだったわ。
そういえば……あの時も作ると約束したのに……彼に作った事はなかった……。
とりあえず……街に料理本とか勉強して……何とかするしかないわね……。
私はあれやこれや悩みながらにその場で立ち尽くす中、カミールは胸元へ手を忍ばせたかと思うと、5枚の銀貨を取り出した。

「これで必要な物を買い揃えろ。部屋は好きに使ってくれて構わない」

銀貨……。
見ず知らずの人間に、どうしてここまでしてくれるの?
私は恐る恐る差し出された貨幣を受け取ると、様子を覗う様に彼を見上げた。

「ふんっ、そんなに怪しまなくていい。その金は今回の報酬だ。お前にかなり助けられたからな。本来ならあそこに盗賊が10人以上はいただろう。それをお前が片づけてくれていたおかげで、楽に仕事をこなすことが出来た」

ほう、そういうことね。
ちゃんとした理由があるのなら受け取りやすいわ。

「あっ、ありがとうございます。これはさっき言っていたギルドの依頼なのかしら?」

「あぁ、そうだ。攫われたガキの親が、ギルドに依頼を出していた。まぁギルドに依頼を出すのも金がかかるからな、きっとあのガキ共の中に、貴族様でもいたんだろう」

ギルドに依頼するのにもお金がかかるのね。
あれ……それにしても彼はどうやってあの場所を突き止めたのかしら……?

「ねぇ……あなたはどうやって……っっ」

そう話しかけてみると、カミールは話は終わりだと言わんばかりに、家の方へと歩き始める。

私は呼び掛けた手をそのままに、扉の中へと消えていく彼の背を眺めていると、ふと服の裾が引っ張られた。
そちらへ顔を向けてみると、シナンが不安げな様子で私を見上げていた。

「あの……おねぇさん……僕なんかを連れてきてくれて……あっ、ありがとうございます。その……僕家事は一通りできるから、任せて下さい」

シナンは照れた様子で、ニッコリを笑みを浮かべると、先ほどまで緊張していた気持ちが大分和らいでいく。
あぁ……癒されるわ……。
カミールとは大違いね……。

「もう家事が出来るんなんてすごいわねぇ。ふふっ、なら一緒に頑張りましょうか」

そうニッコリ笑みを返すと、私はシナンの手をしっかりと握りしめ、カミールが消えた扉へと入って行った。
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