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第2章 56 話のきっかけ

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 彩花は真剣に料理の本を眺めている。

節約家の彩花の事だ。きっと本を買うのだって、慎重に吟味して選んでいるに違いない。

やがて、彩花は読んでいた本を閉じ…困った様子で棚の上を見上げている。

そうか…買うのをやめるのか。それで棚に戻せなくて困っているのか…。

俺がしまってあげればいいのだが、それだと彩花の様子を伺っていたことがばれてしまう。

彩花は…どうするつもりだろうか?

囲碁の本を眺めるふりをして様子を伺っていると、彩花はキョロキョロ辺りを見渡し始めた。
ひょっとすると踏み台を探しているのかも知れない。
しかし、ここは商店街の中にある小さな本屋。恐らく踏み台なんか置いてないはずだ。

俺が助けてあげられれば…。

そんな願いが通じたのか…ついに彩花が俺のことをチラチラと見始めたのだ。

そうだ!彩花!俺に…声を掛けてくれ!
そうしたら俺は…。

しかし、彩花は何故か一向に声を掛けずにただ時折こちらの様子を伺うだけだ。

もうこうなったら俺から動くしかない。

「ふぅ…」

小さくため息をつくと、本を閉じて棚に戻すと彩花の方を振り返った。

「!」

彩花の肩が小さく跳ねる。

「どうかしましたか?」

出来るだけ優しく尋ねた。

「あ、あの…」

余程言いにくいのだろう。そこで彩花が手にした本に視線を移した。

「それは先程の本ですか?」

「はい、あの…」

「ああ、分かりました。元の棚に戻したいのですね?いいですよ?本、貸して下さい」

「はい…」

おずおずと彩花は本を差し出してきた。
笑顔で受け取ると本を棚に戻し、彩花を振り返った。

「これでいいですか?」

「はい、ありがとうございます。あの…背が高いのですね」

彩花の方から話しかけてくれるなんて…!
小躍りしたい程に嬉しい気持ちを押さえて頷いた。

「ええ、182cmありますから」

「すごい…」

彩花は俺を見上げると、頭を下げてきた。

「どうもありがとうございました。失礼します」

え?!
その言葉に焦った。
そんな…もうこれで終わりなのかっ?!
だが、しつこいことをして…同じ失敗は繰り返したくは無かった。

「あ、は…はい」

仕方無しに返事をすると、彩花は背を向けて本屋を出ていってしまった。

「彩花…」

そしてそんな彼女を虚しく見送る。

だが、諦めるのはまだ早い。
何しろ俺は彩花の住むアパートの目と鼻の先に住んでいるのだから。
彩花とはもう顔見知りの仲なのだ。
明日偶然を装って再会すればいいのだから。

「彩花…明日、また会おう」

こうして俺も本屋を後にした―。
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