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第五章
閑話:焦がれる想い(エヴァン視点)
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あの後……何とか上手く誤魔化しながらに説明し、彼女が消えてしまった事実を伝えると、翌日から彼女の捜索が始まった。
アーサーはブレイクへ指示をだし、騎士を街へと送り込み彼女の捜索を広げていく。
レックスは貴族の繋がりを利用し、彼女の情報収集に努めていた。
そうしてネイトは森へと戻り、彼女にささげた想いの実を頼りに探し始めている。
そうして私は自分の知る限りの魔法全てを使い、彼女の姿を探し始めた。
しかしどんなに捜索を続けても……彼女の行方はなかなか突き止められない。
何の手がかりも見つからないままに、一週間が過ぎ、二週間経過すると、日に日に苛立ちが募っていった。
今日も朝から王宮研究室へと赴き、私は魔法で彼女の姿を探していた。
はぁ……どうして彼女は……居場所を知らせてくれないのでしょうか……。
何度も同じ疑問を思い浮かべては、毎度のように大きなため息が漏れる。
捜索が難航を極める中、あれ以来……彼女からの黒蝶が一度も飛んできていない。
どうして飛んでこないのでしょうか……。
まさか……何か事件にでも巻き込まれてしまった……?
彼女が生きているとはわかったが……今も彼女が無事なのかどうかを確かめるすべはない。
どうする事も出来ないままに、只々時間だけが残酷にも過ぎて去っていった。
手がかりが見つからない中、今頃彼女に何か危険が迫っているのかもしれないと考えると、夜も眠れない日が続いた。
体に疲労がたまり、だるさを感じる中、それでも私はただひたすらに彼女を探し続けていた。
はぁ……一体彼女はどこに居るのか。
早く会いたい、早く彼女に触れて確かめたい。
彼女の存在を、そして私のこの気持ちを……。
そんなもどかしい思いが心の中に広がっていくと、胸が強く締め付けられた。
そんなある日、進展がない現状に、私はもう一度彼女の部屋へと訪れていた。
そうして床に描かれている複雑な魔法陣に目を向けると、慎重に目で追っていく。
もう何度見直したのかすらわからない。
どこを探しても見つからない彼女が残したものから、少しでも見つけようと必死だった。
魔法陣を一通り確認し終わると、私は部屋のど真ん中に描かれた魔法陣の上を、右往左往していた。
私が最初に見た魔法陣は、確かに時空を移転する為の物だったはず。
ですが……今ここにある物は、どこからどう見ても……只の移転魔法。
移転魔法であれば、行先が必ず書かれているはずなのですが……。
何度も何度も見返した魔法陣には、やはり行先は書かれていない。
行先が描かれていない魔法陣など……通常であれば発動しないはず。
先日試しに魔力を流し起動しようと試みましたが、やはり起動しませんでした。
それに彼女は……一度消え、世界が変わった。
ならばこの魔法陣はどうやって描かれたのか……。
魔法陣を見つめたままに中央で立ち止まっていると、ふと扉の方から人の気配を感じた。
「おいエヴァン、またここに居たのか。あんまり煮詰めすぎると、見つかるもんも見つからねぇぞ」
「……レックス殿ですか。そんな事よりも彼女について、何かわかりましたか?」
そう問いかけてみると、彼は肩を落とし小さく首を横に振った。
「いや……まだ何の手がかりもつかめてねぇ。それよりもエヴァン、ステラお嬢さんを放っておいていいのか?婚約目前だったんだろう?」
突拍子もないその言葉に目が点になる中、レックスはニヤリと口角を上げ話し続ける。
