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第1章 53 楽しい時間は…
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翌朝―
「はぁ~…」
トングで朝食バイキングの料理を皿に取りながらため息がでてしまう。
「どうしたんだ?彩花」
私の隣で料理を取り分けながら拓也さんが尋ねて来た。
「ううん…楽しい時間てあっという間に終わっちゃうんだな~って思うとつい…」
「彩花…」
拓也さんが目を見開いて私を見下ろす。
「な、何?」
すると満面の笑みを浮かべると拓也さんが私の頭を撫でてきた。
「そうか~俺とここで過ごす時間がそんなに楽しかったのか?」
「うん」
真顔で頷くと、今度は拓也さんが顔を赤くする番だった。
「え…?参ったな…。冗談で言ったのに…そんな真顔で頷かれるとは思わなかったな…」
「でも…本当の事だから」
ポツリと言うと、私は次の料理をトングで取った。
「そうだよな…彩花は昔から…」
「え?昔から?」
「あ…い、いや。何でもない。気にしないでくれ。さってと、それじゃ食事も選んだし、席に戻ろうか?」
「うん…」
拓也さんの背中を見ながら私は思った。
やっぱり拓也さんは私の事を他の誰かと勘違いしているのではないだろうか―と。
****
午後2時―
私と拓也さんはアパートに戻り、部屋の掃除をしていた。私は台所の掃除、拓也さんは床の掃除をしていた。
「ねぇ、家電を引き取りに来るリサイクル業者って何時に来るんだっけ?」
「14時半には来るって言ってたからな…もうすぐじゃないのか?」
床拭きをしながら拓也さんが答える。
「そっか…家電を運んでしまったら…本当にこのアパートは何も残らなくなるんだね…」
たっくんがここに住んでいたという痕跡が…。
「まぁ仕方ないさ。あの男は逮捕されたんだ、それに卓也はもう二度とあの男と一緒に暮らすことはない。アパートを借りるだけ無駄なことだからな」
「…確かにそうかもしれないけれど…でもやっぱりこの部屋からたっくんの痕跡が消えてしまうのは寂しいよ…」
「彩花…そう思うならさ…これからも…卓也に会いに行ってやってくれるか?…きっと喜ぶから…」
拓也さんは何処か寂しげに言う。
「うん、勿論会いにいくに決まってるよ。…拓也さんも来てくれるよね?」
「…」
拓也さんは返事をしない。
「拓也さん?」
「…ああ、行くよ」
そして寂しげに笑うと、再び拓也さんは掃除を始めた。
まただ。また…拓也さんはあんな顔を私に向けてくる。その表情で見られると不安な気持ちになってくる。拓也さんが何処かへ遠くへ行ってしまうような…。
「あ、あのね。拓也さん…」
言いかけた時―。
ピンポーン
アパートのインターホンが部屋に鳴り響いた。
「お?リサイクル業者が来たか?」
拓也さんは立ち上がると、扉へ向かった。
「…」
そんな彼の後ろ姿を私は不安な気持ちで見つめていた―。
「はぁ~…」
トングで朝食バイキングの料理を皿に取りながらため息がでてしまう。
「どうしたんだ?彩花」
私の隣で料理を取り分けながら拓也さんが尋ねて来た。
「ううん…楽しい時間てあっという間に終わっちゃうんだな~って思うとつい…」
「彩花…」
拓也さんが目を見開いて私を見下ろす。
「な、何?」
すると満面の笑みを浮かべると拓也さんが私の頭を撫でてきた。
「そうか~俺とここで過ごす時間がそんなに楽しかったのか?」
「うん」
真顔で頷くと、今度は拓也さんが顔を赤くする番だった。
「え…?参ったな…。冗談で言ったのに…そんな真顔で頷かれるとは思わなかったな…」
「でも…本当の事だから」
ポツリと言うと、私は次の料理をトングで取った。
「そうだよな…彩花は昔から…」
「え?昔から?」
「あ…い、いや。何でもない。気にしないでくれ。さってと、それじゃ食事も選んだし、席に戻ろうか?」
「うん…」
拓也さんの背中を見ながら私は思った。
やっぱり拓也さんは私の事を他の誰かと勘違いしているのではないだろうか―と。
****
午後2時―
私と拓也さんはアパートに戻り、部屋の掃除をしていた。私は台所の掃除、拓也さんは床の掃除をしていた。
「ねぇ、家電を引き取りに来るリサイクル業者って何時に来るんだっけ?」
「14時半には来るって言ってたからな…もうすぐじゃないのか?」
床拭きをしながら拓也さんが答える。
「そっか…家電を運んでしまったら…本当にこのアパートは何も残らなくなるんだね…」
たっくんがここに住んでいたという痕跡が…。
「まぁ仕方ないさ。あの男は逮捕されたんだ、それに卓也はもう二度とあの男と一緒に暮らすことはない。アパートを借りるだけ無駄なことだからな」
「…確かにそうかもしれないけれど…でもやっぱりこの部屋からたっくんの痕跡が消えてしまうのは寂しいよ…」
「彩花…そう思うならさ…これからも…卓也に会いに行ってやってくれるか?…きっと喜ぶから…」
拓也さんは何処か寂しげに言う。
「うん、勿論会いにいくに決まってるよ。…拓也さんも来てくれるよね?」
「…」
拓也さんは返事をしない。
「拓也さん?」
「…ああ、行くよ」
そして寂しげに笑うと、再び拓也さんは掃除を始めた。
まただ。また…拓也さんはあんな顔を私に向けてくる。その表情で見られると不安な気持ちになってくる。拓也さんが何処かへ遠くへ行ってしまうような…。
「あ、あのね。拓也さん…」
言いかけた時―。
ピンポーン
アパートのインターホンが部屋に鳴り響いた。
「お?リサイクル業者が来たか?」
拓也さんは立ち上がると、扉へ向かった。
「…」
そんな彼の後ろ姿を私は不安な気持ちで見つめていた―。
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