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第一部.婚約破棄と新たな婚約
1.突然の嵐
しおりを挟む貴族令嬢と令息が手を取り合いながら参加する舞踏会。
婚約者がいる者は、同伴するのが暗黙の了解だが。
ファーストダンスはだけは婚約者ではなくても踊れる。
ただし一度だけという決まりがある中、俺は壁の花状態になりながら今日も蔑まれた視線を受け流していた。
今日で俺は13歳になる。
この国では男性は13歳で成人を行い、成人とみなされる。
成人式を迎えると同時に俺はシリガリー家に迎えられるはずだったのだが。
「この場をお借りしましてご報告がございますわ」
カルメン嬢がダンスホールの中央に立ちながら俺をキッと睨みつける。
「何ですの?」
俺の側に寄り添ってくれたレイラ様は庇う様にカルメン嬢を睨みつける。
「本日、この日を持って私はエリオル・ラスカルとの婚約を破棄し、マルス様と婚約いたします!」
「なっ…何だって!」
突然の事でざわめく会場。
当然俺も多少は驚いたが、傷つきはしなかった。
婚約して3年、俺達の関係は改善されることはなかった。
悪いと言うわけではないが、カルメン嬢は俺を毛嫌いしているのは見ていれば解る。
「私は貴方のような方とは結婚できません!他の女性と浮気をし、マルス様に嫌がらせをし、ラスカル家を乗っ取ろうとする最低な方など我がシリガリー家に…いいえ、栄えある我がヴァルハラ王国の貴族に必要なき者!無能で人格にも問題ある等、同情の余地はありませんわ!」
「カルメン嬢と僕達は愛し合っている…故にこの婚約を解消し、僕の婚約者となる!」
声高らかに告げるが、俺を含め他の貴族は呆れていた。
嫌がらせって何だ?
そもそも俺が伯爵家を乗っ取るとはどういうことだろうか。
「嫌がらせとは具体的にどういうことですか?」
「しらばっくれないでください!貴方は長男である役目を放棄し、嫡男である重圧をマルス様に押し付けあまつさエドナ様を無視してパーティーではヴィオレッタ様と別の馬車に帰りました」
「馬車は定員オーバーだったんですが」
「それだけではありませんわ!先日のパーティーではマルス様が他の令嬢とダンスを踊るのを咎めていましたわ。いくらご自分が女性に相手にされないからと言って陰湿にも程が…」
「基本、婚約者がいる女性にダンスを申し込むのはマナー違反です。私は弟のマナー違反を注意こそしましたが咎めるような行為はしていません」
「でも、夜会にも不参加で」
「私は廃嫡された身ですから、マルスが代表として参加するのは当然です。祖母にも立場をわきまえる様に言われていましたが…」
「それは…」
目を泳がせるお祖母様は言葉を濁した。
常日頃から俺に立場をわきまえろと言っていたが、夜会にはちゃんと出ていた。
「しかし、そのパーティーでは彼は参加していた」
「嘘を…」
「いや、本当だ。正確には俺の付き人として側にいた。証拠が必要なら聞いてみると良いだろう?」
俺の側に来て当時のことを話そうとする殿下。
給仕をしていた者達は首をかしげながらもカルメン嬢に話す。
「ちゃんと名簿の記録にも記載はございますし、他の夜会にはエリオル様は入場させてもらえませんでしたし」
「ええ、参加しなかったのではなくできなかったかと…」
弱腰に話す執事たちや侍従は口々に告げる。
彼等は王族に仕える侍従などので嘘を言っても自分の立場が悪くなるだけなので嘘は言っていないだろうと周りも判断する中、レイラ様が冷たい視線で射抜く。
まるで軽蔑の眼差しを向けるようだった。
「とんだ勘違いもあったものではありませんわ。それから他の女性と浮気と申しますが、その女性は私の母ですわ」
「は?」
「その日は母が気分を悪くしていたので、エリオル様が付き添ってくださいましたのよ?なんせエリオル様は我が屋敷で行儀見習いをしておりましたので母からの信頼は疑いようがないのです」
扇を広げながら自信たっぷりに微笑む姿はなんだろう?
どこかで見たことがある悪役みたいだった。
「とんだ言いがかりですわ。どうお考えですの?シリガリー伯爵?」
「申し訳ありません」
ガタガタと震えながら頭を下げる。
隣でシリガリー夫人も真っ青になっているが、気にも止めないテレシア様。
そこに一歩踏み出して来たのはランスロット様。
「先程婚約破棄と言ったが、マルス殿と婚約すると言うことだな?」
「はい!私はマルス様に身も心も捧げています!」
馬鹿だろこの女。
本当に救いようもない馬鹿だ!
「カルメン!」
「マルス様」
二人は仲睦まじく抱き合っているが、正直これが夢物語か、ロマンス小説ならば感動的だろう。
だが、現実で。
社交の場であれば馬鹿のすることだ。
まぁ、俺の成人式に何かしでかすのではないかと思っていたので特に驚かなかった。
‥‥のだが。
驚くべき出来事が今まさに起ころうとしていた。
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