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第五章
クリスマス企画(カミール&シナン)前編
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※これは船に乗る前、まだカミールの家に住んでいる前提のお話です(シナンは大人になっております)※
私はいつもと同じように早朝に目覚めると、ギルドへ向かう準備を始めていた。
まだ太陽が昇りきらない薄暗い部屋の中、シナンの寝息がスヤスヤと耳に届く。
そっと窓の外へ目を向けると、外は寒いのだろうか……窓ガラスが曇り水滴が流れていた。
その様子に、私はいつもより分厚いローブを羽織ると、シナンを起こさないように急いで一階へと下りて行った。
リビングにはすでにカミールが雑誌を片手ソファーへ座り込んでいる。
私の姿に顔を上げると、無言のままで立ち上がった。
その姿に慌てて彼の背を追いかけると、外から冷たい風が吹き荒れ、頬を刺すように痛む。
「ふぅ……今日は寒いわね」
冷たい手をこすり合わせながらにそう呟くと、カミールは白い息を吐き出しながらに、こちらへと振り返った。
「俺が温めてやろうか?」
カミールはニヤリと口角を上げると、私の腕を強く引き寄せ胸の中へ閉じ込める。
突然の事に気が動転する中、すぐに我に返ると、私は慌てて飛び退いた。
「けっ、結構よ!!!」
頬に熱が高まりながらにそう叫ぶと、カミールは鼻で笑ってみせる。
「それだけ赤くなっているなら、もう寒くないだろう」
カミール楽しそうにそう言い捨てると、細い路地を進んでいった。
そうしていつものようにギルドへやってくると、私は外でカミールを待っていた。
するとそばを通るギルドの従業員だろう声が聞こえてくる。
「おぃ、今日は何日だ?」
「あー、12月24日だな」
「ならその書類の日付訂正しておけ」
そんな会話が耳に届くと、私はゆっくりと顔を上げた。
そっか……今日は12月24日なのね。
元の世界ならクリスマスの飾りで街中が鮮やかに彩られているだろう。
ここよりもっと寒く、雪も降っているかもしれない。
この世界にはまだ電気はないから、イルミネーションなんても物はないだろうけれど……。
この街がクリスマスにそまっていれば、さぞ美しい景色だっただろう。
そんな事を考えながらに街を見渡してみると、そこは代り映えのない街の風景。
そういえば……タクミもクリスマスの事を知らなかった。
きっとこの世界にはクリスマスなんてものはないのだろう。
もうクリスマスを祝う事もないのかしらね。
そう物思いに耽っている中、突然ドンッと肩を叩かれると、私はハッと振り返った。
「おい、ぼっとしてどうしたんだ?」
「いえ……ちょっと昔の事を思い出して……」
「昔の事……どんなことだ?」
珍しいわね、こんな話に興味を持つなんて……。
「あぁー……今日は12月24日なのでしょう。私の暮らしていた街では24日~25日に祝い事があったのよ。特別な料理を作ったり、甘いお菓子を用意したり、木に飾り付けをして楽しむの。そして恋人や大切な人と過ごすのよ」
そう話してみると、カミールはエメラルドの瞳をスッと細めると、私をじっと見つめた。
「ほう、面白そうなだな。今日の仕事が早く片付いたら……やってみるか」
珍しく乗り気な彼の言葉に戸惑う中、カミールは一枚の紙を取り出すと、行くぞと森の方へ向かっていく。
その背を茫然と眺める中、私は慌てて足を進めると追いかけていった。
一体何を考えているのかしら……。
こういったイベント事なんて、面倒だと切り捨てるタイプでしょ?
