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第五章.栄光と堕落は紙一重
21.貴族の手本
しおりを挟む新たな新入生として入ったマルスにカルメンは早速やらかしてくれた。
初日から指導を行う、先輩に対して礼儀を欠いた態度を取り、ミツバに至っては平民と言う理由で見下し、あげく指導を拒否した。
まぁ、それだけで感情的になる程短絡的ではない。
レイラもハルも解っている。
ミツバに至っては、自分が悪いと思っていたようだが。
「とりあえず、様子を見ようか」
「申し訳ありません。エリオル様」
「君は悪くないだろう?第一、この学園は完全な実力主義だ。平民だから学びたくないなんて言語道断だ…とは言え温室育ちのお嬢様にはそういう人間もいることを頭に入れてくれるかな?」
「はい」
どうしても身分が邪魔したり、環境が邪魔してしまうことがある。
全ての人と心を通わすなんて不可能だし、無理な話なのだと思うしね?
「ただ、忘れないで欲しい」
「はい?」
「君は、この学園の貴族を押しのけてSランク治癒師として認められたんだ。その事実だけは変わらない」
「エリオル様‥」
貴族は格差社会かもしれない。
でも、身分だけで回っているわけじゃない。
王を支えている多くの官僚は下級貴族や平民が多い。
「貴族は特権を与えられていると同時に義務もある。逆に言えば義務を果たせない貴族は血筋だけだ。哀しい事だが…そう言った貴族が多いんだ」
「そんな…」
「でも、すべての貴族がそうだとは思わないで欲しい。貴族の中にも役目を果たそうと懸命になっている者もいる。どうか忘れないで」
貴族の悪い部分だけ見て沙汰をしないで欲しい。
カルメンは典型的な悪い例であるけど、ここに模範的な貴族令嬢がいるのだから。
どうか、忘れないで欲しい。
「そうだぞ、ヒステリックな気の短い貴族令嬢ばかりじゃないからな!」
「ウィルフレッド殿下…」
「後、無駄に口うるさく、生真面目で鬱陶しい令嬢ばかりではないな!」
「それは嫌味ですか」
だから、何でこの方は空気を読まないんだ!
背後で負のオーラが見える。
ラナに至っては、ハリセンを用意しているしな!
「王侯貴族の一番悪い手本は貴様だ!」
「ハハッ、こんな模範的で優秀なのに」
「「「何処がだ!!」」」
本当にな?
貴族の悪い例の代表と言っても過言ではない気がするけど。
でも、ミツバに笑顔が戻ったから良しとしよう。
「さぁ、気分を変えてお茶にしようか。新作のお菓子を作ったんだ」
「わぁ!お菓子の家でですか!可愛い」
「エリオル様、どんどん女子スキルがレベルアップして行きますね」
俺の最新作、俺風お菓子の家。
クッキー生地で作り、デコレーションにも力を入れた傑作だった。
「扉もちゃんとありますね」
「ああ、中から小人で出てきそうな」
「はは…お菓子の家には誰もいないよ」
住人はいないんだから、何も出て来ることはない。
そう言おうとしたら、勝手に扉が開く。
「え?何で扉…」
「主様、ご機嫌麗しゅうございます」
お菓子の家からはシメ爺が出て来た。
何でいるの?
「長老かよ!!」
「何で貴様がいるのだ!どうやって入った…って、勝手に食べるな」
「誠に美味なる家でございました。おかげで長年の腰痛が改善されました。流石主様がお作りになった家ですな」
そう言いながらもちゃもちゃと口を動かしている。
しかも、チョコで作ったステッキを勝手に愛用しているし!
何時の間に不法侵入したんだ!
結局お菓子の家は食べられず、シメ爺に譲ってあげることになった。
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