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第五章
新章2:雨降る街で
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首筋がジンジンと痛む中、私は天井を見上げたままに、先ほどシナンが話していた、遣い魔使いについて考えていた。
血液から作り出す生き物……。
ここの人たちは少なからず魔力を持っている。
それにも関わらず、魔法が使えなかった。
いえ、魔法と言う言葉自体を、知られていなかったと言った方が正しいわね。
街全体の魔力が少ないからなのか、と考えていたけれど……この国では魔力を別の方法で使っていただけなのね。
北の国では魔力が豊富だから、外から魔力を吸収して魔法を使う。
逆に東の国は魔力が少ないから、魔力を含む血を使って魔法を使う。
血液自体は体に取り入れた栄養から形成されるのだろうから、魔力が少ない土地でも有効ってところかしらね。
それなら……私の体に巡る魔力も、栄養で補える可能性があるのかしら……?
でも今まで一度も補えたことはないわよね……。
考えるに……まぁ、長い年月この土地で暮らしていく中で、人間が進化してそうなったのだろうから……。
最初から魔法なんてない世界で生まれたこの体じゃ、出来なくて当然か。
それよりも……あの時私を助けてくれた、スリッド状の紅の瞳をした美しい獣はきっとカミールのもの。
ならカミールも遣い魔使いってことよね……。
ひと月以上一緒に仕事をしていて、彼は一度も遣い魔を見せなかった。
う~ん、私には知られたくなかったのかしら……?
それにしても血を流すことで作り上げる生き物か……。
魔力で出来ているはずなのに、どうして魔法が通用しなかったのかしら……?
あの時私は間違いなくあのヘビへ向かって魔法を投げた。
よけられた気配もなく、私の放った風魔法は只々ヘビをすり抜けた……。
まさか……遣い魔には魔法が効かないとか……?
もしくは私の魔法の使い方が悪いのかしら……?
はぁ……もっと魔法について勉強出来ていたらよかったんだけれどね……。
考えれば考えるほど、気になることがたくさん浮かぶ。
けれど……シナンに尋ねるよりも、詳しい話は遣い魔使いであるカミールに聞いてみた方がいいわよね。
まぁ……教えてくれるのかはわからないけれど……。
って今はそんなことよりも、この体調を何とかしないと……。
私はタオルを絞っていたシナンへ顔を向けてみると、そっと呼び掛けた。
「シナン、昨日買い物に行ったときに持って帰ってきた、青い袋はあるかしら?そこに一冊の本があるから、持ってきてくれない?」
シナンは私の言葉に大きく頷くと、尻尾をフリフリ揺らしながらに部屋を飛び出していく。
バタバタバタと階段を下りていく音が響く中、私は枕に頭を沈めると、次にこの謎の熱について考え始めた。
あの時……流れ落ちる血から壮大な魔力を感じたわ。
あの男と対峙した時よりも、ずっと大きな魔力。
そして魔力で遣い魔を作り出し、私を攻撃した。
それなら魔法で攻撃されたのと同じ事よね……?
さっきシナンが話していた通り、この熱があの遣い魔のせいだとすると……もしかしたらレックスに習った薬学が、ここで役立つかもしれない。
治癒魔法は……魔法を受け付けない私の体には無理だけれど、薬草ならきっと効果があるはずよ。
そんな事を考えていると、扉の向こうから階段を上る音が耳に届く。
ガチャリと音と共に、シナンは分厚い本を両手に抱え部屋に入ってくると、ベッドの傍へとやってきた。
「ありがとう。ごめんなさい、重かったでしょ……?」
「いえ、これぐらい平気です!それよりもこれで合ってますか?」
シナンはそっと本をベッドの上へ置くと、しっかりとした緑の表紙には【薬草図鑑】と大きく書かれている。
これは先日の買い物で、とある本屋に入店した際、目に留まり、興味本位で手に取った図鑑。
この図鑑の表紙を見て、レックスの姿を思い出して、思わず買ってしまったのよね。
薬草の本だし、どこかで役に立つかとは思っていたけれど、まさかこんなに早くに役に立つとは思わなかったわ。
私は本を膝に置きペラペラとページを捲っていくと、私が知っている薬草の名前もチラホラ目に映る。
知らない薬草も多いが……場所は違っていても、やはり同じ世界。
知っている名前にジワリと懐かしさを感じる中、レックスの優しい笑みが脳裏にチラつく。
目次に目を通しページをゆっくりと捲っていくと、私は丁寧一文字一文字を目で追っていった。
確か……魔法で受けた状態異常に効く薬は……いくつか教えてもらったわ。
その中で一番有効そうな薬草は……。
以前レックスに習った薬草を思い起こしながらに探してみるが……なかなか見つけることが出来ない。
あぁ……レックスに相談できれば……何かわかるはずなんだけど……。
しかしここにレックスはいない。
私は小さく息を吐き出すと、また次のページへと進んでいった。
**********お知らせ**********
※登場人物紹介を更新致しました。
血液から作り出す生き物……。
ここの人たちは少なからず魔力を持っている。
それにも関わらず、魔法が使えなかった。
いえ、魔法と言う言葉自体を、知られていなかったと言った方が正しいわね。
街全体の魔力が少ないからなのか、と考えていたけれど……この国では魔力を別の方法で使っていただけなのね。
北の国では魔力が豊富だから、外から魔力を吸収して魔法を使う。
逆に東の国は魔力が少ないから、魔力を含む血を使って魔法を使う。
血液自体は体に取り入れた栄養から形成されるのだろうから、魔力が少ない土地でも有効ってところかしらね。
それなら……私の体に巡る魔力も、栄養で補える可能性があるのかしら……?
