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第五章
新章8:船旅編
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翌朝目覚めると、隣にはシナンがスヤスヤと寝息を立てていた。
あれ……シナン……?
そういえば……昨日色々あって……一緒に眠ることになったんだったわ……。
起こさないようにそっと体を動かしてみると……ガッチリと抱きしめられた腕はピクリともしない。
うっ、子供の時と違いすぎるわね……。
顔は幼さが残っていて可愛いのに……腕や首の太さそれに肩幅も広く手も大きい……。
私を軽々持ち上げる事が出来るし、昨日押さえつけられた時……どんなに抵抗しても全く歯が立たなかった。
そっと視線を落としながらに彼の腕へ手を添わせてみると、しっかりした腕には程よい筋肉がついている。
そのまま肩へ手を伸ばすと、太い骨格が指先へ伝わってきた。
改めてシナンに対し男を意識すると、なぜか頬の熱が高まってくる。
ダメダメ、何を考えているのよ。
……彼は私をお姉さんとして慕ってくれているのよ。
余計な事を考えてはいけないわ。
私は火照る頬を覚ますように深く息を吸い込む中、少し力を入れな腕から逃れようと身をよじらせてみせると、シナンは眉を顰めながらに抱きしめる腕を強めていく。
息苦しさに咄嗟にシナンの胸を押し返すと、ふと微かな笑い声が耳に届いた。
そっと顔を上げてみると、いたずらが成功したような笑みを浮かべながらに、シナンは私の額へキスを落とす。
「もう、シナン!起きているのなら離してちょうだい」
「ふふっ、ごめんなさい、お姉さんの困った様子が可愛くて、つい……」
シナンは徐々に抱きしめている腕を緩めていくと、私は逃げるようにベッドから起き上がる。
はぁ……大人になったシナンには振り回されっぱなしね……。
そっとため息をつく中、ニコニコと可愛らしく笑うシナンの姿を横目に私は脱衣所へと向かうと、またいつもと変わらぬ一日が始まったのだった。
ゆっくりと時間が流れていく中、シナンはあの日以来自分の部屋へ戻ることなく、いつも私の傍にいた。
食事をとり、昼は船内を探索したり、図書館へ行ったり、夜は隣で眠る日々。
あんな事があった今、夜は極力外へ出ることは避け、部屋で過ごすようにしていた。
そうしてあっという間に一週間ほど経過すると、船内では後10日ほどで街へ到着するとの知らせが流れた。
もうすぐ到着することに私は甲板へ立ちながらにそっと海の向こう側を見つめると、まだ見ぬ壁を思い描く。
やっとここまで来たわ、壁の向こうへ行く方法は見つかるかしらね……。
そんなある夜、日が沈み海が暗い青に染まっていく中、シナンと部屋で他愛のない話をして盛り上がっていた。
笑い声が室内に響く中、ふと顔を上げると今日は新月なのだろうか……外は深い闇に染まっている。
雲はなく、星たちが一面に散らばっている様子を眺める中、一筋の流れ星が夜空を流れていった。
「見てシナン、流れ星よ」
「流れ星?それは何ですか?」
シナンは尻尾を振りながらに窓の外を見上げると、獣耳がピンッと小さく跳ねる。
可愛い……っっ。
あまりの可愛さに抱きしめたくなる思いを必死にこらえながらに視線を外すと、私も夜空を見上げた。
「ほら、星が流れて消えていくでしょう、あれが流れ星。流れ切る前に願い事を三回唱えると、その願いが叶うと言われているの。眉唾ものだけどね、ふふふ」
「へぇ、すごいですね!なら僕もお願いしてみます。……お姉さんとずっと一緒に居られますように……」
その言葉にキュッと胸が締め付けられると、勢いのままにシナンを抱きしめる。
腕の中ゴロゴロと擦り寄るシナンに自然と頬が緩む中、二人で夜空を眺めていると、波の音が微かに耳に届いた。
どれぐらい時間がたったのだろうか……幻想的なその光景に見惚れる中、ふとカミールの姿が夜空へ浮かぶと、私は慌てて首を横に振った。
どうして突然……。
あんな訳の分からない男の顔なんて……。
あの日以来カミールとは顔をあわせていない。
船に乗船した時からあまり見かけないと思っていたが、想像するにきっと彼は夜に行動しているのでしょう。
日中は全く出会わないのに、あんな真夜中に出会うなんて、それ以外考えられない。
ふとあの夜見たカミールのエメラルドの瞳が思い起こされると、告白めいた言葉が頭をよぎる。
(……だから俺の物になれ)
あれは一体何だったのかしら……。
告白というわけではないのでしょう。
彼が私の事を好きだとは考えにくい……。
ならただやりたいだけ……?
いや……でもそれなら他の女性に言えばいいはずよ。
わざわざ断っている女を、あの男が引き留めるとは到底思えないわ。
面倒な事は嫌いなタイプだもの。
それに何度も女性に冷たくしている場面を見たことがあるし、声をかけたことは一度もないと話していた。
その事が本当かどうかわからないけれど……彼の性格を考えるに、わざわざ自分から声をかけるとは思えない。
ならどうしてあの時……私を助け引き留めようとしたのかしら……?
いつもの彼なら面倒だと言わんばかりに突き放すはずよね……?
だがもし彼が私を好きだったら……。
それなら辻褄は合う。
そう知っても私がカミールを好きではないのだから、断ることには変わりはないけれど。
でもあの様子……何だか子供が駄々をこねているようなそんな感じがして……。
そんな答えの出ないままに頭を悩ませていると、ふと室内が大きく揺らいだ。
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あれ……シナン……?