「ステラお嬢さんが、異世界の姫にかかりっきりになっているお前の姿に泣いてるぜ」
ステラ……。
私が……彼女の事を忘れていた世界で、魔法を教えていた女……シモンの妹君。
一体どういうことでしょうか……。
「おいおい、無反応か?ついこの間、真夜中にステラお嬢さんがエヴァンの部屋に入っていったと、城中で噂になっていたじゃねぇか」
その言葉に紅の月が頭を掠めると、私はレックスを見つめたままに固まった。
まさか……それは……あの満月の日。
私が彼女を追いかけ広場に行ったあの日の事……。
どうして……それを知っているのでしょうか。
ここは彼女のいない世界ではないはずなのに……。
いえ……よく考えてみれば……彼女のいなかったはずの世界に、彼女が戻ってきた。
そして彼女が召喚されたあの世界は……今とはまた別の世界。
とすれば……まさか……。
「……人の事よりも、レックス殿はどうなのですか?婚約者殿と上手くいっているのでしょうか?」
「おいおい、またそれかよ……。あー、婚約は白紙に戻っちまったんだ。異世界の姫に構ってばかりで、婚姻の準備もせず、婚約者を放置していたからな……向こうの親が怒鳴り込んできた」
レックスは苦笑いを浮かべると、気まずげに視線を反らせる。
その姿に一つの仮説が思い浮かぶと、私は口もとに手をあて頭の中を整理していった。
今ここに存在しているレックスやアーサー、ネイトにブレイク……彼らは皆、彼女の事を大事に想っていた。
そして彼女の部屋には、夜会の際、彼らからのプレゼント……衣装や装飾品も全て揃っている。
彼らが彼女と過ごした日々、それも全て私の知るものと同じだった。
だからこそ今までこの差異に気が付かなかった。
そうか……彼女のいなかった世界と、彼女が生活していた事実が、この世界では融合しているのか……。
そう結論づけると、私はそっと顔を上げレックスへと視線を向けた。
「ところでシモン殿は……今どうしているのですか?」
「どうしたんだ突然?シモン殿は仕事で遠征中だろう。まぁもしこの場に居れば、エヴァンのところに乗り込んできていただろうな。あのシスコン野郎が……おっと、失礼。妹を目に入れても痛くないほどに可愛がっているシモン殿が、ステラお嬢さんの泣いてる姿を見れば青筋ものだろう」
遠征……だから王宮におらず、ステラについても何も言ってこなかったのですね。
とすれば……セーフィロ様がこの国の現王。
アーサー殿が補佐を務めているのか。
彼女の捜索に、夢中で全く気が付きませんでしたね……。
私は新たにわかった事実に、こちらの記憶の事を隠しながら、裏付けを取るようにレックスへ一つ一つ質問を投げかけていった。
アーサーはブレイクへ指示をだし、騎士を街へと送り込み彼女の捜索を広げていく。
レックスは貴族の繋がりを利用し、彼女の情報収集に努めていた。
そうしてネイトは森へと戻り、彼女にささげた想いの実を頼りに探し始めている。
そうして私は自分の知る限りの魔法全てを使い、彼女の姿を探し始めた。
しかしどんなに捜索を続けても……彼女の行方はなかなか突き止められない。
何の手がかりも見つからないままに、一週間が過ぎ、二週間経過すると、日に日に苛立ちが募っていった。
今日も朝から王宮研究室へと赴き、私は魔法で彼女の姿を探していた。
はぁ……どうして彼女は……居場所を知らせてくれないのでしょうか……。
何度も同じ疑問を思い浮かべては、毎度のように大きなため息が漏れる。
捜索が難航を極める中、あれ以来……彼女からの黒蝶が一度も飛んできていない。
どうして飛んでこないのでしょうか……。
まさか……何か事件にでも巻き込まれてしまった……?