でも今まで一度も補えたことはないわよね……。
考えるに……まぁ、長い年月この土地で暮らしていく中で、人間が進化してそうなったのだろうから……。
最初から魔法なんてない世界で生まれたこの体じゃ、出来なくて当然か。
それよりも……あの時私を助けてくれた、スリッド状の紅の瞳をした美しい獣はきっとカミールのもの。
ならカミールも遣い魔使いってことよね……。
ひと月以上一緒に仕事をしていて、彼は一度も遣い魔を見せなかった。
う~ん、私には知られたくなかったのかしら……?
それにしても血を流すことで作り上げる生き物か……。
魔力で出来ているはずなのに、どうして魔法が通用しなかったのかしら……?
あの時私は間違いなくあのヘビへ向かって魔法を投げた。
よけられた気配もなく、私の放った風魔法は只々ヘビをすり抜けた……。
まさか……遣い魔には魔法が効かないとか……?
もしくは私の魔法の使い方が悪いのかしら……?
はぁ……もっと魔法について勉強出来ていたらよかったんだけれどね……。
考えれば考えるほど、気になることがたくさん浮かぶ。
けれど……シナンに尋ねるよりも、詳しい話は遣い魔使いであるカミールに聞いてみた方がいいわよね。
まぁ……教えてくれるのかはわからないけれど……。
って今はそんなことよりも、この体調を何とかしないと……。
私はタオルを絞っていたシナンへ顔を向けてみると、そっと呼び掛けた。
「シナン、昨日買い物に行ったときに持って帰ってきた、青い袋はあるかしら?そこに一冊の本があるから、持ってきてくれない?」
シナンは私の言葉に大きく頷くと、尻尾をフリフリ揺らしながらに部屋を飛び出していく。
バタバタバタと階段を下りていく音が響く中、私は枕に頭を沈めると、次にこの謎の熱について考え始めた。
あの時……流れ落ちる血から壮大な魔力を感じたわ。
あの男と対峙した時よりも、ずっと大きな魔力。
そして魔力で遣い魔を作り出し、私を攻撃した。
それなら魔法で攻撃されたのと同じ事よね……?
さっきシナンが話していた通り、この熱があの遣い魔のせいだとすると……もしかしたらレックスに習った薬学が、ここで役立つかもしれない。
治癒魔法は……魔法を受け付けない私の体には無理だけれど、薬草ならきっと効果があるはずよ。
そんな事を考えていると、扉の向こうから階段を上る音が耳に届く。
ガチャリと音と共に、シナンは分厚い本を両手に抱え部屋に入ってくると、ベッドの傍へとやってきた。
「ありがとう。ごめんなさい、重かったでしょ……?」
「いえ、これぐらい平気です!それよりもこれで合ってますか?」
シナンはそっと本をベッドの上へ置くと、しっかりとした緑の表紙には【薬草図鑑】と大きく書かれている。
これは先日の買い物で、とある本屋に入店した際、目に留まり、興味本位で手に取った図鑑。
この図鑑の表紙を見て、レックスの姿を思い出して、思わず買ってしまったのよね。
薬草の本だし、どこかで役に立つかとは思っていたけれど、まさかこんなに早くに役に立つとは思わなかったわ。
私は本を膝に置きペラペラとページを捲っていくと、私が知っている薬草の名前もチラホラ目に映る。
知らない薬草も多いが……場所は違っていても、やはり同じ世界。
知っている名前にジワリと懐かしさを感じる中、レックスの優しい笑みが脳裏にチラつく。
目次に目を通しページをゆっくりと捲っていくと、私は丁寧一文字一文字を目で追っていった。
確か……魔法で受けた状態異常に効く薬は……いくつか教えてもらったわ。
その中で一番有効そうな薬草は……。
以前レックスに習った薬草を思い起こしながらに探してみるが……なかなか見つけることが出来ない。
あぁ……レックスに相談できれば……何かわかるはずなんだけど……。
しかしここにレックスはいない。
私は小さく息を吐き出すと、また次のページへと進んでいった。
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※登場人物紹介を更新致しました。
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