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第一章
最後の召喚:後編1
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魔法で彼女が眠りにつくと、魔導士はそっと彼女を抱きかかえる。
深い寝息を立てる彼女を眺める中、魔導士は杖をそっと下した。
「……鎖は緩めましたよ。そろそろ人型になったらどうですか?その姿だと話すこともできない……」
その言葉に、グルルルルッと唸り声をあげていた獣は、動きを止め、鋭い目を魔導士へと向ける。
鎖越しに、彼の腕の中スヤスヤと眠る彼女の姿を確認すると、獣の周りにいくつもの光が集まっていった。
集まった光は獣を包み込み、大きく弾け飛ぶと、鎖の中に男性の姿が現れた。
整った顔立ちの男は、冷たい眼差しを浮かべると、睨みつけるように魔導士へ視線をむける。
髪は長く、先ほどの獣と同じ白く滑らかで、……男の瞳は紅に染まっていた。
魔導師はその姿に、小さく口を開きボソボソと何かを呟くと、鎖はひとりでに彼の体から離れていく。
鎖が外れ自由になった男は表情変える事無く、じっと魔導士を見据えていた。
「お久しぶりですね。……どうして人間の姿にならなかったのですか?」
「エヴァン、今すぐ彼女を離せ」
魔導師は胸の中でスヤスヤと眠る彼女に視線を向けると、彼女の髪を優しくからめとる。
「嫌ですよ。彼女を守りたいのであれば、あなたも一緒に城へ来てください。聖獣ネイト殿」
魔導師は眠る彼女の喉に軽く杖を押し当てると、挑発するようにネイトを見つめた。
そんな彼の姿にネイトは拳を強く握りしめると、不承不承の様子で、魔導士の後に続き、洞窟を出て行った。
*************
ふと目を覚ますと、そこは物語のお姫様が暮らしていそうな、豪華な部屋だった。
ヨーロッパ風のアンティークな家具が並び、私一人では大きすぎるほどの広さだ。
ゆっくりと体を起こすと、私の体にはフリフリのレースをあしらったドレスが着せられている。
現状についていけず戸惑う中、私はそっとベッドから下りた。
あの子は大丈夫かしら……。
先ほど苦しそうに鎖に囚われていた狼の姿が頭をよぎると、私は強く拳を握りしめる。
私は本当に無力だわ……あの子に助けてもらったのに……私には助けてあげる力も知識もない……。
自分の無力さに苛立つ中、徐に立ち上がりると、目の前に見える大きな扉へと向かった。
そっと扉のノブへ手を掛けた瞬間、大きな扉が勝手に開いていく。
慌てて手を引っ込め、目線を上げると、そこには不敵な笑みを浮かべた魔導士が佇んでいた。
「お目覚めでしたか、異世界の姫様」
「あの子は……無事なの?」
魔導師は私の言葉に笑みを深めると、軽く頷いた。
「彼の様子が気になるのでしたら、見に行きますか?」
彼の言葉に私は深く頷くと、魔導士は小さく口を動かし何かを囁いた。
気が付くと私は、薄暗い通路に佇んでいた。
辺りを見渡すと、どうやら地下の様だ。
光は差し込まず、蝋燭の炎が壁に並び辺り薄暗い通路を照らす中、いたるところに苔が生えている。
ジメジメとした石畳の通路を、魔導士に連れられるように歩いて行くと、私は地下を奥へ奥へと進んでいく。
すると目の前に石の扉が現れると、魔導士は徐に杖を翳すと、石の扉が自然と開いていく。
そのまま石の扉の中へ足を進めると、そこには大きな牢屋が見える。
その牢屋の中には白く長い髪をした男が激しく肩を揺らし、壁に体を預け、苦しそうに座り込んでいた。
「あなたは……あの時、洞窟で追いかけてきた……」
見知った姿に私は呆然とする中、ハッと獣の姿が見当たらない事に、魔導士の腕を強く掴む。
「あの子はどこなの!!!」
「目の前にいるじゃありませんか。……ふふ、彼ですよ……彼があなたを救った獣だ」
魔導師の言葉に私は大きく目を見張ると、ゆっくりと牢屋へと顔を向ける。
牢屋の中にいる男は苦しそうに顔を歪めると、私から視線を逸らせた。
「あなたがあの子で……ちょっと待って……うそでしょ……ごっ、ごめんなさい。私気が付かなくて……」
私は徐に牢へ一歩一歩近づいていくと、荒く息を繰り返す彼に語り掛ける。
私の言葉に男は小さく首を横に振ると、何かを耐えるように苦悶の表情を浮かべた。
そんな彼の様子に、私は慌てて魔導士へと駆け寄った。
「彼を早く助けてあげて!お願い!!」
「私では助け出すことはできません。助け出せるのはあなただけです……」
魔導師は不敵な笑みを浮かべながら、そっと手を添わせると、優しく私の髪を撫でる。
私はその手を思いっ切り振り払うと、怒りを含めた瞳で魔導士を睨みつけた。
「触らないで!!……一体どういう事なの?」
彼は振り払われた自分の手を見つめると、小さく笑った。
「ふふっ、あなたは聖獣という存在を知っていますか?彼らはたった一人を愛し、焦がれる存在。一度好きになってしまえば、その思いが薄れることはない。触れさせるのも、触れるのも心に決めた唯一無二の存在だけなんですよ。……そんな聖獣があなたを選んだ」
魔導師の言葉に、牢屋の中で苦しむ男は、必死に体を起こし鋭い瞳を魔導士へ向けると、絞り出すような声で唸った。
「ぐっ……煩い……黙れ……はぁ、はぁ、ぁあっ……っっ」
一体何の話をしているの……?
