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一章 〜浄化の聖女×消滅の魔女〜

天真爛漫×不穏なる空気

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「あった! これだ! クレープ? って言うんだって!」

 様々な露店が立ち並ぶ中でようやく見つけた一つの屋台。

「ほー、なんか面白い見た目してる食いもんだな」

 見慣れない形状を前に、ギルニクスも興味津々と言った様子。

「……じー」

 と、ワザとらしく擬音を口にするアルルのおねだりを前に。

「わーったよ並んでくりゃいんだろ! ったく……」

 必然と屈したギルニクスが十数人ほどの列最後尾に並ぶ。

「よろしく~」

 待つこと十五分程、ようやく目的の物を両手に入れたギルニクスが戻り、

「おまちど、ほらよ」

 アルルの隣に座り片方を手渡す。

「ありがと~、……ふむふむなるほど……これは! 面白い食感! 程よい甘さ加減! 素晴らしい! 94点!」

 アゼルハイム名産の砂糖がふんだんに使用された硬めのクリームに、各地から取り寄せられた適度な酸味を含む果物類が調和する。

「おー、確かに美味いなこれ。この皮みたいな奴の淡白さと果物の酸味がいい感じに甘さを調和してる。因みにその足りない6点はなんなんだ」

「口の周りを汚さずに食べるのが難しい」

「なるほど、一理ある」

「っ、ギル、言ったそばから、ほっぺたに、クリーム付いてる」

 右頬に見つけた白いそれを目にしたアルルがワザとらしく笑いを堪える。

「えっ、まじ? どっち、どこ」

「ほら、ギル、じっとしてて」

 アルルが徐ろに顔を近づける。

 ギルニクスは自分の身に何が降り掛かろうとしているのかを理解した瞬間、

「……ちょおまッ!? バっ、ごふォッ! ……やれるもんならやってみろっ!」

 露骨に同様を顕にするも、それならばと自分からも挑発してみせる。

「遠慮しとく」

 そこですかさず身を引くアルル。

「なんなんだよお前! ホントなんなんだよ!」

 やりきれない思いを発散させるかのように頭を掻きむしるギルニクス。

「なに、もしかしてほんとにして欲しかったの? 期待しちゃった?」

 期待通りの反応を得られ満足した様子のアルルが更なる煽りを入れる。

「してねーーーーーよばーーーーーか!」



「なんか捜索願いの張り紙多くない?」

 目に入る景色の中に必ず一枚は存在する程に張り巡らされている。

「確かに、どことなく不穏な感じがするな」

 顔写真と共に、張り紙曰く、行方不明者一覧、目撃情報求む。といった旨の文章が添えられている。

「犯罪組織の名前、ザナルガンドって言うんだって。変な名前」

 案の定、そこまでアルルの興味を惹くものでは無かったようで。

「へぇ。ま、せっかくの休みで面倒ごとに態々首突っ込むこたぁねぇな」

 それにはギルニクスも同意らしい。

「あたし誘拐されちゃうかも……こわいよぉギルぅ」

 わざとらしい棒読みに媚びるような語尾が付属したような――そんな声色。

「お前それマジで気色悪いから止めろッ! お前を狙おうとする誘拐犯が現れたとしたら、そいつに同情せざるを得ないな……」

 アルルの悪ふざけに二重の意味で鳥肌を立てるギルニクス。

「ま、あたしを誘拐出来る人間とかギルくらいしかいないか」

「なんだアルル、俺に誘拐して欲しいのか?」

 先程の仕返しに悪ふざけを返すギルニクスに対し。

「警団の人こっちでーす! 不審者に脅されてまーす!」

 あまりにも理不尽な仕打ち。

「おいバカ! マジの大声で騒ぎ立てるヤツがあるか!」



「お金が尽きた……」

 バグロスから手渡されていた決して少なくない額を一瞬の内に使い果たしてしまったアルルが項垂れる。

「いくらなんでも買い過ぎだお前」

 両手いっぱいに積み上がる荷物の山から、呆れ顔を浮かべるギルニクスの頭がひょっこりと出てくる。

「どっかに金貨落っこってないかなぁ~」

 眉間に垂直に手を当て、わざとらしく辺りを見渡すような仕草をとるアルル。

「聖女とか呼ばれてる奴の言動とは思えねぇ」

「慈悲を乞うなら金よこせぇ!」

「うわサイテーだこいつ聖女どころか人としてサイテーだっ!」

 と、そこまでやりとりを行った後、アルルは何かを決意したような表情を浮かべる。

「こうなったら現地で調達するまで! んじゃ、ギル、そういう事で、後はよろしく」

 ギルニクスの目に、積み上がる荷物の向こうでみるみるうちに小さくなっていくアルルの背中が映る。

「まてこら! そういう事ってどういう事だよおい! ちょっ、この荷物どうしろってんだあああぁぁぁっっっ!?」

 路地に、ギルニクスの叫びが虚しく響き渡った。
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