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10-7 裏切者

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 その頃―

オズワルドの私室にはロイの姿があった。


「何っ?!エルウィンの部隊と一緒にアリアドネを助けに行くだとっ?!」

オズワルドの部屋に怒声が響き渡る。

「はい。俺はアリアドネの専属護衛騎士ですから」

相変わらず氷のように冷たい表情のままロイはオズワルドを見ている。

「いつお前がアリアドネの専属護衛騎士になったのだ?勘違いするな。お前はミカエルとウリエルの専属護衛騎士なのだ。大体お前は南塔の騎士ではない!東塔の騎士であろう?分からないのか?我らは互いに対立関係にあるのだということに!」

バンッ!!

オズワルドはテーブルを叩きつけた。

「ですが、アリアドネは2人の専属メイドでした。俺がアリアドネから目を離さなければ彼女はダリウスに誘拐などされていませんでした。それに、こうなった以上、東も南も関係ないでしょう?」


珍しく饒舌に話すロイにオズワルドは不敵な笑みを浮かべると、とんでもないことを口にした。

「別に良いではないか…ダリウスがアリアドネを連れ去っても。放っておけば良いものを…わざわざ後を追うなど、実に馬鹿らしい」

「…何ですって…?」

ロイの眉が上がった。

「何しろエルウィンは自分の妻になるべく、長旅をして嫁いできたアリアドネに剣を向けて追い払ったのだぞ?それに今までずっとこの城で名前を偽って働いていたことが分かっていたのに奴は知らんふりをしていたのだ。それなのに誘拐されたからと言って、何を今更…助けに行くなど…」

「…」

ロイは黙ってオズワルドの話を聞いている。オズワルドの話は尤もなので、何一つ言い返すことが出来ないのだ。

「その点ダリウスを見て見ろ。一国の王子でありながら、この城に下働きとして潜入し…アリアドネを気にかけて色々と面倒を見てきたのだぞ?エルウィンよりもよほど彼女のことを大切にしている。ダリウスは言っていた。自分の国に連れて帰り、妻にするとな」

「!」

その言葉にロイが素早く動いた。
脇に差していたダガーを抜くと、オズワルドの眼前に突き付けていた。

「……」

ロイは怒りに燃えた目でオズワルドを睨みつけている。

「腕を上げたな…?ロイ。だが、一体これは何の真似だ?」

「やはり…あんたがダリウスに手を貸したんだな?」

ロイの声は殺気に満ちていた。

「ほ…う。久しぶりだな。お前がそのように反抗的な態度を見せるのは…まるで初めて出会った頃のようだ」

ダガーを突き付けられているにも関わらず、オズワルドは堂々とした態度を見せている。

「そんな話はどうでもいい…俺の質問に答えろ。あんたが仕組んだのか?」

すると何が面白いのか、オズワルドは益々口角を上げた。

「ああ、そうだ。俺がダリウスを手引きした。何しろダリウスは喉から手が出る程にアリアドネを欲していたからなぁ?しかし…エルウィン達、何をぐずぐずしておるのだ?急がないと強引にダリウスはアリアドネに手を出すかもしれないと言うのに…」

「何だとっ?!」

ロイが声を荒げた時―。


「「オズワルド様っ!!」」

2人の騎士が騒ぎを聞きつけ、駆けつけてくるとあっという間に床の上にロイを抑えつけてしまった。

オズワルドは満足げにその様子を見ながら立ちあがり、ロイの傍に近寄ると見おろした。

「忘れたのか?ロイ。盗賊に襲われ…焼かれた村からお前を救い出したのは誰なのか?お前をここまで育て上げたのは誰なのか…。それに…いいか?アリアドネはお前の姉ではない。お前の姉はあの村で死んだのだ。それを忘れるな」

「!」

その言葉にロイはビクリとした。

「オズワルド様。ロイをどうしますか?」

1人の騎士が尋ねて来た。

「取り合えず、エルウィン達が出発するまでは地下牢へ放り込んでおけ」

「はい!」
「承知いたしました!」

2人の騎士は無理やりロイを立ち上がらせると両手を後ろ手に縛り上げた。

「さっさと歩けっ!」
「行くぞっ!」

無抵抗のロイは無理やり引き立てられるようにオズワルドの私室から連れ出されていった―。



「フ…全く朝から城内が騒がしくてたまらん‥‥だが、全て計画通りだ…。見ていろよ、エルウィン…」

オズワルドは冷たい瞳で城の外に目を向けた。

そこには慌ただしく、出立の準備をする南塔の騎士達の姿があった―。


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