でももし本当にクリスマスを祝えるなら、シナンは喜びそうね。
彼の境遇からきっとこういったイベント事には、参加させてもらっていないだろうし……。
シナンの嬉しそうな笑みが頭を過ると、心がほっと温かくなった。
そうして仕事を終え街へ戻ってくると、まだ日は傾いたばかりだった。
カミールは家には向かわず、商店街の方へと足を進める中、その姿に黙って後ろをついていくと、突然に人ごみの中で立ち止まった。
「でっ、何が必要なんだ?」
「えっ!?あの……本当にクリスマスをするのかしら?」
そう恐る恐るに尋ねてみると、カミールは不機嫌な表情を浮かべて見せる。
「なんだその反応は。クリスマスってのをやりたくないのなら構わない。帰るぞ」
「ちょっ、……ッッ、待って、やりたいわ!ぜひ、やらせてほしいの!」
そう慌てて帰ろうとするカミールを引き留めると、彼は少し表情を和らげながらに戻るのをやめ、商店街へと足を進めていった。
そうして必要な物を買いそろえ戻ってくると、ドアを開けた瞬間、シナンがパタパタと駆けてくる。
「おかえりなさい。どうしたんですか?今日はお早いですね」
尻尾をフリフリと嬉しそうに揺らすシナンに心が安らぐ中、買ってきた荷物を見せると、彼はキョトンと首を傾げた。
「今日はね、クリスマスなの。だから一緒にお祝いをしようと思って」
シナンは興味津々に耳をピンッと立てると、尻尾がピョンピョンと跳ねている。
かっ、可愛い……ッッ
その姿に心の中でもだえる中、カミールはさっさと部屋へ向かっていった。
「お姉さん、クリスマスというお祝いですか?あの……僕も手伝います!お祝い事をするのは初めてですが……」
そんなシナンの言葉にニッコリ笑みを浮かべると、彼の手をとり一緒にキッチンへと向かっていった。
キッチンには晩御飯の仕込みだろう鍋が……すでに用意されている。
よかった、シナンが作っているだろうと考えて、買ってきたのはお菓子の材料だけだ。
よしっ、とりあえずジンジャークッキを作りましょうか。
同じものは難しいだろうけども……似たような材料は買い込んできたのよね。
さっそく私は記憶を引っ張り出しながらに材料の分量を量り、小麦粉を篩いにかけると、気合を入れるように腕をまくり、お菓子作りを始めていった。
「シナン、一緒に形を作りましょうか」
そう声をかけると、私はボールから生地を取り出して薄く伸ばしていく。
手本の為、生地を人型に切り取ってみると、シナンは目を輝かせながらにじっと見つめていた。
そのままシナンにナイフを渡してみると、慣れた手つきで生地を形どっていく。
シナン……器用なのね……私よりもきれいにできているじゃない……。
「お姉さん、見て下さい!出来ました!」
嬉しそうに笑うシナンの様子に、私はそっと自分のクッキーを横へよけると、次はクリスマスツリーの形を作って見せた。
前の世界でも、こうやってタクミと一緒にお菓子を作ったわ……。
初めてクッキーを作った時は焼きすぎて、失敗しちゃったけれど。
そんな事を考えながらに、出来上がった生地をオーブンで焼き始めると、甘い匂いが部屋に漂い始めた。
私はいつもと同じように早朝に目覚めると、ギルドへ向かう準備を始めていた。
まだ太陽が昇りきらない薄暗い部屋の中、シナンの寝息がスヤスヤと耳に届く。
そっと窓の外へ目を向けると、外は寒いのだろうか……窓ガラスが曇り水滴が流れていた。
その様子に、私はいつもより分厚いローブを羽織ると、シナンを起こさないように急いで一階へと下りて行った。
リビングにはすでにカミールが雑誌を片手ソファーへ座り込んでいる。
私の姿に顔を上げると、無言のままで立ち上がった。
その姿に慌てて彼の背を追いかけると、外から冷たい風が吹き荒れ、頬を刺すように痛む。
「ふぅ……今日は寒いわね」
冷たい手をこすり合わせながらにそう呟くと、カミールは白い息を吐き出しながらに、こちらへと振り返った。
「俺が温めてやろうか?」
カミールはニヤリと口角を上げると、私の腕を強く引き寄せ胸の中へ閉じ込める。
突然の事に気が動転する中、すぐに我に返ると、私は慌てて飛び退いた。
「けっ、結構よ!!!」
頬に熱が高まりながらにそう叫ぶと、カミールは鼻で笑ってみせる。
「それだけ赤くなっているなら、もう寒くないだろう」
カミール楽しそうにそう言い捨てると、細い路地を進んでいった。
そうしていつものようにギルドへやってくると、私は外でカミールを待っていた。
するとそばを通るギルドの従業員だろう声が聞こえてくる。
「おぃ、今日は何日だ?」
「あー、12月24日だな」
「ならその書類の日付訂正しておけ」
そんな会話が耳に届くと、私はゆっくりと顔を上げた。
そっか……今日は12月24日なのね。
元の世界ならクリスマスの飾りで街中が鮮やかに彩られているだろう。
ここよりもっと寒く、雪も降っているかもしれない。
この世界にはまだ電気はないから、イルミネーションなんても物はないだろうけれど……。
この街がクリスマスにそまっていれば、さぞ美しい景色だっただろう。
そんな事を考えながらに街を見渡してみると、そこは代り映えのない街の風景。
そういえば……タクミもクリスマスの事を知らなかった。
きっとこの世界にはクリスマスなんてものはないのだろう。
もうクリスマスを祝う事もないのかしらね。
そう物思いに耽っている中、突然ドンッと肩を叩かれると、私はハッと振り返った。
「おい、ぼっとしてどうしたんだ?」
「いえ……ちょっと昔の事を思い出して……」
「昔の事……どんなことだ?」
珍しいわね、こんな話に興味を持つなんて……。
「あぁー……今日は12月24日なのでしょう。私の暮らしていた街では24日~25日に祝い事があったのよ。特別な料理を作ったり、甘いお菓子を用意したり、木に飾り付けをして楽しむの。そして恋人や大切な人と過ごすのよ」
そう話してみると、カミールはエメラルドの瞳をスッと細めると、私をじっと見つめた。
「ほう、面白そうなだな。今日の仕事が早く片付いたら……やってみるか」
珍しく乗り気な彼の言葉に戸惑う中、カミールは一枚の紙を取り出すと、行くぞと森の方へ向かっていく。
その背を茫然と眺める中、私は慌てて足を進めると追いかけていった。
一体何を考えているのかしら……。
こういったイベント事なんて、面倒だと切り捨てるタイプでしょ?