彼女が生きているとはわかったが……今も彼女が無事なのかどうかを確かめるすべはない。
どうする事も出来ないままに、只々時間だけが残酷にも過ぎて去っていった。
手がかりが見つからない中、今頃彼女に何か危険が迫っているのかもしれないと考えると、夜も眠れない日が続いた。
体に疲労がたまり、だるさを感じる中、それでも私はただひたすらに彼女を探し続けていた。
はぁ……一体彼女はどこに居るのか。
早く会いたい、早く彼女に触れて確かめたい。
彼女の存在を、そして私のこの気持ちを……。
そんなもどかしい思いが心の中に広がっていくと、胸が強く締め付けられた。
そんなある日、進展がない現状に、私はもう一度彼女の部屋へと訪れていた。
そうして床に描かれている複雑な魔法陣に目を向けると、慎重に目で追っていく。
もう何度見直したのかすらわからない。
どこを探しても見つからない彼女が残したものから、少しでも見つけようと必死だった。
魔法陣を一通り確認し終わると、私は部屋のど真ん中に描かれた魔法陣の上を、右往左往していた。
私が最初に見た魔法陣は、確かに時空を移転する為の物だったはず。
ですが……今ここにある物は、どこからどう見ても……只の移転魔法。
移転魔法であれば、行先が必ず書かれているはずなのですが……。
何度も何度も見返した魔法陣には、やはり行先は書かれていない。
行先が描かれていない魔法陣など……通常であれば発動しないはず。
先日試しに魔力を流し起動しようと試みましたが、やはり起動しませんでした。
それに彼女は……一度消え、世界が変わった。
ならばこの魔法陣はどうやって描かれたのか……。
魔法陣を見つめたままに中央で立ち止まっていると、ふと扉の方から人の気配を感じた。
「おいエヴァン、またここに居たのか。あんまり煮詰めすぎると、見つかるもんも見つからねぇぞ」
「……レックス殿ですか。そんな事よりも彼女について、何かわかりましたか?」
そう問いかけてみると、彼は肩を落とし小さく首を横に振った。
「いや……まだ何の手がかりもつかめてねぇ。それよりもエヴァン、ステラお嬢さんを放っておいていいのか?婚約目前だったんだろう?」
突拍子もないその言葉に目が点になる中、レックスはニヤリと口角を上げ話し続ける。
「ステラお嬢さんが、異世界の姫にかかりっきりになっているお前の姿に泣いてるぜ」
ステラ……。
私が……彼女の事を忘れていた世界で、魔法を教えていた女……シモンの妹君。
一体どういうことでしょうか……。
「おいおい、無反応か?ついこの間、真夜中にステラお嬢さんがエヴァンの部屋に入っていったと、城中で噂になっていたじゃねぇか」
その言葉に紅の月が頭を掠めると、私はレックスを見つめたままに固まった。
まさか……それは……あの満月の日。
私が彼女を追いかけ広場に行ったあの日の事……。
どうして……それを知っているのでしょうか。
ここは彼女のいない世界ではないはずなのに……。
いえ……よく考えてみれば……彼女のいなかったはずの世界に、彼女が戻ってきた。
そして彼女が召喚されたあの世界は……今とはまた別の世界。
とすれば……まさか……。
「……人の事よりも、レックス殿はどうなのですか?婚約者殿と上手くいっているのでしょうか?」
「おいおい、またそれかよ……。あー、婚約は白紙に戻っちまったんだ。異世界の姫に構ってばかりで、婚姻の準備もせず、婚約者を放置していたからな……向こうの親が怒鳴り込んできた」
レックスは苦笑いを浮かべると、気まずげに視線を反らせる。
その姿に一つの仮説が思い浮かぶと、私は口もとに手をあて頭の中を整理していった。
今ここに存在しているレックスやアーサー、ネイトにブレイク……彼らは皆、彼女の事を大事に想っていた。
そして彼女の部屋には、夜会の際、彼らからのプレゼント……衣装や装飾品も全て揃っている。
彼らが彼女と過ごした日々、それも全て私の知るものと同じだった。
だからこそ今までこの差異に気が付かなかった。
そうか……彼女のいなかった世界と、彼女が生活していた事実が、この世界では融合しているのか……。
そう結論づけると、私はそっと顔を上げレックスへと視線を向けた。
「ところでシモン殿は……今どうしているのですか?」
「どうしたんだ突然?シモン殿は仕事で遠征中だろう。まぁもしこの場に居れば、エヴァンのところに乗り込んできていただろうな。あのシスコン野郎が……おっと、失礼。妹を目に入れても痛くないほどに可愛がっているシモン殿が、ステラお嬢さんの泣いてる姿を見れば青筋ものだろう」
遠征……だから王宮におらず、ステラについても何も言ってこなかったのですね。
とすれば……セーフィロ様がこの国の現王。
アーサー殿が補佐を務めているのか。
彼女の捜索に、夢中で全く気が付きませんでしたね……。
私は新たにわかった事実に、こちらの記憶の事を隠しながら、裏付けを取るようにレックスへ一つ一つ質問を投げかけていった。
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