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閑話3.過去編ラインハルト
しおりを挟む雨が降っていた空は一夜で晴れた。
まるで雲一つない程の青空が憎らしくて仕方ない。
「僕の心はまだ土砂降りだよ」
愛しい存在を失い、尊敬する人を失い。
なのにこの空の下で幸福そうに嫁ぐもう一人の妹が不愉快だった。
「ラインハルト様。準備が整いました」
「そう」
「本当によろしいのですか」
今日、ミレーヌは王家に嫁ぐ。
しかしラインハルトは挨拶もしないでいた。
「別に後で会うだろ?結婚式と言っても形だけだ正妃として嫁がないのだから」
「ですが…」
「この家から嫁いだ後に待っているのは茨の道…選んだのはアイツだ」
感情の無い声。
冷たいアイスブルーの瞳が射貫く。
「持参金は持たせてある。すべきこともした…後は僕に何を求めるんだ?僕を謹慎処分にして、自分達の都合で呼び寄せて…自分中心で本当に嫌になるよ」
「ラインハルト様!」
「リューイ。僕はね…あれが憎い」
姉の死を悲しむ所かリシャールに嫁げると喜んでいるような妹を受け入れられなかった。
「所詮あの二人にとってシェリラは道具。自分達の欲を満たす道具でしかなかった…ミレーヌが幸せなら死んでも良かったんだ。むしろ清々したんじゃないか?」
「それはあまりにも…」
「娘が死んだのに…喪が明けるどころか翌日に結婚式か?本当に恐ろしい化け物だ」
この邸でラインハルトはシェリラがずっと心を殺しているのを見て来た。
傍にいながらどうしてやることもできなかった自分はなんて無力なのだろうか。
表立って庇えば咎められ、最後まで妹を守りたくても、選択を間違えてしまった。
領地に手謹慎処分を受けている間にシェリラは修道院に向かう道中事故で亡くなったと聞かされた。
何故あんな場所を通ったのか。
御者は生きていたのにシェリラは死んだなんて。
どう考えてもおかしい。
「ラインハルト様」
「許さない…あいつ等を絶対に」
ずっと跡継ぎとして息もできないまま苦しみ続けていた。
辛くて苦しくて。
でも弱音を吐く事も許されなかったラインハルトにとってシェリラは支えだった。
両親と過ごす時間よりも長かった事もあり家族の絆がしっかりった。
「僕のたった一人の家族を殺した奴を許さない」
執事は何も言えなくなった。
常に笑って仮面を被っていたラインハルトは泣きながら怒りをぶつけた。
「侯爵家の跡取りとして振る舞いはする。だがそれだけだ」
もう家族とも思わない。
踏みにじられた思いと共にラインハルトの心は既に決まっていた。
これから待つのは修羅の道。
だとしても、進むしかないのだった。
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