でももし本当にクリスマスを祝えるなら、シナンは喜びそうね。
彼の境遇からきっとこういったイベント事には、参加させてもらっていないだろうし……。
シナンの嬉しそうな笑みが頭を過ると、心がほっと温かくなった。
そうして仕事を終え街へ戻ってくると、まだ日は傾いたばかりだった。
カミールは家には向かわず、商店街の方へと足を進める中、その姿に黙って後ろをついていくと、突然に人ごみの中で立ち止まった。
「でっ、何が必要なんだ?」
「えっ!?あの……本当にクリスマスをするのかしら?」
そう恐る恐るに尋ねてみると、カミールは不機嫌な表情を浮かべて見せる。
「なんだその反応は。クリスマスってのをやりたくないのなら構わない。帰るぞ」
「ちょっ、……ッッ、待って、やりたいわ!ぜひ、やらせてほしいの!」
そう慌てて帰ろうとするカミールを引き留めると、彼は少し表情を和らげながらに戻るのをやめ、商店街へと足を進めていった。
そうして必要な物を買いそろえ戻ってくると、ドアを開けた瞬間、シナンがパタパタと駆けてくる。
「おかえりなさい。どうしたんですか?今日はお早いですね」
尻尾をフリフリと嬉しそうに揺らすシナンに心が安らぐ中、買ってきた荷物を見せると、彼はキョトンと首を傾げた。
「今日はね、クリスマスなの。だから一緒にお祝いをしようと思って」
シナンは興味津々に耳をピンッと立てると、尻尾がピョンピョンと跳ねている。
かっ、可愛い……ッッ
その姿に心の中でもだえる中、カミールはさっさと部屋へ向かっていった。
「お姉さん、クリスマスというお祝いですか?あの……僕も手伝います!お祝い事をするのは初めてですが……」
そんなシナンの言葉にニッコリ笑みを浮かべると、彼の手をとり一緒にキッチンへと向かっていった。
キッチンには晩御飯の仕込みだろう鍋が……すでに用意されている。
よかった、シナンが作っているだろうと考えて、買ってきたのはお菓子の材料だけだ。
よしっ、とりあえずジンジャークッキを作りましょうか。
同じものは難しいだろうけども……似たような材料は買い込んできたのよね。
さっそく私は記憶を引っ張り出しながらに材料の分量を量り、小麦粉を篩いにかけると、気合を入れるように腕をまくり、お菓子作りを始めていった。
「シナン、一緒に形を作りましょうか」
そう声をかけると、私はボールから生地を取り出して薄く伸ばしていく。
手本の為、生地を人型に切り取ってみると、シナンは目を輝かせながらにじっと見つめていた。
そのままシナンにナイフを渡してみると、慣れた手つきで生地を形どっていく。
シナン……器用なのね……私よりもきれいにできているじゃない……。
「お姉さん、見て下さい!出来ました!」
嬉しそうに笑うシナンの様子に、私はそっと自分のクッキーを横へよけると、次はクリスマスツリーの形を作って見せた。
前の世界でも、こうやってタクミと一緒にお菓子を作ったわ……。
初めてクッキーを作った時は焼きすぎて、失敗しちゃったけれど。
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