[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

新章4:捕らえられた先に

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何かしら……体が揺れてる?
何とも言えぬ感覚にそっと目を開けると、そこは深い森の中だった。
グルリと辺りを見渡してみるが、鬱蒼と生い茂る大きな木ばかり。
街の姿はどこにもなく、差し込む日の加減から、今は夕刻時だと言う事はわかった。
そうしてゆっくりと過ぎ去っていく木々の様子に、私自身が歩いている事に気が付いた。
でもそれは無意識で、どこへ向かっているのかさっぱり見当もつかない。

暫くすると、徐々に木々が少なくなり、見覚えのある広場が目に映る。
ここはラボがある場所……あれ?
そこでふと違和感を感じると、私は左右へ視線を向けた。
壁がない?
壁があるだろう場所には何もなく、どこまで深い森が続いている。

私の勘違いかしら……でももしかしたら。
そう思い体の向きを変えようとするが、思うようには動かない。
どうして?そう狼狽する中、体は私の意思とは反し、ラボの方向へと進んで行く。
どうなっているの?

不思議な感覚に戸惑う中、体が勝手に進んで行くと、その先にラボではない、小さな小屋が浮かび上がる。
小屋は最近建てられたのだろうか、新しい木で造られ、白檀の香りが鼻孔を擽った。
そのまま私は迷うことなく小屋の扉を叩くと、中から透き通るような美しい女性の声が返ってきた。
その声と共に扉が開くと、その先には見覚えのある彼女の姿があった。

「おかえり、どうやった?」

そう笑みを浮かべているのは、紛れもなく時空の狭間で出会った彼女。
可愛らしい笑みに、金色の瞳、ブロンドのカールヘアー。
どっ、どうして彼女がここにいるの?
驚きのあまり目が点になると、ふと自分の唇が意思とは関係なく動き始めた。

「ただいま、エレナ。聞いてくれ、君のおかげで新しい武器が出来上がったんだ。本当にありがとう。西の国の僕たちは君のように魔力を上手くコントロールする力がない。だけど君が言った通り魔力が流れているのだとすれば、その魔力を外へ出せればってそう思って。それがようやくこ成功したんだ。まぁ……物理的な方法だけどね。それでもこれがあれば東の国へ対抗出来る!」

紡がれた声は自分の声とは違い、低くどう聞いても男の声だった。
私は咄嗟に窓へと視線を向けると、そこに映し出されたのは10代後半だろう青年の姿。
透き通ったブルーの瞳に、真っ青なアクアブルーの髪。
その姿はどこか見覚えがある。
優しいそうな瞳に、整った顔立ち、もしかして……ッッ。

「よかったやんか、ノエル。うちはなんもしてへんで。あんたが頑張った成果や」

ノエル、やっぱり……でもどうして私がノエルに?
それに彼女の存在もおかしい、この世界に干渉は出来ないとそう話していたわ。
楽しそうに笑うエレナの姿を信じられない思いで見つめる中、ノエルは罰の悪そうな表情を浮かべると、そっと口を開いた。

「そんな事ないよ。でね……今日は別の報告もあって……。暫くここへは来られない。とうとう僕にまで徴兵がかかったんだ」

その言葉にエレナは勢いよく立ち上がると、ノエルの腕を思いっきりに掴んだ。

「はぁ!?あんた研究者やろ?ならそんな無視したらええ。出来やんのやったら一緒に逃げよ。この街以外にも、北へ行けば魔法が豊かな北の国がある。そこなら研究も続けられるし、戦闘に巻き込まれる事もあらへん」

明暗だと笑みを浮かべる彼女の姿に、ノエルは首を横へ振る。

「エレナ、ありがとう。だけど僕はこの国で育って、両親もいる。父は最前線で戦っているし、母も医療班として戦場に出ている。そんな二人を裏切る事なんて出来ないんだ。でもエレナは逃げてほしい。君は……僕にとって大事な……かけがえのない女性だから」

「はぁ!?何言うてんのや!戦場へ出る事がどういう事かわかってるんか?死ぬかもしれやんのやで。あんたが死ぬ事を両親は絶対望まん。だから、なぁ、一緒に行こうや」

そう必死に何度も説得を試みるが、彼が頷く事はない。
その姿に彼女は憤りと怒りを感じると、ノエルの体を突き飛ばし家から追い出した。

「アホッッもうええわ、勝手にせぇ!どうなっても知らんからな!!!」

怒鳴り声が扉の向こう側から響く中、ノエルは苦しそうに顔を歪めると、閉ざされた扉をじっと見つめていた。
そんな彼から嘆き、喪失感、後悔、そんな感情がリアルに伝わってくる。
まるでこのありえもしない状況が、現実だと、そう錯覚してしまうほどに。

強い負の感情に囚われる中、ふと目の前が真っ白に染まると、また新たな風景が現れる。
そこは戦場のど真ん中。
怒号が飛び交い、爆音が辺り一面に響く。
焦げ臭いが鼻孔を掠め、真っ赤な鮮血が辺り一面飛び散っている。
人肌が焼ける臭いに思わず嗚咽が込み上げると、冷や汗が流れ落ちた。

そんな中ノエルは剣を握りしめ、只々立ち尽くしてた。
目を背けたくなる程の悲惨な光景に足が動かなくなってしまったのだろうか……。
周りの戦士達が倒れていく中、ふと大きな魔力の気配に空を見上げると、そこには真っ赤な火の玉が浮かんでいた。
その火の球は次第に大きくなり、落下してきている事に気が付いた瞬間、ノエルの体にぶつかった。
皮膚が燃え熱さと痛さに悶絶する中、炎は治まるどころか激しく燃え上がる。
うめき声を上げながら地面へ倒れ込むと、ノエルの体はピクリとも動かなくなった。
肉体的な痛みは伝わってこないが、彼の感情が私に降り注ぐ。

エレナは大丈夫だろうか。
ごめん、エレナ……エレナ。
最後にもう一度……君の姿を、その笑顔が見たかった……。

目の前が紅に染まる中、ノエルの意識が次第に遠のいていく。
彼が死んでいくその様に放心する中、脳裏には様々な疑問が掠めていった。
ノエルが死ぬ?
何なのこれは?
一体どういうことなの?

そんな中、ふと彼の体が持ち上げられる感触に、彼の意識が少しだけ目覚めた。
最後の力を振り絞り、何かを求めるように手を伸ばすと、そこに柔らかい何かが触れる。
その光に彼は重く鉛のような瞼をもちが得ると、薄目の向こう側にはエレナの姿が薄っすらと浮かび上がった。
彼女の瞳には大粒の涙が零れ落ち、焼け溶けた肌へと降り注ぐ。

「なんで、なんでや……。嘘やろ……ッッ、私が、私のせいなんか?どうでもええなんてそんな事言うたから?目を開けてや、嫌や、嫌や、頼む……死なんといてくれ、頼むわ……ッッ」

ノエルには彼女の言葉は届いていないだろう。
だってもう彼はここにいない、さっきまで感じていた彼の想いがなくなってしまっているから。
でもこれって、エレナはノエルを愛していた?
そしてノエルもエレナを愛していた?

「このままじゃ終わらせへん。うちが必ずあんたを救い出すから……」

絞り出した震える声が耳に届いた刹那、壮大な魔力が辺り一面を包みこむと、私の意識はノエルの体から離れ、深い深い闇の中へと落ちていった。
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