[BL]デキソコナイ

明日葉 ゆゐ

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社会人編

11、バックミュージックなんてない。

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 数日後、ハギが竜と打ち合わせを行い、正式に竜の"Etoile"への楽曲提供が決まった。

「目黒さん、なんて?」
「ユウさんの熱量に圧された、って言ってました」
「それから?」
「深夜番組を見て、"Etoile"のことは知ってたって」
「深夜番組?」
「あれですよ、ユウさんばっかり映ってた番組」
「あぁ…」
「そういえば、ユウさんは目黒さんのことを以前から知ってたらしいです」
「え、なんで?」
「詳しくは聞いてないですけど、ずっと狙ってたみたいです」

「なんで目黒さんのこと知ってたの?」
「目黒さん、ロッソにも楽曲提供しててさ」
「ほえー」
「その曲がめちゃくちゃ僕の好みだったから、いずれ一緒に仕事したいなと思ってたんだ」
「狙ってたってわけだ」
「だからめちゃくちゃ楽しみ」


*********


 自分の知らないところでも世界は回る。そんなことは分かっている。

 でも「目黒さんのこと、俺にも教えてくれてたら」とか「仕事を受けた理由はそれだけなのか」とか、言っても仕方がないことばかり浮かんでくる。しょうもない。本当にしょうもない。「悠が教えてくれてたら、俺はもっと早く竜と再会できたかもしれないのに」とか「仕事を受けたのは、俺のいるグループだからじゃないのか」とか。

 全部、俺の妄想でしかない。

 練習に身が入らない。

 延々と考えてしまう。「"あげはには、もう二度と会わない"」といったあいつが、俺との仕事を受けるのか。つまり、俺は竜の言う"あげは"じゃなくて、でも竜はあの日俺を病院に置き去りにして消えた。

 "空霞あげは"にも"独神流"にも関わりたくないというのなら、どうして仕事を受けた。

 わかっている、考えすぎた。

 竜は悠の熱量に圧されて仕事を受けただけだ。そこに流は関係ない。あいつは自分の仕事をしているだけだ。

 わかっている、わかっている。

 でも、でもでも。でもでも。

 提供楽曲を作成するにあたって、竜はダンスレッスンやレコーディングなどを見に来るという。そこで俺は竜にどんな顔をすればいいのか。

 いや、そこだって、すべきことはわかっている。ほかの楽曲提供者と同じように接すればいい。過去のことなど関係ない。赤の他人として、初めましての人として、振る舞えばいい。

 それだけだ、それだけだ。
 だけどだけどだけどだけどだけど。
 自信がない。自信がない。

 なんにもなかったかのように振る舞うには、俺と竜の間にはいろいろありすぎた。流としても、あげはとしても。もしも竜がこれまでのように逃げていてくれたら。あの日のダンスレッスンにやってくるなんてことをしなければ。

 俺に見つかる可能性がある場をとことん避けてくれていれば。

 だってこの10年間はずっとそうして、俺から逃げていたんだろ。
 なのに、なんで、あの日はー。

 考えている場合じゃない。練習しなければ。練習しなければ。どんなに頑張っても、悠より目立てないとしても、練習しなければ、練習しなければ。

「Lyu、どうした」

 ダンスの講師に声を掛けられ、流は我に返る。随分長いこと、スタジオの鏡をぼんやりと眺めていたようだ。

「先生、今日は来ない予定じゃ」
「おまえが1人で練習してるって聞いたから、見に来たんだよ」
「そう…ですか」
「ほら。見てやるから、踊ってみろ」
「…はい」

 講師が後ろ手で部屋に鍵をかける。「ああ」と思う。どうやら彼は指導をしに来てくれたわけではないらしい。

 ワンフレーズ踊ったところで、床に押し倒され、キスをされた。

「最近してなかったな」
「…いつも誰かいますからね」
「久し振りに入れてもいい?」
「…確かめるの珍しいですね」

 着ていたTシャツをまくり上げられ、胸の尖りを吸われると思わず声が出た。

「おまえはここ弱いよな…」
「…恥ずかしいから言わないで…ください…」

 愛撫されると、あっという間に下半身に熱が集まっていく。そういう体になってしまっている。

「可愛い…」
「…あ…」
「もう…入れたくなってきた…」
「……後ろ、指で慣らして…欲しいです…」
「おねだり上手くなったじゃん。…どこの男に教え込まれたんだか…」
「…んあっ…」

 何も考えられなくなる。性行為はそれがいい。余計なことは何も考えなくていい。目の前の快感に流されてしまえばいい。

 扉の閉まる音が聞こえた。反射的に振り返る。

 立っていたのは竜だった。

 これが映画なら、絶望的なBGMでもかかるのだろうけれども、現実にはBGMなんてかからない。ただの静寂。

 他人の存在に気付いた講師が流を突き飛ばす。

「…オレは悪くない、オレは悪くない…」

 乱れた衣服を直しながらそう呟き、スタジオを出て行く。

 流は立ち上がれなかった。こちらを見ている竜から、顔を背けることもできなかった。

 竜もその場から動かなかった。死んだような目で流を見つめていた。

 時計の秒針の音。
 遠くで誰かが笑う。
 足音が部屋の前を通り過ぎ、また別の足音が通り過ぎる。
 冷房の稼働音。
 誰かの怒鳴り声。
 足音が部屋の前を通り過ぎ、また別の足音が通り過ぎる。


 竜が泣いていることに気付いた時、流は体を起こした。


 To be continued…
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