魔導師の意味の分からない言葉に、私は訝し気に彼を見上げた。
「異世界の姫。あなたは彼から白い実を貰いませんでしたか?聖獣は昔から愛しい人に贈り物をするんですよ。自分の魔力で作ったものを相手に送るのです。その贈り物を相手が食べれば、二人は両想い……」
白い実……もしかして……!?
「あの時の白い実が……?」
私は慌てて牢屋の中へ目を向けると、男は私から視線を逸らし、苦渋の表情を浮かべていた。
「まぁ、あなたはその事を知らなかったのでしょうが……食べてしまったんでしょう。……そんな彼が今、私が与えた媚薬で苦しんでいるのですよ。あなたも経験があるでしょう?あの彼の部屋で……ふふふっ」
魔導師の言葉に私は目を見張ると、怒りに視界が歪む。
「あれは……あなたの仕業だったのね……」
「ふふふ……さぁ、どうしますか?彼を助けられるのはあなた一人だ。……あなたも身をもって知っているかと思いますが、この媚薬は強力ですよ。……そうですねぇ……もし彼をこのまま放置しておけば、ここで狂ってしまうかもしれません」
魔導師の言葉に私は拳を握りしめると、怒りを堪え、徐に牢屋へと視線を向ける。
苦しみ蹲る彼の様子に心がズキリと小さく痛むと、私は意を決し彼の元へと足を進めた。
深い寝息を立てる彼女を眺める中、魔導士は杖をそっと下した。
「……鎖は緩めましたよ。そろそろ人型になったらどうですか?その姿だと話すこともできない……」
その言葉に、グルルルルッと唸り声をあげていた獣は、動きを止め、鋭い目を魔導士へと向ける。
鎖越しに、彼の腕の中スヤスヤと眠る彼女の姿を確認すると、獣の周りにいくつもの光が集まっていった。
集まった光は獣を包み込み、大きく弾け飛ぶと、鎖の中に男性の姿が現れた。
整った顔立ちの男は、冷たい眼差しを浮かべると、睨みつけるように魔導士へ視線をむける。
髪は長く、先ほどの獣と同じ白く滑らかで、……男の瞳は紅に染まっていた。
魔導師はその姿に、小さく口を開きボソボソと何かを呟くと、鎖はひとりでに彼の体から離れていく。
鎖が外れ自由になった男は表情変える事無く、じっと魔導士を見据えていた。
「お久しぶりですね。……どうして人間の姿にならなかったのですか?」
「エヴァン、今すぐ彼女を離せ」
魔導師は胸の中でスヤスヤと眠る彼女に視線を向けると、彼女の髪を優しくからめとる。
「嫌ですよ。彼女を守りたいのであれば、あなたも一緒に城へ来てください。聖獣ネイト殿」
魔導師は眠る彼女の喉に軽く杖を押し当てると、挑発するようにネイトを見つめた。
そんな彼の姿にネイトは拳を強く握りしめると、不承不承の様子で、魔導士の後に続き、洞窟を出て行った。
*************
ふと目を覚ますと、そこは物語のお姫様が暮らしていそうな、豪華な部屋だった。
ヨーロッパ風のアンティークな家具が並び、私一人では大きすぎるほどの広さだ。
ゆっくりと体を起こすと、私の体にはフリフリのレースをあしらったドレスが着せられている。
現状についていけず戸惑う中、私はそっとベッドから下りた。
あの子は大丈夫かしら……。
先ほど苦しそうに鎖に囚われていた狼の姿が頭をよぎると、私は強く拳を握りしめる。
私は本当に無力だわ……あの子に助けてもらったのに……私には助けてあげる力も知識もない……。
自分の無力さに苛立つ中、徐に立ち上がりると、目の前に見える大きな扉へと向かった。
そっと扉のノブへ手を掛けた瞬間、大きな扉が勝手に開いていく。
慌てて手を引っ込め、目線を上げると、そこには不敵な笑みを浮かべた魔導士が佇んでいた。
「お目覚めでしたか、異世界の姫様」
「あの子は……無事なの?」
魔導師は私の言葉に笑みを深めると、軽く頷いた。
「彼の様子が気になるのでしたら、見に行きますか?」
