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第五章
新章3:10日間
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ぬいぐるみだからだろうか、頭が重い。
突っ伏したまま足をばたつかせ、なんとかひっくり返る。
手足に力を入れてみるが、上手くバランスを取れず、なかなか起き上がれない。
あぁでもない、こうでもない、モゾモゾと試行錯誤し、何とか顔を上げると、ドアップに映る黒い瞳が、真っすぐに私を射抜いた。
「ねぇねぇ、ところであんた、魔法は使えるの?」
魔法……どうなのかしら?
彼の問いかけに、綿の入った足へ力を入れ立ち上がる。
ヨタヨタと覚束ない足取りだが、なんとか直立に成功した。
私はいつもの要領で手に魔力を集めてみるが、うまく魔力が集まらない。
体が違うから思うように魔力が扱えないの?
空気中に漂い魔力は十分にある、試しに頭の中でイメージしてみるが何も発動しなかった。
「あれ、使えないみたいだわ……。どうしてかしら、感じられるのに、上手く魔力が扱えない」
「うーん、やっぱり無理か。別の個体に入っているしね、さてどうしようかなぁ。あっ、そうだ」
彼は何か思いついたように部屋から出ていくと、遠くからガタガタッと音が聞こえた。
何かを探しているのだろう、これじゃぁない、あれもちがう、とゴソゴソと漁っているそんな音が耳にとどく。
暫く様子を窺い待っていると、ガタンッと大きな音と共に、扉が大きく開いた。
「やっと見つけた~。これこれ、どうぞ」
そう話しながらこちらへ近づいてくると、彼の手には研磨され黒光りした小さな石。
手のリサイズ程の大きさで、宝石のオニキスのように美しく輝ていた。
青年はおもむろにその黒石を私の胸元へ押し付けると、体の中に一気に魔力が溢れ出す。
黒石はぬいぐるみの胸に張り付くと、熱が全身を駆け抜けた。
驚きながら改めて魔力を練ってみると、ぬいぐるみの手に小さな魔力が集まる。
害のないよう水をイメージしてみると、そこに小さな水滴が浮かび上がった。
「魔法が……この石は何なの?」
「それは僕が試作で作ったものだよ。生命の無いに物に魔力を与えるとどうなるのか……。まぁ、よかったよかった、これで魔法が使えるねぇ~。あぁーでも元の体とは違って、大きな魔法や強い魔法は使えないから気を付けて」
彼にニカッと人懐っこい笑みを浮かべると、ぬいぐるみの体をガッチリと掴む。
ちょっと今、この子凄いこと言ってたんじゃない!?
生命の無い物に魔力を……ってどういうこと!?
理解不能な彼の言葉に戸惑っていると、彼は静かに口を開いた。
「じゃぁ早速本題だ。あんたにお願いしたことは、ある女性を助け出して欲しい。彼女は無実の罪で30年間城に捕らえられているんだ」
「女性を城から助け出す……?無実の罪?どうしてわかるの?」
「それは……彼女にその力がないと僕が知っているから。まぁそれは置いといて、もちろんやってくれるよねぇ?やってくれないと、これは返さないからね」
青年は見せつけるようにカギを出すと、サッと胸元へ仕舞いこむ。
何とか取り返せないかと、そっと魔力を飛ばしてみると、彼に到着す前に消し飛んだ。
「魔法で取り返そうなんて、無理だよ。僕はこれでも有名な黒魔導師だからね。ぬいぐるみには負けないよ」
改めて青年を見ると、その内に秘める魔力が伝わってくる。
今の私とは比べ物にならないほどの魔力さ、これは無理ね……。
カギを取り戻さなければ、あの世界へ戻れない。
エヴァンに必ず帰ると約束したわ、もう少しなの……。
彼の話す無実の罪、それが本当かどうかわからないけれど、ここで断れない。
ならとりあえず承諾して、ゆっくり考えることにしましょう。
「……わかったわ」
「ははっ、よかった、交渉成立だね。僕はリョウ、あんたの名前は?」
その問いかけに言葉を詰まらせると、なんと答えるべきなのか頭を悩ませる。
本当の名は言えない、適当な名前を……だけどこの世界ではどんな名前が普通なのかわからない。
リョウっていうと、私がもともといたあの世界とよく似ている。
あぁでも、うーん、そうだわ、この世界の住人、一人いるじゃない。
「私はエレナよ。精一杯頑張るわ」
そう名を名乗ると、リョウは一瞬驚いた表情を見せ、黒い瞳が微かに揺れた。
けれどそれは一瞬で、彼はすぐに表情を変えると、ニカッと笑いながら宜しくと手を差し出した。
突っ伏したまま足をばたつかせ、なんとかひっくり返る。
手足に力を入れてみるが、上手くバランスを取れず、なかなか起き上がれない。
あぁでもない、こうでもない、モゾモゾと試行錯誤し、何とか顔を上げると、ドアップに映る黒い瞳が、真っすぐに私を射抜いた。
「ねぇねぇ、ところであんた、魔法は使えるの?」
魔法……どうなのかしら?
