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目指せ、義弟以上
しおりを挟む義父からあと二年、と言われた時、僕なりに頑張ってアデラインとの距離を縮めようと決心した。
それであの夜、挑戦してみたのだ。
ほっぺたにキス。
家族のフリをして、いかにもただの挨拶のように見せかけて、でも少し意識してもらえるように。
真っ赤になった顔を見て、手応えを感じて、すごく嬉しくなった。
傍にいて安心できる存在。
それは、確かに家族として大事な要素だと思う。
そう思ったから、ずっとそれを心がけてきたけど、ここからは更に一歩進む。
僕は、義弟以上を目指すのだ。
まずは、一緒にいて少しだけドキドキしてもらえるように。
そう、この『少しだけ』がポイントだ。
いきなり本気出してやりすぎたら、逃げられちゃうからね。
僕の大好きなアデライン。
僕といる時には、いつも心穏やかに笑っていてほしい。
だけどね、少しでいいんだ。
そこにときめきを感じてほしい。
家族といる時の安心感と、異性といる時のときめきとを、両方感じて欲しいんだ。
だからまずは、この挨拶を定着させることにした。
「お休み、アデライン。良い夢を」
そう言って僕は、毎晩アデラインの頬にお休みのキスを落とす。
最初はそっとキスをするだけだった。
それから、片手を頬に添えるようになって。
その後は、両手で顔を包み込むように。
昨夜は、お休みのキスの後にこつん、とおでこをくっつけてみた。
今晩も楽しみで仕方がない。
やりすぎたら一瞬で終わりだから、少しずつ、本当に少しずつ、距離を縮める。
なにせ、ここまで来るのも長い道のりだったもの。
ねえ、アデライン。
僕はね、本当はもっと君に触れたいんだ。
そんな事を言ったら、きっと怖がられちゃうから絶対に言えないけどね。
君の目には、僕は無邪気な可愛い義弟にしか見えないかもしれないけど、僕の内側は君の最愛になりたくて、ドロドロした気持ちで溢れかえっているんだよ。
君にはとても見せられないような、男としての欲望が。
純粋で清らかな君は、そんな僕を知っても許してくれるだろうか。
そんな事を思いながら、僕はひっそりと溜息を吐く。
いつか、君が僕の想いを受け止めてくれるといいな。
うん、そんな時が本当に来るといい。
夕食の後、サロンでお茶を飲みながら僕とアデルはお喋りを楽しむ。
そして九時になるとそれぞれの部屋に戻る。
義父から結婚の話を改めて持ち出された後、僕とアデラインとの距離は少し微妙なものになった。
そのどさくさに紛れて、ほっぺたにキスしたんだけどね。
あの時は心臓がドキドキして苦しくて、僕はもしや明日には死んでるんじゃないかって心配になったけど、こうして無事に生きている。
そして今夜も僕はアデラインの頬にキスをするんだ。
「お休み、アデライン」
両手を頬に添えて、アデラインの頬に唇を落とす。
真っ白な肌が、ほんのりと色づく。
キスした後も直ぐには離れず、おでこをこつんとくっつけて、アデラインの綺麗な目を覗き込む。
銀色の瞳がお月さまのように綺麗で、見ていると吸い込まれそうな気分になる。
大好きだよ、そう言ったら君はまた、困った顔をするのだろうか。
「・・・良い夢を」
だから今はまだ、挨拶の言葉だけを口にする。
義弟としての立ち位置を利用する、こんな腹黒い僕をどうか許して欲しい。
アデラインは顔を赤くして、もじもじと恥じらって、それから小さな声で「お休みなさい」って返してくれる。
これがまた、心臓が止まりそうなくらいに可愛いのだ。
結婚にこぎつける前に心臓麻痺で死なないように気をつけなければ、と心配になるくらいの破壊力だ。
ねえ、お願い。アデライン。
いつか、君の唇にキスをさせてね。
それを許してもらえるように、僕は頑張るから。
部屋に入るアデラインを見送って、僕も自分の部屋へと向かう。
今は、まだこれだけ。
・・・でも、いつか。
そんな希望を胸に、自分のベッドに倒れ込む。
だってアデルの表情を見ると、真っ赤ではあるけど、嫌がってはいないと思うから。
・・・多分、いや、きっと。
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