彼の言葉に私は深く頷くと、魔導士は小さく口を動かし何かを囁いた。
気が付くと私は、薄暗い通路に佇んでいた。
辺りを見渡すと、どうやら地下の様だ。
光は差し込まず、蝋燭の炎が壁に並び辺り薄暗い通路を照らす中、いたるところに苔が生えている。
ジメジメとした石畳の通路を、魔導士に連れられるように歩いて行くと、私は地下を奥へ奥へと進んでいく。
すると目の前に石の扉が現れると、魔導士は徐に杖を翳すと、石の扉が自然と開いていく。
そのまま石の扉の中へ足を進めると、そこには大きな牢屋が見える。
その牢屋の中には白く長い髪をした男が激しく肩を揺らし、壁に体を預け、苦しそうに座り込んでいた。
「あなたは……あの時、洞窟で追いかけてきた……」
見知った姿に私は呆然とする中、ハッと獣の姿が見当たらない事に、魔導士の腕を強く掴む。
「あの子はどこなの!!!」
「目の前にいるじゃありませんか。……ふふ、彼ですよ……彼があなたを救った獣だ」
魔導師の言葉に私は大きく目を見張ると、ゆっくりと牢屋へと顔を向ける。
牢屋の中にいる男は苦しそうに顔を歪めると、私から視線を逸らせた。
「あなたがあの子で……ちょっと待って……うそでしょ……ごっ、ごめんなさい。私気が付かなくて……」
私は徐に牢へ一歩一歩近づいていくと、荒く息を繰り返す彼に語り掛ける。
私の言葉に男は小さく首を横に振ると、何かを耐えるように苦悶の表情を浮かべた。
そんな彼の様子に、私は慌てて魔導士へと駆け寄った。
「彼を早く助けてあげて!お願い!!」
「私では助け出すことはできません。助け出せるのはあなただけです……」
魔導師は不敵な笑みを浮かべながら、そっと手を添わせると、優しく私の髪を撫でる。
私はその手を思いっ切り振り払うと、怒りを含めた瞳で魔導士を睨みつけた。
「触らないで!!……一体どういう事なの?」
彼は振り払われた自分の手を見つめると、小さく笑った。
「ふふっ、あなたは聖獣という存在を知っていますか?彼らはたった一人を愛し、焦がれる存在。一度好きになってしまえば、その思いが薄れることはない。触れさせるのも、触れるのも心に決めた唯一無二の存在だけなんですよ。……そんな聖獣があなたを選んだ」
魔導師の言葉に、牢屋の中で苦しむ男は、必死に体を起こし鋭い瞳を魔導士へ向けると、絞り出すような声で唸った。
「ぐっ……煩い……黙れ……はぁ、はぁ、ぁあっ……っっ」
一体何の話をしているの……?
魔導師の意味の分からない言葉に、私は訝し気に彼を見上げた。
「異世界の姫。あなたは彼から白い実を貰いませんでしたか?聖獣は昔から愛しい人に贈り物をするんですよ。自分の魔力で作ったものを相手に送るのです。その贈り物を相手が食べれば、二人は両想い……」
白い実……もしかして……!?
「あの時の白い実が……?」
私は慌てて牢屋の中へ目を向けると、男は私から視線を逸らし、苦渋の表情を浮かべていた。
「まぁ、あなたはその事を知らなかったのでしょうが……食べてしまったんでしょう。……そんな彼が今、私が与えた媚薬で苦しんでいるのですよ。あなたも経験があるでしょう?あの彼の部屋で……ふふふっ」
魔導師の言葉に私は目を見張ると、怒りに視界が歪む。
「あれは……あなたの仕業だったのね……」
「ふふふ……さぁ、どうしますか?彼を助けられるのはあなた一人だ。……あなたも身をもって知っているかと思いますが、この媚薬は強力ですよ。……そうですねぇ……もし彼をこのまま放置しておけば、ここで狂ってしまうかもしれません」
魔導師の言葉に私は拳を握りしめると、怒りを堪え、徐に牢屋へと視線を向ける。
苦しみ蹲る彼の様子に心がズキリと小さく痛むと、私は意を決し彼の元へと足を進めた。
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