彼の問いかけに、綿の入った足へ力を入れ立ち上がる。
ヨタヨタと覚束ない足取りだが、なんとか直立に成功した。
私はいつもの要領で手に魔力を集めてみるが、うまく魔力が集まらない。
体が違うから思うように魔力が扱えないの?
空気中に漂い魔力は十分にある、試しに頭の中でイメージしてみるが何も発動しなかった。
「あれ、使えないみたいだわ……。どうしてかしら、感じられるのに、上手く魔力が扱えない」
「うーん、やっぱり無理か。別の個体に入っているしね、さてどうしようかなぁ。あっ、そうだ」
彼は何か思いついたように部屋から出ていくと、遠くからガタガタッと音が聞こえた。
何かを探しているのだろう、これじゃぁない、あれもちがう、とゴソゴソと漁っているそんな音が耳にとどく。
暫く様子を窺い待っていると、ガタンッと大きな音と共に、扉が大きく開いた。
「やっと見つけた~。これこれ、どうぞ」
そう話しながらこちらへ近づいてくると、彼の手には研磨され黒光りした小さな石。
手のリサイズ程の大きさで、宝石のオニキスのように美しく輝ていた。
青年はおもむろにその黒石を私の胸元へ押し付けると、体の中に一気に魔力が溢れ出す。
黒石はぬいぐるみの胸に張り付くと、熱が全身を駆け抜けた。
驚きながら改めて魔力を練ってみると、ぬいぐるみの手に小さな魔力が集まる。
害のないよう水をイメージしてみると、そこに小さな水滴が浮かび上がった。
「魔法が……この石は何なの?」
「それは僕が試作で作ったものだよ。生命の無いに物に魔力を与えるとどうなるのか……。まぁ、よかったよかった、これで魔法が使えるねぇ~。あぁーでも元の体とは違って、大きな魔法や強い魔法は使えないから気を付けて」
彼にニカッと人懐っこい笑みを浮かべると、ぬいぐるみの体をガッチリと掴む。
ちょっと今、この子凄いこと言ってたんじゃない!?
生命の無い物に魔力を……ってどういうこと!?
理解不能な彼の言葉に戸惑っていると、彼は静かに口を開いた。
「じゃぁ早速本題だ。あんたにお願いしたことは、ある女性を助け出して欲しい。彼女は無実の罪で30年間城に捕らえられているんだ」
「女性を城から助け出す……?無実の罪?どうしてわかるの?」
「それは……彼女にその力がないと僕が知っているから。まぁそれは置いといて、もちろんやってくれるよねぇ?やってくれないと、これは返さないからね」
青年は見せつけるようにカギを出すと、サッと胸元へ仕舞いこむ。
何とか取り返せないかと、そっと魔力を飛ばしてみると、彼に到着す前に消し飛んだ。
「魔法で取り返そうなんて、無理だよ。僕はこれでも有名な黒魔導師だからね。ぬいぐるみには負けないよ」
改めて青年を見ると、その内に秘める魔力が伝わってくる。
今の私とは比べ物にならないほどの魔力さ、これは無理ね……。
カギを取り戻さなければ、あの世界へ戻れない。
エヴァンに必ず帰ると約束したわ、もう少しなの……。
彼の話す無実の罪、それが本当かどうかわからないけれど、ここで断れない。
ならとりあえず承諾して、ゆっくり考えることにしましょう。
「……わかったわ」
「ははっ、よかった、交渉成立だね。僕はリョウ、あんたの名前は?」
その問いかけに言葉を詰まらせると、なんと答えるべきなのか頭を悩ませる。
本当の名は言えない、適当な名前を……だけどこの世界ではどんな名前が普通なのかわからない。
リョウっていうと、私がもともといたあの世界とよく似ている。
あぁでも、うーん、そうだわ、この世界の住人、一人いるじゃない。
「私はエレナよ。精一杯頑張るわ」
そう名を名乗ると、リョウは一瞬驚いた表情を見せ、黒い瞳が微かに揺れた。
けれどそれは一瞬で、彼はすぐに表情を変えると、ニカッと笑いながら宜しくと手を差し出した。
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