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「ハル、僕と一緒に王都に行こうよ。」

あの日も別れ際僕は何度目かの駄々をこねた。

「アモル様、それは出来ないのです。リー・ベルガ一族はこの地を守る定めにありますから。ここより他に生きる術はありません。」

ハルがいつもと同じように宥めてくる。

「でも、ハルと離れたくない。」

僕はハルの体にぎゅっと抱き着いた。ハルはその背中を優しく撫でてくれる。

「それではアモル様、大人になったらトーリアに住んで下さいますか?私めが精一杯お仕えさせていただき、何一つ不自由させませんので。」

「いいよ。でも大人になる前にまた遊びに来る。次は馬に乗せてね。」

「はい。必ず。お待ちしております。」


———————-


僕の婚約者であるキラキラ王子のヴァーノ君は結婚前の顔合わせの儀で、

「初めまして愛しい人。私の花嫁。」

と言った。
僕の付き添いで来ていた腹違いの兄さまの手を取って。

そりゃもうびっくりしたけど、前日ヴァーノ君に呼び出されて明日の儀式中は何があっても黙って見ていろと言われてたのを思い出し、漏れかけた声を噛み殺す。

「貴方と一緒になれることは無上の喜びだ。」

棒立ちの兄さまに向かってヴァーノ君が続けた。
え、二人って愛し合ってたの?
いやいや、初対面のはずだ。
ヴァーノ君はじめましてって言ってたし、兄さまはみるみる顔色が青ざめている。

でも、ヴァーノ君は兄さまが好きみたい。
ぱっと見いつも通りにこやかだけど、付き合いの長い僕には分かる。
どこかで見かけて一目惚れでもしたんだろうか。
昨日のヴァーノ君の言葉からして、きっと僕に手伝って欲しいんだろうな。

兄さまが青い顔で僕の服と自分の服を交互に見た。
ヴァーノ君が僕と兄さまを間違えてると思ってそう。
僕は小さい頃からヴァーノ君と遊んでるからそんな訳ないのだけど、庶子の生まれで最近叙爵されるまで平民だった兄さまはまだよく貴族社会のことがわかってない。
年齢以上に大人びた所がある不思議な人だけど、結構純朴だからな。

僕はどうにか王子を謝絶しようとする兄さまを素知らぬ振りでいなし、ヴァーノ君はざわつく貴族を一瞥で黙らせてその場はめでたく兄さまとヴァーノ君の顔合わせの儀に変わった。

めでたしめでたし。




「……という訳で、兄さまが僕の代わりに嫁いじゃいました。」

儀式の後王都内の自屋敷に帰って父さまに報告する。

「まさかフェンが良かったなんて。言ってくれればよかったのに……。」

ヴァーノ君の大ファンである父さまは気を悪くした風も無く言った。

「うーん、予め言ってたら王弟派が、というか王弟さまがまた煩いし、兄さまはちょっと前まで平民だったから下手すれば内部でも反対が出てただろうから、不意を突いて一気に押し通したかったんじゃないですか?」

王弟さまは王子と敵対してて、ヴァーノ君の結婚話をとにかく難癖つけて潰そうとする。
昔は面倒なお兄さんて感じだったけど最近はちょっと小姑みたい。
元々僕との結婚は妹のメリダが大人になるまでの中継ぎの政略結婚なのに、それでこれならメリダの時はどうなるんだろう?

そうかもなぁ、と父さまも納得した。
父さまはとにかくヴァーノ君のやることは疑わないからな。

「それで、ヴァーノ王子から父さまに手紙を預かってきました。」

「なんだと、早く見せなさい。」

父さまがいそいそと手紙を開く。
読み進めるうちに目をまん丸くした。

「なんて書いてありますか?」

「アモル、お前をトーリアに送れと。」

……ええええ!?
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