そういえば……昨日色々あって……一緒に眠ることになったんだったわ……。
起こさないようにそっと体を動かしてみると……ガッチリと抱きしめられた腕はピクリともしない。
うっ、子供の時と違いすぎるわね……。
顔は幼さが残っていて可愛いのに……腕や首の太さそれに肩幅も広く手も大きい……。
私を軽々持ち上げる事が出来るし、昨日押さえつけられた時……どんなに抵抗しても全く歯が立たなかった。
そっと視線を落としながらに彼の腕へ手を添わせてみると、しっかりした腕には程よい筋肉がついている。
そのまま肩へ手を伸ばすと、太い骨格が指先へ伝わってきた。
改めてシナンに対し男を意識すると、なぜか頬の熱が高まってくる。
ダメダメ、何を考えているのよ。
……彼は私をお姉さんとして慕ってくれているのよ。
余計な事を考えてはいけないわ。
私は火照る頬を覚ますように深く息を吸い込む中、少し力を入れな腕から逃れようと身をよじらせてみせると、シナンは眉を顰めながらに抱きしめる腕を強めていく。
息苦しさに咄嗟にシナンの胸を押し返すと、ふと微かな笑い声が耳に届いた。
そっと顔を上げてみると、いたずらが成功したような笑みを浮かべながらに、シナンは私の額へキスを落とす。
「もう、シナン!起きているのなら離してちょうだい」
「ふふっ、ごめんなさい、お姉さんの困った様子が可愛くて、つい……」
シナンは徐々に抱きしめている腕を緩めていくと、私は逃げるようにベッドから起き上がる。
はぁ……大人になったシナンには振り回されっぱなしね……。
そっとため息をつく中、ニコニコと可愛らしく笑うシナンの姿を横目に私は脱衣所へと向かうと、またいつもと変わらぬ一日が始まったのだった。
ゆっくりと時間が流れていく中、シナンはあの日以来自分の部屋へ戻ることなく、いつも私の傍にいた。
食事をとり、昼は船内を探索したり、図書館へ行ったり、夜は隣で眠る日々。
あんな事があった今、夜は極力外へ出ることは避け、部屋で過ごすようにしていた。
そうしてあっという間に一週間ほど経過すると、船内では後10日ほどで街へ到着するとの知らせが流れた。
もうすぐ到着することに私は甲板へ立ちながらにそっと海の向こう側を見つめると、まだ見ぬ壁を思い描く。
やっとここまで来たわ、壁の向こうへ行く方法は見つかるかしらね……。
そんなある夜、日が沈み海が暗い青に染まっていく中、シナンと部屋で他愛のない話をして盛り上がっていた。
笑い声が室内に響く中、ふと顔を上げると今日は新月なのだろうか……外は深い闇に染まっている。
雲はなく、星たちが一面に散らばっている様子を眺める中、一筋の流れ星が夜空を流れていった。
「見てシナン、流れ星よ」
「流れ星?それは何ですか?」
シナンは尻尾を振りながらに窓の外を見上げると、獣耳がピンッと小さく跳ねる。
可愛い……っっ。
あまりの可愛さに抱きしめたくなる思いを必死にこらえながらに視線を外すと、私も夜空を見上げた。
「ほら、星が流れて消えていくでしょう、あれが流れ星。流れ切る前に願い事を三回唱えると、その願いが叶うと言われているの。眉唾ものだけどね、ふふふ」
「へぇ、すごいですね!なら僕もお願いしてみます。……お姉さんとずっと一緒に居られますように……」
その言葉にキュッと胸が締め付けられると、勢いのままにシナンを抱きしめる。
腕の中ゴロゴロと擦り寄るシナンに自然と頬が緩む中、二人で夜空を眺めていると、波の音が微かに耳に届いた。
どれぐらい時間がたったのだろうか……幻想的なその光景に見惚れる中、ふとカミールの姿が夜空へ浮かぶと、私は慌てて首を横に振った。
どうして突然……。
あんな訳の分からない男の顔なんて……。
あの日以来カミールとは顔をあわせていない。
船に乗船した時からあまり見かけないと思っていたが、想像するにきっと彼は夜に行動しているのでしょう。
日中は全く出会わないのに、あんな真夜中に出会うなんて、それ以外考えられない。
ふとあの夜見たカミールのエメラルドの瞳が思い起こされると、告白めいた言葉が頭をよぎる。
(……だから俺の物になれ)
あれは一体何だったのかしら……。
告白というわけではないのでしょう。
彼が私の事を好きだとは考えにくい……。
ならただやりたいだけ……?
いや……でもそれなら他の女性に言えばいいはずよ。
わざわざ断っている女を、あの男が引き留めるとは到底思えないわ。
面倒な事は嫌いなタイプだもの。
それに何度も女性に冷たくしている場面を見たことがあるし、声をかけたことは一度もないと話していた。
その事が本当かどうかわからないけれど……彼の性格を考えるに、わざわざ自分から声をかけるとは思えない。
ならどうしてあの時……私を助け引き留めようとしたのかしら……?
いつもの彼なら面倒だと言わんばかりに突き放すはずよね……?
だがもし彼が私を好きだったら……。
それなら辻褄は合う。
そう知っても私がカミールを好きではないのだから、断ることには変わりはないけれど。
でもあの様子……何だか子供が駄々をこねているようなそんな感じがして……。
そんな答えの出ないままに頭を悩ませていると、ふと室内が大きく揺らいだ。
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